チャンスは平等にある、それをどこで掴むかだ 〜職場のスペイン人シェフと世界和食コンテストに参戦した話〜
日本の農林水産省が主催する海外の日本食シェフを対象にした世界和食コンテスト、Washoku World Challengeをご存知でしょうか?
今回職場のシェフがこのコンテストのヨーロッパエリアの決勝に進出することになったので、通訳係として先日11月6日、ロンドンまで行ってきました。
7年間和食をやっているけど日本に一度も行ったことがなく、「行くなら絶対に、常日頃僕と僕のレストランを応援してくれている家族全員を連れて行きたい、でも裕福でもない僕にはそんなことは無理だ。日本行きは夢のまた夢なんだ」と言い張るシェフ、セルジ。そんな彼の様子を普段から見ていた中、このコンテストの広告を見つけた。
応募締め切りの4日前のことだった。
詳細を見るとなんと優勝賞品は京都の料亭で2週間の研修にご招待とな!
私は彼の丁寧に取るお出汁、佃煮、きんぴらが大好きだ。
“彼ならいける”と思って背中を押した。
「僕なんかが通るわけない」と言いながらも目を輝かせながら作った一次審査用の料理。
申込締切前日。いざ作った料理の写真とレシピを送信しようとコンテストサイトの送信ボタンを押すと、、、
なんにも反応しない!!!((((;゚Д゚)))))))
画像の容量が大きすぎるのか他に不備があるのか確認するも不備無し!でも申込できない!
「今回は縁がなかったってことだよ」なんて言い出す彼。
「アホか!こんな時は連絡先探して直接問い合わせなりメッセージすんねん!”なぜか送信できないんですが、なんとか他の方法はないでしょうか、私どうしても参加したいんです!”言うて!!!え?僕、英語も日本語もできない?私が書くやんか!言いたいことだけちょうだい!訳すから!はよ、今すぐ!」
そんなバタバタの応募から始まった今回の大会。笑
幸運にも選考に通り、ロンドンで開催されるヨーロッパファイナル行きが決まった。
”ロンドン!ロンドンだぜ!”とレストランで飛び跳ね、その日から"グッモーニンッ、アイムセルジ"なんて急に英語喋り出したりして。笑
そして来たるコンテスト当日。
結果、セルジは3位入賞。
予想以上にレベルが高かった・・・。
優勝してシェフの夢である日本行き!を叶えることはできなかったけれど、彼が普段から昆布、しいたけ、鰹節から丁寧に取っている出汁を誉めてもらえたのはとっても嬉しかった。
コンテストの後、審査員として来られた海外で活躍する一流シェフ3名(菊乃井や神田川さんの元で研鑽を積んできたような方々)によるワークショップがあり、それがまた素晴らしかった。
実際にキッチンで作りながら試食もさせてくれ、レシピも公開してくれ、質疑応答もあり、各国のシェフたちは真剣な眼差しで学んでいた。
何かを学びたいと輝く目とはなんて美しいんだろう。
ワークショップの中の一品であったシンプルなお野菜の炊き合わせを食べた瞬間、日本に舞い降りたかと思った。日本の情景が浮かんだ。そしてこんなにシンプルなのになんて美味しいんだろうと驚いた。
ワークショップ中、繰り返し言われていた以下のことを聞きながら、そしてそれを実際に五感で感じる一品を味わいながら、和食は誇るべき文化遺産だなと、久しぶりにw 故郷に対して誇らしい気持ちになった。
和食の本気を見た、感じた、瞬間だった。
今回のコンテスト出場者はうちのシェフスペイン、優勝者の女性もスペイン、あとはポーランド、ブラジル出身ベルギー在住の方、香港出身イギリス在住の方、イタリアのシェフの5人。
審査員はJALファーストクラスのメニューを担当&ロンドンで懐石料理屋を構える林 大介氏、ドイツデュッセルドルフNAGAYA 長屋佳澄氏(セルジが彼の料理に感動しまくっていた)、スペインで日本人初のミシュラン一つ星を得たレストランKoy Shunkaの松久秀樹氏と豪華な顔ぶれ。
参加シェフたちのストーリーを伝えようと現場で奮闘していたジャーナリスト、写真家の方たち。
沢山の方との出会いや、興味深いお話の数々を通して、次へのステップに向けてインスピレーションを得られた意義あるロンドン滞在となった。
今回セルジは自分が入賞するなんて思いもしていなかったらしく、「僕は嬉しい、嬉しいよ!」と満面の笑みを浮かべていた。そんな彼を見て私もとても嬉しかった。
日本に行くタイミングはきっとやって来るだろう。
でもセルジ、一緒に覚えておこう。審査員の林氏が言っていたあの言葉を。
「チャンスは平等にある、それをどこで掴むかだ」
あなたのタイミングで、あなた自身の手でぎゅっと掴むんだ。
私も自分に同じ言葉を言い聞かせながら、また鼻息荒くスペインへと帰っていくのでした。