食べることの大切さは、チャップリンから学んだ。
昔、食べ物を粗末にするとバチが当たると言われた。
今、そのバチが当たっているのだろうか?
治療の副作用で食事が進まない話は以前に書いたが、
それは今も続いている。
食べなくちゃいけないけど、食は進まない。これはなかなかつらい。
そんなことをグダグダ考えていると頭に浮かんでくるのがチャップリンだ。
偉大な喜劇王チャップリンの重要なテーマが「食べる」ことだったから。
放浪紳士チャーリーはいつもお金がなくて、住むところはもちろん、毎度の食事にも事欠くのが普通だ。いかに次の食事にありつくか、その奇策が多くのギャグを生み出した。その「食べる」ギャグの究極とも言える作品が「黄金狂時代」(1925年)になる。
いかに食べていかに生きのびるかを芸術的なレベルまで高めた作品だと思う。靴を調理して食べる場面は特に有名だ。
チャップリンの代表作の多くはサイレント(音楽のみ)なのでセリフは少なく、すべては動きによって表現される。最初は動きのおかしさばかりに目が行くが、くり返し観るうちに情緒的なテーマの奥底にある彼の思想が浮かび上がってくる。動きが軽く速いので一見、簡単に作っているようだが、画面の隅々まで緻密(ちみつ)に設計されている。靴を食べる場面の撮影はチャップリンが大変なこだわりを見せて、60回以上も撮り直したと聞いたことがある。
「黄金狂時代」は100年近く前の作品だが、いまでも映画史上のベスト100とかに必ず入ってくる。すべてが動きで表現されるので言葉の壁も年齢も時代も関係がない。その普遍性が永く支持される理由だろう。ありきたりなテーマでも言葉を介さずに深遠を覗くことができる。これこそ映画だと思う。
入院して映画を楽しんでいるが、なぜか古典的なものばかりに目が行く。
こってりした新しい映画は元気になってから味わうとして、今は滋味あふれる映画を味わい尽くそうと思う。
食は進まないけど、頭の方は究極のメニューを楽しめている。贅沢だ。
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