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第四十七回:「Whole Farm Management」総合的農場経営とは何か?
前回からオレゴン州の各地で10年以上にわたって活用されてきた『Whole Farm Management: From Start-Up to Sustainability』(未邦訳)という本を紹介しています。
この実践的なガイドブックは、新規就農者から経験豊富な農業経営者まで、幅広い読者に向けて書かれています。
今回はWhole Farm Managemen(総合的農場経営)について紹介し農場経営に必要な要素を分解していきたいと思います。
1、総合的農場経営とは何か?
総合的農場経営とは、農場経営に対する包括的なアプローチであり、農業の持続可能性と効率性を最大限に高めることを目指します。
この手法の基本的な前提は、農場全体を一つの統合されたシステムとして見渡すことで、より適切で効果的な意思決定が可能になるということです。
この観点から、農家は農場システム内のさまざまな要素—土壌の健康状態から経済的な持続可能性まで—とそれらの複雑な相互作用を慎重に考慮に入れ、バランスの取れた管理を行います。
このアプローチの重要な特徴は、農場を単なる生産単位としてではなく、生態系、経済、そして社会的要素が複雑に絡み合う生きたシステムとして捉えることです。持続可能な農業を実践するためには、これらの要素間のバランスを慎重に保ちながら、長期的な視点で意思決定を行う必要があります。
物的資源:土壌、水、気候資源など農場の物理的基盤となるもの、さらに農業機器、灌漑設備などの適合するインフラ
生物資源:土壌生物、有益な昆虫、野生生物、作物、家畜、害虫など
財務資源:事業計画、市場とマーケティング、会計システム、債務、収益性など
人的資源:農場の家庭的側面や人的側面、技能パッケージと労働力の源、そして充実感のある仕事への願望
農場経営には、農場の内部および外部の要素間のすべての関連性を認識することが含まれます。農場の一部での決定は、直接的または間接的に農場の他の部分に影響を与えます。この力学は、たとえば植え付け直後の暑い時期にすべてのピーマンに灌漑できるよう、灌漑ポンプに適切なサイズのメインラインパイプを合わせるといった実践的な問題として現れます。
また、この管理手法は農場の規模に関係なく適用可能であり、小規模農家から大規模農業経営まで、それぞれの状況に応じて柔軟に適応させることができます。重要なのは、各農場の固有の条件や制約を理解し、それらに適した管理戦略を開発することです。
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2、システムとは?
ここでシステムという言葉について認知科学の先生である今井むつみ先生の言葉を借りて踏み込んで説明します。
システムというのは、ある目的のために、異なる役割をもつ要素が互いに協調しながら働く組織である。 ----システムを構成することばの意味は、システム全体をうっすらとでもイメージできないと理解することが難しい。色のことばを例にするとわかりやすいかもしれない。「アカ」ということばを使うことができるためには、「アカ」は消防車、トマト、イチゴ、というように特定の事例のいくつかと結びつけるだけでは不十分なのである。2~3歳の子どもに「イチゴの色は?」と聞くと元気よく「アカ!」と答えるのに、様々な色の積み木から「アカの積み木をとって」というと、わからない。「アカ」ということばを使えるようになるには、アカの範囲がわからなければならない。そのためには、「アカ」ということばを知っているだけではダメで、アカを取り巻く「ピンク」「オレンジ」「ムラサキ」などのことばが存在することがわかっていないといけない。ということは、色の語彙のシステムがどういうものであり、どのようなことばで構成されているか、色がどのようにそれらのことばで切り分けられているのかがぼんやりとでもわかっていないと、一つ一つの色のことばを使うことは難しいのである。
例えば、農場システムにおいては、土壌、作物、家畜、労働力、機械設備などの要素が、持続可能な食料生産という目的に向かって互いに関連し合いながら機能しています。一つの要素の変化は他の要素にも影響を及ぼすため、システム全体を理解することが重要です。
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