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決断の時

前回、書かせて頂きましたように、流石に現地確認無しで契約するのはリスクが高すぎるので入国規制の緩和を期待し、少し様子を見ることにしたのだが、入国規制が緩和される気配は1ミリもなかった。むしろ、中国本土同様、ゼロコロナ政策が上手く機能していたので、コロナが増えまくっている他国からの受け入れに関しては益々厳しさを増すことすら予想された。
一方で、生き馬の目を抜くような壮絶な香港の不動産業界の方々が、こちらの入国を待ってくれるはずもなく、「今月中で仮契約と仮契約金20万ドル(当時のレートで約300万円弱)を支払わなければ、この物件は他の方に紹介します。ちなみに、既に興味を持っている方は数組おります。」と、本当か嘘かは解らないが激しく揺さぶりをかけられた。そして、その時点で今月中と言うのは、あと10日しかなかった。仮契約をすると、本契約迄、最長で約2ヶ月の猶予が与えられ、その間にキャンセルすることもできた。しかし、当然ながら、キャンセルしたら、仮契約金は戻ってこない。そうこうするうちに、あっという間に1週間が経ち、いよいよ、締め切りが目前まで迫ってきてしまった。そして、かなり、迷ったが、2ヶ月以内に入国できるようになることを祈って仮契約をすることにした。

以前のテナントは香港によくあるヨーロピアンテイストの家具屋さん

仮契約後も予想通り、入国規制緩和の気配は1ミリもなかった。そこで、自分で見ることは半ば諦めて、僕の右腕と言っても過言ではない、日本にいる香港人スタッフK君にまずは現地視察をしてもらうことにした。当時は、香港入国に当たっては香港人と言えども隔離があり、しかもホテル隔離3週間という絶望的な隔離で、心から申し訳なく思ったが、僕自身は何をどうやっても入国することができなかったので、彼にお願いするしかなかった。そして、心苦しく思いながらも早々に香港に飛んでもらい、入国後の3週間のホテル隔離を経て、半ば廃人のような状態になってしまったK君に、これまた心苦しく思いながらも当該物件はもちろんの事、周辺の画像や動画の生配信等をしてもらいつつ、本人の意見も参考にして、様々な角度から検証した。とは言っても、コロナの先行きを見通せるはずもなく、現地の情報も限られていたため、正直、緻密な検証からは程遠いものであったが。
仮契約から2ヶ月、ギリギリまで粘ったが、やはり、僕自身の入国は叶わず、ご察しの通りエイヤーと勢いで本契約をすることにした。リスクの塊のようなこの契約に、当然のことながら、僕以外は皆反対で、何なら、不動産屋までもが、どうせキャンセルするだろうと思っていたようで、本契約をすると言ったら予想以上に驚かれた(笑)もちろん、僕の中でも挑戦してみたいという気持ちだけではなく、相当なリスクがあることは認識していたが、ジリ貧の現状と今後の事を考えると、このタイミングで一歩踏み出すのか、踏みとどまるのかの二択であれば、踏み出すしか選択肢がなかったとも言える。その後、本契約を済ませ、既存テナントの撤退時期に合わせて、店舗のリノベーションや展示用商品の製作や発注等のスケジュールを組み、星まわりの良い日と言う事で11月12日(金)のオープンを決めた。それと同時に、不確定要素の大きい上海の10月末でのクローズも決めた。

もはやブルース・リーの名言「考えるな、感じろ」の心境

オープンまで約半年とある程度の余裕はあったが、何しろ遠隔操作だったため何かと不安もあり、あらゆることを可能な限り前倒しで進行していった。その中でも一番重要だからこそ不安も大きかったのは、店舗リノベーションによる内装であった。やはり、自分自身が現地を見ていないので、正直何が正しいかが解らなかった。しかしながら、この点においては、まさに「救世主現る」であった。香港の兄貴と慕う、デザイナーのM氏が格安で店舗デザインを引き受けてくれたのである。当初は、予算的にかなり厳しいため、M氏にお願いすることがはばかられ、現地の若手デザイナーにお願いして、こちらの指示通りにリノベーションすることも検討していたが、M氏にアドバイスを依頼したところ、「そんなことなら俺がただ同然で、やってやる」とスーパー男前なご提案を頂き遠慮なくお願いすることにした。
 そして、その後の現地調査から提案までのスムーズな流れは本当に素晴らしいものであった。特に、今回のリノベーションにおいては、その数年前に道路の拡張工事によって解体を余儀なくされた門間屋の本店であった登録文化財の古民家において使われていた建具類を活かしつつ、和に寄り過ぎないジャパニーズモダンな空間を創るというのがメインテーマだったため、日本の建築にも精通しているM氏でなければ出てこない素晴らしい提案をしてくれたことには感謝してもしきれないくらいである。

門間屋の旧本店、この素敵な建具達を香港で再利用

 8月には内装デザインも確定し、それに伴い、日本から送る資材や商品等の手配も完了し、諸々順調に進んでいた。その間も、香港はゼロコロナ政策が奏功しており、僕の中でのオープンへの期待が益々高まっていった。前のテナントも9月末で撤退し、10月に入りいよいよ内装工事が始まった。11月中旬の完成を目指していたので、僕自身もその1週間前には隔離を経て現地入りするスケジュールを組んでいた。ちなみに、このタイミングでの隔離はホテルで2週間であった。この時は、未知なる体験であるホテル隔離への恐怖を多少は覚えながらも、新店舗への期待がそれ以上に大きく一刻も早く香港入りしたい気持ちでいっぱいであった。当然のことながら、この後に、まさかの予期せぬ出来事が起こるとはつゆにも思っていなかった。

仮囲いが付きいよいよリノベーション工事が開始!!

続きは次回以降で書かせて頂きます。

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