がんをピンポイントで破壊するという最新がん治療“ホウ素中性子捕捉療法”
がん細胞だけを狙い撃ちし、ピンポイントで破壊できる!
今月1日、国立がん研究センターで最新の放射線治療装置が発表になりました。従来の、がん治療として行われている放射線治療は、体の外から放射線を当てて、体の中のがん細胞をやっつけるという方法でした。でも、がん細胞の手前に、正常な細胞があると、それも傷つけてしまうのが難点で、大量の放射線を浴びると、副作用も起きてしまいます。しかし、今回お披露目された最新装置による、最先端の放射線がん治療法だと、通常の放射線治療=X線の10倍以上、ガンを破壊できる、しかも「ピンポイント」で破壊できるんです。
その治療法の名前は、「ホウ素中性子補足療法」
「中性子」というのは、 むかし、学校の化学で出てきたと思いますが、原子の中心にある原子核を構成している非常に小さな物質です。 一方「ホウ素」は原子なんですが、先ほどの中性子を、このホウ素にぶつけると、核反応を起こして、そのパワーで、がん細胞を破壊することができるんです(おおまかに言えば、ですが)。 「補足」というのは文字通り捕まえる、という意味ですが、実はこのホウ素が、中性子を捕まえるという性質があるので、効果的に両者がぶつかって、核反応を起こすことができる、というわけです。
では、どんな治療かというと・・・
まず、アミノ酸とホウ素を混ぜた薬を、がん患者に点滴します。実は、がん細胞はアミノ酸が大好きなので、このホウ素入りのアミノ酸をどんどん取り込んでいきます。そこで、中性子を体の外から当てると、がん細胞の中にたまったホウ素が中性子だけを捕まえて結びつき、核反応が起きます。するとそのパワーでがん細胞が破壊される、という仕組み。 ここで凄いのは、この核反応は、がん細胞よりも小さい範囲にしか影響を及ぼさないので、隣の正常な細胞を傷つけることがありません。 つまり、がん細胞だけを、ピンポイントで、やっつけることができる、というわけです。
実際の治療時間は、30分から1時間30分、それがたった1回ですむそうです。 治療による痛みなどもないということ。 後は定期観察をするだけ、ということですが、大きな副作用も今のところ報告されていません。中性子を当てる部分の周囲の皮膚に放射線が当たり、脱毛や炎症を起す可能性もありますが、その後、治るそうです。
来年にもスタート!ようやく実用段階に近づいた!
中性子が発見されたのは1932年。しかし、これまで病院で治療するレベルには達していませんでした。と言うのも中性子を出すには、巨大な設備が必要だったんです。これまでは、なんと、原子炉実験所で臨床試験が行われていました。 例えて言うと、学校の25メートルプールくらいの施設が必要だったんですが、これがようやく、国立がん研究センターに置けるくらいに小型化できた、というわけです。国立がん研究センターで、来年には、皮膚がんの1種メラノーマで、保険適用を目指すための治験が始まる予定です。それが有効となれば、一般病院にも、この治療方法が、広がっていくことが期待されます。皮膚がん以外にも、これまでの研究で有効とされる 悪性脳腫瘍、頭頸部がん・肝臓がん・肺がん・中皮腫・骨肉腫など、いち早い適用が期待されます。
来年まで待てないという方にも道が・・・
今すぐ治療できる場所、それは、茨城県東海村の「日本原子力研究開発機構」と、大阪府熊取町の「京都大学原子炉実験所」。臨床研究段階で、保険適用はありませんが、費用は研究費でカバーされるので、自己負担はありません。ここで治療を受ける場合は、 対象となる人は、もう手術が出来ない進行がんなどの場合で、 既に治療を受けている医療機関の紹介状をもっていき、PET検査など受け、この治療に適しているかなどの事前審査を受ける、という手順になります。
2016年3月7日(月)TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」 医学ジャーナリスト松井宏夫さんより。