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【短編小説】街を廻せば①

【あらすじ】
人生どん底の男が街を廻ると様々な妖怪や化物にあってしまう。
命からがら帰ってみると背中に違和感を感じて振り返ると…。
人生をやり直したいと思った男の奇跡と優しさの物語。




この世に神様なんかいない。


俺の人生は最悪だ。


30代の頃に友人の連帯保証人になったせいで、莫大な借金を背負うことになった。

おかげで、せっかく立ち上げた会社は倒産した。


逃げるように
嫁と幼かった娘を残して離婚した。


53才にして
ようやく借金を返せたが
俺の周りには何も残ってない。


今日もせっかくの休みだと言うのに
やることがない。


だから、適当に町を歩いて
死ぬまでの時間を潰してる。




「早く死にてぇな…」


そんなことを呟きながら
歩いてると




目の前に若い女が
呪文のようなものを大声で唱えていた。


俺は気味が悪いと早歩きで逃げた。

今でさえ最悪なのに、
呪われたりなんかしたら
たまったものじゃない。




しばらく行くと
老婆がボロボロの杖を持って
手招きをしてきた。

まるで生け贄を探している魔女のようだった。

俺は恐ろしくて道を変えた。






道を変えると
今度はドラキュラのようなマントをつけた男が真っ青な顔で虚ろな目をしていた。


俺はドラキュラ男に血液を吸われると思って、全力で逃げ出した。


とんかつソースのようにドロドロの俺の
血液だが奪われたくはない。






久しぶりに全力で走ったことで
障害物を避けきれず
何かに足を取られてハデに転んだ。



振り返ると鬼のような顔をした中年の女が
四つん這いでこちらを睨んでいた。


俺は必死で謝りながら逃げた。






路地裏に逃げると
ボロボロな格好をした青年が
生気を失った顔で体育座りをして
ボーッとしていた。


この路地裏で
亡くなった地縛霊だろうか。


俺は腰を抜かしながら
ゴキブリのようにカサカサと
路地裏から死に物狂いで抜け出した。






必死の思いで路地裏から抜け出すと
今度はレオタードを着た河童が獲物を探すようにキョロキョロしていた。


俺は河童と目があってしまった。


すると河童は俺に向かって走ってきた。


さすがの俺も恐怖で涙が出た。

子どもみたいに泣き叫びながら逃げた。







気づくと、
いつの間にか夜になっていた。


「今日は散々な日だったな。
この町はどうなっちまったんだ」

クタクタになりながら家に帰り
ボロアパートの玄関前に辿り着いた。


「ただ1つわかったことがある。

あんなに必死に逃げるってことは。
俺はまだ死にたくないんだな…」



自分の生に対する
執着心を身に染みて感じ
呆れて笑った。


ドアノブに手を掛け開けようとすると
突然、背中から鈍い音が響いた。


体が上手く動かない。


後ろを振り向くと
血まみれの包丁が見えた。


どうやら、俺は刺されたらしい。


死にたくないと気づいた後に
死ぬなんて馬鹿げた人生だ。


最後に何か言い残そうとしたが
何もない人生だから何も思い浮かばなかった。


少しずつ視界が真っ暗になっていく。










目が覚めると、俺は雲の上にいた。


どうやら、ここが死後の世界らしい。


あれだけ早く死にたいと思ってたけど
いざ死んでみると未練が残るな。

もう少しだけ生きてみたかったかもな…


そんなことを思っていると
天から声が聞こえた。


「もう1度やり直したい?」


天の声って本当にあるんだな。


…待て、今なんて言った?


「今、やり直せるって言ったか?
やり直せるのか!?」


「うん、やり直せるよー!」


こういう天の声って
だいたい畏まった喋り方じゃないのか?

なんでそんな軽い喋り方なんだ?


そんなことはどうでもいい。


「人生やり直させてくれ。
もう一度、全てを失う前の30代の頃に戻りたい」


「うーん、それはできないらしいよ」


らしい?ってなんだ?
あんたは神様的な存在じゃないのか?


「やり直せるのは、死んだ日の1日だけ」


「…なるほどな。それで充分だ。
刺されないように逃げればいい」


「それだけではダメ。
やり直すには、それ相応の条件が必要」


「条件?」


「あの日、会った人達全員を幸せにしたら人生やり直せるよ」


なんだその条件。


「…失敗したら?」


「どこに逃げようとも必ず包丁に刺されて殺されるよ。
じゃあ面倒くさい質問タイムは終わりね!
GOOD LUCK!! 頑張ってねー!」


「え?おい?
まだ聞きたいことがあるんだ」


適当過ぎるだろ。
人1人の生死がかかってんだぞ。


「ちなみにやり直せるのは1度だけだよ。じゃーねぇー!」











その日会った人達って…?



そもそも、あれらは人じゃなくて
全員、妖怪や幽霊だったぞ?


あんなの全員を幸せになんてできるのか?







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