第5段 不幸に憂いに沈める人の、

徒然なるままに、日暮らし、齧られたリンゴに向かいて云々。



どうしてもこの時期、暗い気持ちになる。別名:ホルモンによる無慈悲な暴力とでも言おうか、女にとっては実に仕方のないことでもあるのだが諸々あいまってくるといよいよ世も末である。生きているならば、誰もやったことのないように生きてみよう、そうしてみようと思いつつもなかなか行動には移しがたい。往々にして、自分自身の単純さ、どうしようもなさ、無力さ、無知さを知るところによると、とてもじゃないが何もかもが嫌になってくる。いっそ、悟ったほうが幸せなのだろうか。悟りを開いて、感ずるべきことを特段、大げさに感じることなく過ごすことができたら幸せになるのだろうかと思う。椎名林檎の歌にも出てくる『幾つになれば淋しさや恐怖は消えうる』である。そうはいっても、じゃあ、悟りを開いたら幸せなのか。淋しさや恐怖やそれ相応のものを感じない人生の方が幸せなのだろうか。きっと答えはノーである。なぜなら、人間という生き物はそういったストレスのようなものを感じたい生き物だからだ。自ら波風を立て、そしてそこに立ち向かうことによって何かを乗り越えたい生き物なのだ。進化すること、成長することこそ生物の定義である。なんたることだ。来世では生物以外のものでお願いしたいと切に願ってしまう。ここで、波風ということで、生きてきて初めて心が千切れるような思いをしたことを書こう。何かと言うと、『嫉妬』の感情を覚えた時だ。今でもはっきりと、昨日のことのように覚えている。小学校4年生くらいの時。わたしはクラスに好きな男の子がいた。彼は転校生で、話が面白くとても優しかった。きちんとお礼や挨拶ができて、スポーツも万能、勉強も出来る子だった。笑顔がチャーミングで背も低かったので、完全に可愛い系の男子だった。彼には仲良しの女の子がいた。小学校4年生と言えど、もはやクラスは恋愛の話などで持ちきりだ。今思えばマセガキの集まりだったのかもしれないが、とにかく毎日がそれなりに楽しかった。誰くんは誰ちゃんが好き、誰ちゃんと誰くんは両思い、机が隣になった、昨日一緒に帰ってた、などいろいろな噂がクラス中飛び交っていた。わたしは自分ではあまり気づいていなかったが、その男の子のことが密かに好きだった。その頃意地悪な男の子はたくさんいたが、優しい子がいなかったということもあり、余計にその思いは増長していった。思い立ったら一直線、駆け引きなし、のおひつじ座なので、ひたすらその子にアピールやらアタックやらしまくった。そしてだいぶお近づきになった頃、悲劇は起こった。その男の子と話をして盛り上がっていた時のこと、また違う男子が割り込んできて意中の子と彼が仲良くしている子のことをネタにからかったのである。あー◯◯が浮気してるー!!!といったようにだ。(浮気相手は私)その時だ、彼は『ちげえよバカ!!!』といって、そのあと申し訳なさそうに意中の子の方を見たのだ。わたしは悟った。ああ、わが恋は今花の如く散りゆき・・・巨大な金属バットで思い切り頭部を殴られたような衝撃が走り、その日は給食も喉を通らず、息も絶え絶えにプールを泳ぎ、瀕死状態で家路に着いた。蚊の鳴くような声で『ただいま・・・』とだけ言い、家のソファーに倒れこんだ。心配した母が、『どうしたの?病気にでもなった?』と声をかけてきたが、『なんでもない』の一点張り。それどころではない、母をかまっている気力はなかった。ただひたすらに涙がこぼれ落ちる。それを悟られないようにソファーに顔を押し付ける。すすり泣きが聞こえないようにわざと咳払いをする。その時わたしの脳裏に一つの言葉がよぎった。『これが嫉妬か・・・世に言う嫉妬というものなのか・・・』そう、あの時の感覚は今でも鮮明に覚えている。自分を拒絶された苦しみ、悲しみというよりも、自分は相手の恋物語の渦中にすら入っていなかったことへの悲しみ、苦しみ、恥ずかしさ、全てが大きな波のようになって押し寄せてきては引いていく。寄せては返す、海のような心。心が千切れる、胸が苦しいとはこのことを言うのかと、痛いほどその感覚を味わった。こんな思いをするくらいならもう二度と恋なんてするか!!!なんてことを思ったりもしたけれども、元来の惚れっぽい性格もありそんなこと御構い無しにその後も恋をし続けるのだが。兎にも角にも、あのとき味わった感覚、経験は今でも決して忘れることがない。振り返ってみれば笑い話、そして何より尊いな・・・とも思うのでまあ、それはそれで良かったのだと言うことにしている。それでも何も波風の立たぬような人生に憧れがない訳ではない。人間誰しもが、何かしらの波風を立てて生きているとは思うのだが、それでも『妥協』をうまく使いこなすことができればもう少し生きやすくなるのだろうか。単純に、月を見て、月が綺麗だな・・・などと言えるような人生も送れたのだろうか。うむ。

命短し、ひとよ恋せよ!



コギト・エルゴ・スム

踊る哲学者モニカみなみ

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