『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』オリジナルライナーノーツ
正直、期待していなかった。
太客になって7年7ヶ月。
なんだか最近のクリープハイプに
私のピントが合わなかった。
TikTokでバズり始めてから
明らかにファン層が変わったし
新規ファンの獲得に
マーケットが動いた感じがした。
Kアリーナでの15周年ライブで
圧倒的な存在感となったクリープが
私に教えてくれた。
「あぁ、クリープハイプは
クリープハイプっていう商品になったんだな」
そう思った。
クリープハイプだけのクリープハイプではなく
ファンやお仕事で支える人たちにとって
クリープハイプはなくてはならない存在だ。
クリープハイプのおかげで救われた
私がいるように
クリープハイプはたくさんの人を救う光だ。
それが本当に良くわかった。
すごいな。
だって「もっと売れたい」って言ってたから。
ちゃんと実現してる。
好きだった人が好きだったバンド。
それがクリープハイプ。
癖が強くて変な声で、でもなんか優しくて。
突き放すようでずっと寄り添ってる。
心が渇いてヒリヒリしたところに
その変な声が
あの手この手で手当てならぬ
声当てをしにきてくれる。
音楽にかたちはない。
どんな声もどんな音楽も
その人にとってのかたちに合わせて
心に入り込んでくる。
初めてこのアルバムを聴いた時に
確信めいたものを感じた。
尾崎世界観が尾崎世界観として
歌うことの覚悟が
力強いけど優しく散りばめられている。
感動で震えた。
悶えた。
期待してなかった私を殴りたいくらい。
『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』
これは尾崎世界観からの手紙。
思うように歌えなかった悔しさとか
伝えたいことが伝えられないもどかしさとか
とげとげしたものが丸くなって
今この時点でのクリープハイプらしさが
全面に出たアルバム。
01.ままごと
キャッチーなメロディー。
かわいい2人。
まさにクリープハイプが得意とする世界観が
そこにある。
世の中から少し距離を取り
お互いの体温を感じて
子供みたいな大人みたいな2人だけの関係。
大好きで愛おしくて、でもやっぱり未熟で、
大人からしたら
くだらないおままごとかもしれない。
だからこそ、2人だけでいよう。
誰にも邪魔されないように。
02.人と人と人と人
疾走感のあるメロディーに乗って
切なさが駆け巡る曲。
街にはこんなにも人がたくさん溢れているのに
どこへ行っても誰も私を知らないし
気にも留めない。
まるで私なんて存在しないみたいに。
スマホの中に何でも詰まっていて
人に会わなくても生きていけてしまうから。
だけど寂しい寂しい寂しい。
どこに行けば出会えるのだろう。
03.青梅
青梅はマッチングアプリ『pairs』との
タイアップだった。
耳にした瞬間から爽やかで
甘酸っぱくてクセになる。
レモンじゃなくて青梅を選んだところに
尾崎世界観のセンスを感じる。
まだ熟してない青い梅と青春と夏。
やっと出会えた運命かもしれない人と
一夏の恋でも楽しんでね♡
04.生レバ
イントロのベースが圧倒的にかっこいい!!
Kアリーナで聴いたときは
衝撃で身動きが取れなかった。
「なんだこの歌は?」
「何を言っているんだ?」
歌詞を聴き取れないのにその聴き取れなさが
かえって耳馴染みが良く
音の羅列がおもしろい。
05.I
2020年の空音との「どうせ、愛だ」を
新たに解釈してリリースした曲。
空音のイメージが強かったのだが
クリープハイプらしくアンニュイな感じが好き。
愛が足りない。
Iじゃ足りない。
君が好きなのに。
報われない恋を神様に八つ当たりしても
結局足りないのは君で、愛で、
I(自分)じゃダメなんだ。
06.インタビュー
インタビューの受け答えで
一生懸命に言葉を選ぶ
尾崎世界観だからこそできた曲だと思う。
斜め上を見ながら
少しずつ丁寧に言葉を紡ぎ出す。
尾崎世界観はそんな人だ。
そしてきっと「うまく伝えられたかなぁ」とか
「あのときこう答えれば良かったかなぁ」とか
ずっと頭に残るんだろう。
だからこの曲はすごく優しい。
言葉をリスペクトする人の優しい歌だ。
07.べつに有名人でもないのに
クリープハイプの曲は
過去の思い出とともにある。
初めて聞いた曲なのに
私の頭の中を覗いたみたいに
心情をピタリと言い当てる。
「いつかまた会えたらってそれが嬉しい」
私の好きな人が
他の誰と居ても幸せでありますように。
08.星にでも願ってろ
長谷川カオナシworld全開のこの曲。
おとぎ話みたいなマザーグースみたいな
独特の世界観がジワジワと侵食してくる。
油断するとすぐ引き摺り込まれて
沼ってしまうの。
09.dmrks
同じフレーズの繰り返し
クリープハイプの得意技だ。
テンポが良く思わず体を揺らしたくなる。
何を検索しているのだろうか。
まさかエゴサ??
