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【後編】モンキー125と秋の旅路 - アラフィフライダーの静岡ツーリング

▼前回までのあらすじ

朝もやの立ち込めるなか、和風ビジネス旅館「福住」の二階の窓を開けた。昨夜のふぐ料理と磯自慢の余韻が、まだ体のどこかに残っている。窓から差し込む朝の空気は、昨日よりも冷たく感じられた。時計を見ると、まだ七時前だ。普段なら二度寝をしてしまうところだが、今朝は何となく体が軽い。

ふと外を見ると、街は静寂に包まれ、朝の光が徐々に街全体を包み込んでいくのが見えた。旅館の庭には露がきらきらと輝き、鳥たちがさえずり始める。

居心地の良かった福住さん、また泊まりたいと思います😊

昨夜、女将さんが教えてくれた朝食処「モーニング」に行くことにした。宿を出る前に、モンキー125の状態をチェックする。タイヤの空気圧、チェーンの張り、オイル量。昨日の長距離走行で疲れているかもしれない相棒の体調を、まずは確認しておく。バイクの調子を見るのは、まるで愛しい人の具合を気遣うような、そんな気持ちになる。

フロントで鍵を返すと、女将さんがにこやかに話しかけてくれた。

「おはようございます。良いご旅行を」

「ありがとうございます。教えていただいた『モーニング』に行ってみます」

「いいですね。あそこの奥さんのトーストは絶品ですよ」

エンジンをかけると、静かな街に優しいエンジン音が響く。静岡の人々の温かさを思い出しながら、女将さんが勧めてくれた「モーニング」に向かう。朝の空気が頬を冷たく撫で、エンジン音が心地よいリズムを刻む。

モーニングに着くと、温かな空気が漂う店内からコーヒーの香りが漂ってきた。ドアを開けると、優しい笑顔の店主の奥さんが迎えてくれる。注文したトーストとコーヒーが運ばれてくると、その香ばしい匂いに思わず顔がほころぶ。

喫茶「モーニング」さんのモーニングセットをいただきました😋

「おいしいですね」と言うと、店主の奥さんが微笑んだ。

「ありがとうございます。でもこのお店、10月いっぱいで閉めることになってしまって...」

その言葉に、どこか切なさが滲んでいた。

カウンターに腰掛けながら、奥さんの話に耳を傾ける。長年続けてきた店を閉めるという決断。その重さが、声の端々に感じられた。静岡の人々は、土地柄なのか、見知らぬ旅人にも心を開いて話してくれる。そんな温かさに触れるたび、一人旅の醍醐味を噛みしめずにはいられない。

「素敵な朝ご飯をありがとうございました」と感謝の気持ちを伝えた。

喫茶モーニングさん、美味しい朝食をありがとうございました😿

朝食を終え、次の目的地である富士山方面へと向かう。モンキー125のエンジンを掛け直すと、昨日よりも調子が良さそうだ。エンジンの音色を聞いていると、まるで「さあ、行こうぜ」と誘われているような気分になる。このバイクと出会って、もう三年になる。中型や大型バイクと違って、モンキーには独特の愛らしさがある。その愛らしさが、時として人との出会いを生む。

昨日も、フェリー乗り場で「いいバイクだねえ」と声をかけられ、しばらく見知らぬライダーと話が弾んだ。山道に入ると、モンキー125の特性が顔を出し始める。空冷エンジンは山道が苦手で、登り続けると油温が上がりやすい。パワーが落ちてくる感覚を体で感じながら、それでも前に進んでいく。

気温計を見ると17度。朝の冷たい空気が、エンジンの熱を少しずつ冷ましてくれているのが分かる。登り坂でパワーが感じられなくなると、まるでバイクが「少し休ませてくれ」と言っているように思える。そんな瞬間も愛おしく感じる。

