ハナコのコントでレポートを書いた大学生が好きなコントについて語る

祝・ハナコ秋山結婚。このニュースを目にした瞬間、私の頭の中の岡部が「ひろきー!おめでとうー!」と叫んだ。岡部本人のTwitterを見たら「ひろきーーーーーーー!!!!!おめでとーーーーーーーー!!!!!ひろきーーーーーーーーー!!!!!」という声量が画面越しに伝わってくるような文言の後にハッシュタグでひろきと添えられたツイートがあった。事実は小説より何とやら。

さて、今回は秋山の結婚に対するお祝いムードの勢いで好きなハナコのコントについて語る。私はハナコのコントが好きだ。現場に行けているわけではないのであくまでライトに楽しんでいるが、とある授業の3200字の期末レポートでハナコのコントについて書き、最終的に泣く泣く大幅に字数を減らす作業をしたぐらいには彼らのコントに魅せられている。彼らのコントの魅力はその演劇性の高さにあり、特に観客の思考への理解やその活用の仕方に非常に長けていると感じる。今回はこの観点において私が好きなコントを1つご紹介したい。

それは『食育』というコントだ。小学校のクラスで今まで育ててきたブタを食べるべきか否かを話し合うという、映画『ブタがいた教室』から着想を得たであろうコントである。ハナコの公式YouTubeチャンネルで視聴できるので、まだ観ていない方は今すぐ観ていただきたい。以下、多分にネタバレを含むのでUターンするなら今のうちだ。


ここから先は既に『食育』をご覧になった方しかいないという前提で話を進める。ハナコといえばご存知の通り3人トリオであり、しばしばコント内において「3人目」である菊田の使い方の面白さが評価されているが、『食育』の見どころは3人に留まらない不可視の「4人目以降」の存在の使い方にある。

まず下手側に担任役の岡部が立ち、上手寄りに生徒役の秋山と菊田が座っているという構図でコントが始まる。岡部がこれから行われる話し合いの内容について生徒たちに説明するので、観客は今から目の前で小学校の学級会が行われるということを理解する。この時点で観客の脳内に学級会の様子がイメージされることで、秋山・菊田以外の生徒の存在が意識される。その後学級会が始まり、学級委員長役の秋山が皆の前に出て、ブタのピーちゃんを食べるべきか否かについて挙手による意思表示を求める。食べるべきの方で手を挙げる菊田。舞台上に漂う重苦しい雰囲気。『ブタがいた教室』のイメージもあり、クラス内で意見が割れてその後話し合いが紛糾する様子が観客の脳内に思い浮かぶ。その後の秋山の一言。

「全会一致で食べます。」 

その一言をきっかけに観客の脳内イメージはガラリと変わる。観客には菊田しか見えていなかったがために勝手に票が割れていることを想像してしまっていたが、実際には菊田以外の全ての生徒も食べるべきの方で挙手していたのだ。この観客の想像を裏切る掴みは非常に鮮やかである。その後、全会一致に岡部が戸惑うくだりでもいくつか「4人目以降」が感じられるポイントがあるが、細かいのでここでは割愛する。

そして「もっと色々な話し合いが行われるべき」という岡部の言葉を受け、秋山が更なる話し合いを始める。議題は「どうやって食べるか」について。ここでも予想を裏切られる。すかさず「ソテー」を提示する菊田。小学生にしては渋いチョイスだ。秋山が絶えず見えない他の生徒を指しながら絶えず料理名を言っていくことで、クラス全体から様々なピーちゃんの調理法が上がっていることが分かる。また、「ラフテー」の意味を岡部に尋ねることで、「ラフテー」なんてマニアックなものを提示する生徒の存在が明らかになる。この部分も「4人目以降」の存在感を利用して笑いを生み出している。その後、岡部がピーちゃんを食べるということは「命を戴く」ということなのだと生徒たちに説くと、菊田が泣き始める。菊田に涙の理由を尋ねると「ソテーで食べたい!」と言うので、ピーちゃんの命について考えて泣いているのではなく、ソテーで食べたいのに他の調理法に勝てなさそうだからないているのだということが分かる。このくだりは「4人目以降」には関係無いが、後々の笑いどころに関連してくるので触れておく。

その後も話し合いをさせたい岡部と絶対にピーちゃんを食べたい生徒たちの間で言葉の応酬があるが、生徒たちの心は一向に動かせない。そこで何かを思いついた岡部がちょっと待っててくれと言って教室を出ていく。教師が不在の間、秋山の「今カツレツが優勢ですが」という台詞を皮切りに調理法についての議論が再開される。すかさず「ソテー!」と主張する菊田。そして始まるソテーコール。どうやらカツレツとソテーの一騎打ちになったらしい。そして戻ってきた岡部が「うるさいうるさいうるさい!」とソテーコールを止めさせて一言。

「学校中にソテーソテーって響き渡ってたよ!」

ここで「響き渡ってた」とした部分は動画ではよく聞き取れなかったのだが、文脈からしてこのような意味の言葉が入ると考えられる。この台詞によって、これまで想定されていた「4人目以降」の範囲がクラスから学校へと拡大される。廊下中に響き渡るソテーコール。他のクラスで授業をする教師や生徒にも聞こえ、窓から顔を出して確認しようとする生徒や授業が中断されてしまったクラスが想像されるのだ。また、当初は菊田が泣いてしまうぐらい劣勢だったソテーがソテーコールによってクラス内の半分を占める程の勢力へと成長しているという事実も、その過程を想像すると面白い。

舞台上にはたった3人しかいない。しかし、台詞や動きによって「4人目以降」のイメージが明確になり、「4人目以降」の彼らが笑いを生み出すことさえある。言ってしまえば観客の想像上の登場人物に笑いを取らせているのだ。しかもそのイメージはコントが進むにつれ明確になったり拡大したりする。観客の想像力を最大限に利用したこの構成に、私は美しさすら感じる。結成4年目で取ったキングオブコント王者という称号は決して伊達ではないのだ。

今回は『食育』を取り上げたが、ハナコのコントには他にも魅力的なものが沢山ある。今までもハナコに注目していたという方にはオススメのコントを教えていただきたいし、逆に注目していなかったという方で少しでも興味を持ってくださった方がいらしたら、公式YouTubeチャンネルに様々なコントが上がっているので、これを機にハナコのコントを沢山観ていただきたい。また、ハナコ秋山とゾフィー上田、ザ・マミィ林田、かが屋加賀の4人のユニットである「コント村」から派生した『お助けコントット』や『東京BABY BOYS 9』なども今ちょうど激アツの状態である。かが屋の加賀は休養中のため完全体とは言えない状態で破竹の勢いであるため、加賀が復帰したときにボルテージが最高潮を迎えるに違いない。若きコント師たちの活躍から今後も目が離せない。

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