見たくないものを見てしまった
後悔と苛立ちがdmrksに集約されている。
10.喉仏
外交型と内向型のどちらかと言えば
きっと内向型の歌なんだろう。
頭の中は思考で渦巻いていて
でも言葉には出さなくて。
心の中で何を考えているのかわからない。
でもそんな人の思考はとても深くて
時に真理をついている。
その喉仏に隠している、本音を知りたい。
11.本屋の
とにかく演奏の抜け感が素敵!!
365日とページ数をかけているところも
尾崎世界観らしくて好き。
本はいつも日常にあって
もはや人生そのもので
だけどときどき忘れてしまうこともあったり。
本を買うことが嬉しいし
本と自分は切っても切れないような関係で
本屋にまつわるエピソードが愛おしい。
12.センチメンタルママ
39度も熱があったらそりゃしんどいよね。
熱があってけだるい感じと
吐き捨てるような歌詞の言葉遊びが楽しくて
挫けそうだけど負けたくないみたいな
ちょっと相反する気持ちを
アップテンポな曲でうまく調和してる。
楽しい。
13.もうおしまいだよさようなら
曲調が「大丈夫」に似ているのに
歌詞の内容はまったく逆で
「大丈夫」が寄り添っている歌詞なのに対して
「もうおしまいだよさようなら」は
文字通りお別れをしている歌詞である。
でもお別れを告げているのに
なんとなく優しい感じがするのは
きっと嫌いになって別れるのではなく
お互いの成長のために別れるんじゃないかなと
私は思った。
永遠のさようならではなく
またねのさようなら。
14.あと5秒
恋心をMVに重ねる発想が天才だと思った。
男女が歩くMVと言えば
私の中では『本当』を彷彿とさせる。
たった5分を歩くだけなのに
震える想いが伝わってくる。
でも自分は広告と知ってしまう。
いったんMVを停止するが
矢印に触れれば
自分の存在は流れ去ってしまう。
分かっていて自ら終わらせる勇気に
胸が切ない。
15.天の声
「こんなところに居たのかやっと見つけたよ」
アルバムタイトルにもなっているこのフレーズ。
ファンの中では
“自分のことを見つけてくれた”
そう思っている人が多いと思う。
もちろんそれもひとつの側面。
たくさんの人にクリープハイプの音楽が
届くようになった。
15周年LIVEでは、Kアリーナを満員にした。
ここまで辿り着くには色々なことがあって
思うように自分自身を
貫き通せないこともあったのではないか。
売れようとして「桜散る」とか
歌ってみたけれど
クリープハイプはクリープハイプだから
素晴らしいし尊いんだとわかった。
だから「こんなところに居たのか
やっと見つけたよ」は
クリープハイプ自身のことを
指しているんじゃないかと私は思う。
曲が終わる毎に尾崎世界観は
「ありがとう」と言う。
ひとつとして同じ「ありがとう」はなく
心がしっかりこもっている。
あまりMCでたくさん語るバンドじゃないけど
その分、曲とこの「ありがとう」に
愛がギュウっと詰め込まれている。
私たちはその愛を確かに受け取って
次のLIVEまでの日常を生きて行く。