外気温以上に、バイクに乗っていると体感温度が一段と低く感じられますね🥶

道中、気になる溝が路面に刻まれている。バイクにとっては要注意な箇所だ。こういう路面は、大型バイクならあまり気にならないのかもしれない。でも、小さなタイヤで走るモンキーにとっては、まるで罠のような存在だ。ハンドルを握る手に力が入る。その緊張感は、まるで初めて自転車に乗った時のような、そんな感覚に似ている。

「これはちょっと気をつけないと」と自分に言い聞かせる。

しかし、その緊張感も道路469号線に入った途端に解き放たれた。目の前に広がる景色は、まさに絶景という言葉がふさわしい。富士山が、その雄大な姿を見せていた。思わずバイクを路肩に停め、カメラを取り出す。しかし、このような絶景は、写真には収まりきらない。目に焼き付けておきたい風景だ。

山中湖に到着。富士山の頂上は少し雲がかかっていたが、それでもその存在感は圧倒的だった。無料駐車場に停めて、しばらく景色を眺める。寒さが増してきたので、黄色い厚手のグローブに履き替え、オーバーパンツも装着。こういう些細な装備の変更が、ツーリングでは大きな違いを生む。寒さ対策を怠ると、途端に体力を奪われてしまう。これは、昔、雨の中を走って風邪を引いた苦い経験から学んだことだ。

10月でもまだ頂上には雪を冠っていませんでした🏔

モンキー125のメーターを見ると、油温計は81度まで下がっている。標高の高い場所に来たせいか、さっきまでの暑さが嘘のように感じられる。バイクも、人間も、高いところに来ると少し息が上がる。それでも、この澄んだ空気と絶景を前にすると、疲れも吹き飛んでしまう。

「よし、次の目的地は八王子のカフェだ」と自分に言い聞かせる。

映画「言えない秘密」のロケ地として使われた「ギャラリー&ガーデンカフェ ヤスタケ」。今年の6月に映画を見た時から、いつか訪れたいと思っていた場所だ。途中、道の駅に立ち寄ると、そこにはたくさんのバイクが並んでいた。大型のツアラーから、私のモンキーのような小型バイクまで、実に様々なバイクが集まっている。

ふと考える。私は集団でのツーリングよりも、一人旅を好む。確かに、仲間と走るマスツーリングには独特の楽しさがある。しかし、互いに気を遣い、休憩のタイミングを合わせ、長距離を走れば走るほど疲れが募る。

昨年の初夏、四国・九州をモンキーで一人旅したことを思い出す。自分のペースで走り、思いついた場所に立ち寄る自由さを満喫した。その自由さが、私には何よりも合っている。疲れたら休めばいい。気になる場所があれば立ち寄ればいい。そうやって心のままに旅することが、一人旅の醍醐味だ。

八王子に近づくにつれ、街の喧騒が少しずつ戻ってくる。そして、ついに目的のカフェに到着。「ギャラリー&ガーデンカフェ ヤスタケ」は、映画の中で見た通りの佇まいを保っていた。店内は既に多くの客で賑わっており、マスターとは僅かな言葉しか交わせなかったが、一杯のコーヒーに、この旅の深い余韻を感じることができた。

ギャラリー&ガーデンカフェ ヤスタケさん

窓際の席に座り、コーヒーを飲みながら、これまでの道のりを振り返る。思えば、バイクに乗り始めたのは35歳の時だ。若い頃からバイクに憧れていたが、諸々の事情で乗ることができなかった。それが今では、生活の一部となり、心の解放者となっている。

カフェの壁には、映画のワンシーンの写真が飾られていた。映画の中で見た通りの佇まいを保っているカフェは、時間が積み重なっていくような不思議な魅力があった。ここで一息つき、心を落ち着けることができるのだ。

振り返れば、この1泊2日の旅で走った距離は534.6km。単なる数字だけでは語れない、豊かな時間が流れた。駿河湾フェリーに乗り、念願のふぐ料理を味わい、そして映画の舞台となったカフェでコーヒーを飲む。その一つ一つが、かけがえのない思い出として心に刻まれている。

