香港での提案型の売場への挑戦
遂に12月のポップアップが始まった。期間は2週間。今回は、満を持して、箪笥以外にも無垢材の家具を投入し、簡単ながらもルームシーンを組んだ提案型の売り場構成とした。しかも、展開スペースも今までのエスカレーター脇の細長いキッチン用品の売場ではなく、マットレス等のあるリビングフロアのど真ん中の四角いスペースをもらえた。ただ、ルームシーンを組むには広さ的に限られていたため、日本のショールームに比べて見劣りする感じではあったが、それでも、今までのスペースや展示に比べればかなり良い感じに仕上がっていた。
やはり、四角いスペースなので、お客さんが中に入ってくる感じがあり、通路に面した何となく通りすがりに見てる感のある細長い売場では感じられない臨場感があった。特に、家具は実際に触ったり、座ったりするためお客さんの反応もビビットなので、話も弾みやすく営業がしやすかった。かといって、流石にすぐに売れる訳ではなく、もどかしい数日を過ごしたが、その間にも、かなりの来店があり手応えは十分であった。特に、ソファは日本でも人気が高い羽毛入り、かつ、なめし革の高級ラインだったため、かけ心地も抜群でお客さんの評価もかなり高く、すぐにでも売れるのではないかと言う勢いすらあった。ところが、これが中々決まらないのである。それもそのはずで、価格が日本の2倍以上の80万円越えのため、いくら気に入ったからと言って、流石の香港人も美術品でもない、つまりは投資性の低い自分用の一人掛けソファに、その金額で即決できるものではなかった。まあ、もっと言うと、買えない金額ではないが、その金額で買う気はないので、まずはその場でお決まりのジャブ程度の値引き交渉が始まり、一旦出直し、翌日以降に激しい値引き交渉が繰り広げられるのであった。この状況はある程度は、想定していたため、価格設定自体は間違っていなかったが、それがゆえに、中々決まらない状況も生みだしていたので、内心価格設定を間違ったのではないか等やや悶々としていた。
そして、そのようなお客さんが数組出現し、そろそろ、決まるのではないかと言うタイミングが近づいてきた。一方で僕の帰国も近づいてきており、どっちが先かと言う状況となっていた。無駄な値引きはしたくないが、自分がいるうちにどんなお客さんが、何で買ってくれたのかを直接聞きたいと言う思いもあり、価格交渉を脇で見つつ、「そろそろ、決めてくれ~!!」と心の中で叫んでいた。そんな中、遂にハンマープライスされた。購入者は、ご夫婦で来店された60代前半のご婦人で、2度目のご来店であった。一度目は、一人で来ており、今回は、購入を決定するにあたってご主人も連れてきていた。ただ、ご主人は、特に発言するでもなく、とりあえずいると言う感じで、この状況には、ある意味、万国共通のうまくいく夫婦関係の秘訣を見た気がした(笑)。購入理由は、マッサージチェアの購入を検討していたが、このソファのかけ心地に惚れてしまい、マッサージチェアを辞めてこちらのソファにしてくれたとのとても嬉しい理由であった。更に、値引き率も、想定の範囲内に収まっておりこれまた嬉しい結果となった。
そして、時を前後して、海外用に少しお求めやすい価格になるようにオリジナルで開発したダイニングセットもハンマープライス。お求め頂いたのは、2回目のご来店のご家族で、他の家具屋さんでもっと安いダイニングテーブルの購入を検討していたが、品質とデザインが明らかに良いのでこちらにしてくれたとのこれまた嬉しい理由であった。こちらも、値引き率は想定の範囲内で収まり、初めての家具の取り扱いは大成功と言っても過言ではない状況で幕を閉じた。更には、箪笥も売れ、家具に関しては完売後の問い合わせも多く、海外での提案型の売場への予想以上の手応えと可能性を感じることができた。
上記の結果は、こちらだけではなく、百貨店サイドから見ても想定以上だったようで、これを機に短期のポップアップにおいて、従来よりもかなり長い、半年単位の長期のポップアップの話が浮上し始めたのであった。更には、場所も通常のポップアップスペースではなく、何と隣の常設スペースでの展開であった。どうやら、常設スペースで展開していたショップの売上が芳しくなかったようで、そのタイミングでのまさかの門間屋のブレイクが生み出した千載一遇のチャンスでもあった。こちらとしては、願ってもないチャンスではあるものの、一方でかなりのリスクでもあった。万一、想定通りに売れなかった場合、初期投資はもちろんの事、月々のランニングコストもバカにならないため、半年後には相当なマイナスを被ることになる。更には、次のチャンスも訪れなくなる、つまりは、香港マーケットからの事実上の撤退を意味するのであった。そのような状況のため、決断には時間を要したが、長期的に考えて、今後も海外を本気でやっていくのであれば、今回のチャンスを逃した場合に失うモノの方がよほど大きい事に気が付き、実施を決断した。そして、それと同時に海外を本気でやっていくと言う視点に立ち、以前から弊社への入社を希望していた香港の販売スタッフK君の日本での採用も決定した。上記の2つの決断はそのリスクの大きさから、周りからは、大反対であり、それが理由で辞める人間もいたほどであった。しかしながら、上記2つの決断が正しかったことは程なく証明された。
長期のポップアップ開始からそれ以降の話に関しては次回以降で書かせていただきます。