悶絶するチャーシュ〜メン
🍜
その店は交通量の多い道路沿いにあった。
年季の入ったグレーの建物。
入り口のジェラルミン製っぽいガラガラスライドドアに
ペラい白紙に黒マジックの手がきのメニューがセロハンテープで貼り付けてある。
ラーメン、チャーシュ〜メン、ギョーザ、ビール。
ここだけ昭和。
値段は令和。
ちゃっかりしてやがるぜ。
『いらっしゃいませ〜ぇ〜』
ぇ〜が気になりつつも、席に座る。
『レジで食券を買ってくださいね〜へ〜』
へ〜って言った。絶対。
私は最近、
食券人(しょっけんじん)に遭遇するタイプの店に入ることが多い。
この店の食券人は
食券人類•食券人科の純粋な食券人であった。
稀に調理人類•食券人科の食券人もいるが、この種の食券人は、だいたい食券を渡してお金を受け取った後に手を洗わずにそのままチャーシューをのせたりする。
この店は食券人(しょっけんじん)と
調理人(ちょりじん)と
配膳人(ハイゼにん)が
しっかり分かれていて好感が持てた。
『何になしゃいますか〜ぇ〜?』
パッと見、妖怪に片足突っ込んでる年配の食券人が私に問いかけてきた。
迷う。
今日はチャーシュ〜がたくさん食べたい。
ただ、チャーシュ〜の厚さによっては普通のラーメンについてくるであろう1〜2切れのチャ〜シュ〜でもじゅうぶん満足できる可能性は高い。
さんざ迷ったあげく私は
『チャーシュ〜メンください』と
吐き捨てるように叫ぶと
スマホで電子決済することなく
ポケットからシワクチャの千円と百円を出して
ぶっきらぼうにレジ台の前にぶちまける想像をしながら
しずしずと
台の上にお金を置いた。
なんだったら少しヘコヘコとへりくだっていすらしたのだ。
こんな時に私は
自分の中には一体どれぐらいの数の対外用人格が潜んでいるのだろうかと疑問に思うことが多々ある。
しかしながら、それは全て自分であり
しかしながら、他人がいるからこそそれは存在している訳なので
自分ひとりの世界なら、ラーメンなど思いつきもしなかっただろうななどと
こんな気持ちを、この数十秒で頭の中に巡らせた。
巡らせた と メグライアン は
似ている。
そんな事を思いつつ
カウンターへ座って
チャーシュ〜メンを待つ私。
そんな私の前に
白い大根の薄切りが運ばれてきた。
『醤油かけて食べてね〜へ〜』
もう、へ〜にも慣れてきて
この店に馴染みだした私の魂。
『ふん!本当に醤油かけて美味しいもんかね!まさか、あたしをかつごうってんじゃないんだろうね!
さ、あたし達は舞踏会に行くから、アンタは屋根裏でも掃除しときな!この灰かぶりめが!』
と、シンデレラの冒頭の意地悪かあちゃんを想像していたのだが、
『あたし達は舞踏会に行くから』の部分を
『あたし達は武道会に行くから』と想像してしまい、
意地悪かあさんの顔がタオ•パイパイにシュッと入れ替わり、
コンクリートの柱をブチ折り、高速で投げ、それに乗って
王子がいるお城まで空を飛びながら向かう鶴仙人一行を想像していたところに
タイミング悪くチャーシュ〜メンが運ばれてきたせいで、
『チャーシューメンを片手に
空中を飛ぶ柱に乗って
出前をするタオ•パイパイ』を
一瞬で追加想像してしまい、
笑いをこらえた顔で
配膳人(ハイゼ)から
チャーシュ〜メンを受けとるという
なんとも気まずい感じに
なってしまったのは
後の祭りであり、
ところで、チャーシュ〜メンは
すこぶる美味しかった。
〜おわり〜