人気のチーズケーキをいただきました🧀

カフェを出る前に、もう一度店内を見渡した。映画の中のシーンと重なり合う風景。そこには、時間が積み重なっていくような不思議な魅力があった。

マスターに「今日はありがとうございました」と声をかけ、店を後にする。モンキー125に乗り込みながら、ふと思う。私たちは、きっとまた旅に出るだろう。季節が変わり、温かな日差しが戻ってきたら。そのときは、また違った景色が、違った出会いが待っているに違いない。

エンジンをかけながら、次はどこへ行こうかと考える。東北か、北陸か、それともまた四国・九州か。行き先はまだ決まっていないが、それもまた楽しみの一つだ。モンキー125と共に、新たな物語を紡ぎに行こう。そう心に決めて、帰路に就いた。夕暮れの空が、静かに私たちを見送っていた。

映画「言えない秘密」の中でとても印象に残ったカフェです✨

【あとがき】

モンキー125と共に過ごしたこの一泊二日のツーリングは、心のリセットと新たなエネルギーを得る特別な時間でした。最大の目的であった駿河湾フェリーでの海上のひとときは、日常の喧騒から解放される贅沢な瞬間でした。バイクごとフェリーに乗り、潮風を感じながらの移動は、心に深く刻まれる経験となりました。

静岡の美しい景色と温かい人々との出会いも、旅の大きな喜びでした。伊豆半島での和牛ハンバーグの食事や、奇岩「馬ロック」での静けさ。そして、ふぐ料理の美味しさを楽しみながら、地酒「磯自慢」に酔いしれた夜。これらの体験が、旅の思い出を一層豊かなものにしてくれました。

また、翌朝の「モーニング」での店主の奥さんとの心温まる会話も印象的でした。閉店の知らせに寂しさを感じつつ、その温かな接客に触れることで、旅の温もりを感じることができました。

富士山の雄大な姿に心が震え、山中湖でのひとときや、途中出会ったライダーたちとの交流も貴重な思い出となりました。そして、映画「言えない秘密」のロケ地「ギャラリー&ガーデンカフェ ヤスタケ」でのコーヒータイムは、旅の締めくくりにふさわしいひとときでした。

この旅で出会った人々の温かさに触れることができたことが、最大の喜びでした。フェリーやふぐ料理、カフェでの時間を通じて、人々の優しさと温もりを感じることができたのは、本当に幸運でした。

バイクという乗り物の持つ自由さ、風を切る爽快感、そしてモンキー125の愛らしさ。この旅を通じて、それらを改めて感じることができました。日常から解き放たれた時間の中で、自分自身と向き合い、新たなエネルギーを得ることができたことに感謝しています。

最後に、この旅で出会ったすべての方々に心から感謝を申し上げます。皆様のおかげで、この旅はより一層特別なものとなりました。そして、この物語を読んでくださった皆さんにも、感謝の気持ちを込めて。


<筆者 自己紹介>
私は現在40代後半に差し掛かり、子供たちも徐々に自立し、自分の時間を満喫できるようになりました。免許を取得したのは30代後半でしたが、仕事と家庭のバランスで中々バイクに乗る機会がありませんでした。しかし、最近になってようやく自分の時間を楽しむ余裕ができました。大型バイクは維持にお金がかかりますが、手軽に乗れて維持費も抑えられるバイクを模索していました。そこで私が出会ったのがモンキー125です。このブログでは、私のモンキー125にまつわるエピソード、ツーリングの思い出、カスタムの詳細など、私自身が体験したことを共有していきます。

それに加え、私のYouTubeチャンネルでもいくつかの動画を公開していますので、ぜひ一度ご覧いただければと思います。🏍️✨

今回の長距離ツーリング。モンキー125の走行シーンと独特のサウンド、そしてツーリング体験を、まるで現地にいるかのようにお楽しみいただけます!ぜひご覧ください👇

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MONKEY125 - まろっしゅ'sモトブログ
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