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「ミセス・ハリス パリへ行く」はトランサーフィンで自分の目的達成までたどりつく様子がよくわかる映画でした(あらすじ)


アマゾンプライムで「ミセス・ハリス パリへ行く」を見ました


昨日は柄にもなくファッションの話をしていたのですが、さっそくアマゾンで「ミセス・ハリス、パリへ行く」の映画を見ました。

https://www.amazon.co.jp/-/en/レスリー・マンヴィル/dp/B0B8SGW5GL/ref=sr_1_2

 

 子供の頃「ハリスおばさんパリへ行く」を読んで、
「ディオール」「オートクチュール」という響きの美しさに惹かれたこと、禿げ頭のおじさん(ディオール本人)とドレスを着たきれいなモデルさんの写真が口絵に載っていたこと、
 そしてディオールのドレスの虜になったおばさんががんばってパリまでドレスを買いに行く話だったことは覚えているのですが、実は詳しい顛末はあまり覚えていないのです。

 どうやら、小説と映画ではお話の展開が違うようなのですが、あくまでも「ミセス・ハリス パリへ行く」の「映画」を見ての話として書きたいと思います。

 第二次世界大戦後、夫の無事を祈りながら待っていたにもかかわらず、戦争未亡人になってしまった主人公のハリス夫人が、あるお宅で見た美しいディオールの500ポンドのドレスの虜になってしまい、パリへディオールのドレスを買いに行くことを夢見て、そしてそれを実現するというお話です。

 500ポンドってどのくらい?当時数十万くらいかな?すごいわねと思いながら見てたのですが、
戦後すぐの500ポンドは、今の貨幣価値でいうと下の記事(2022年11月の記事)によると250~400万円ですって。どっひゃー 

 
 いやそれは素敵よ、上の小さなカットの写真からでさえもわかるぐらい、まるで宝石でできたように美しい、夢のようなドレスだけれど、
 夫が戦死してしまって、たとえ少しのお金であっても「何かの備えに」「少しでも老後の資金を」と守りの姿勢に入りそうなところを数百万円ドレスに投入ってすごくない?

 直接ストーリーのネタバレにならない点をまず言いますと、

 「還暦近い」という設定になっているハリスおばさんを、上映当時66歳だったイングランドの女優レスリー・マンヴィルさんが演じておられて、
その方がホントにかわいらしくて魅力的で、腕やデコルテも美しくてとてもその年齢には見えないことに驚き。
 そしてディオールのメゾンで出会う、心優しくスマートなシャサーニュ侯爵役を、フランス人俳優ランベール・ウィルソン氏が演じているのですが、あのマトリックス・シリーズでメロヴィンジアン役を演じてた方ですね、
 この方もこの2022年の映画の前年、2021年のマトリックス・レザレクションズで、確か変わり果てて妖怪みたいになったすごい姿で演じていたはず。
 すごいわー ようあんな役引き受けはったわ。ギャップがすごいです。

 また、ハリスおばさんの親友バイが黒人女性で、通勤時隣り合ってバスに乗ったり仕事終わりに一緒にバーで飲むシーンがあったり、またディオールのショーでも黒人のモデルさんが登場するのですが、
小説での設定や、そしてその当時実際に、そのような人種を超えた交流やモデルの登用があったのか、
 また、ディオールで働く人たちや街のパリジャンも(悪者設定の人を除いては)みんな親切でいい人たちで、「パリの人って意地悪なんじゃないの?」「イギリス人とフランス人って仲が悪いんじゃないの?」とステレオタイプに思っていた私にはちょっと驚きでした。

 映画に出てくるディオールのドレスは、戦後すぐという設定もあって、
王道でクラシカルな、もう文句なく素敵なドレスが次々出てきますし、
そして物語もハッピーエンドで終わりますので、安心して楽しめる映画です。

 話の展開にひょっとしたら「ご都合主義なんじゃないの?」と思われる方もいるかもしれません。
 けれど、「振り子の法則」シリーズを読んでいる私にとっては、
「ああ、叶う時ってこんな力技で叶っていくのね」と感嘆しながら見ていました。

 「振り子の法則」シリーズでは、「自分の目的」に進んでいるときは物事がとんとん拍子に進むし、そして目的を達成したときもこの上ない幸せが感じられる、そのように言われています。
 還暦間際のおばさんがオートクチュールのドレスを着ることが「自分の目的」になるのか、
 そのあたりも含めて、以下ネタバレであらすじと映画をみた感想を書いていきたいと思います。


ここからネタバレを含む「ミセス・ハリス、パリへ行く」のあらすじです


 夫が戦地から戻らず、ロンドンに住むハリスおばさん(エイダ)は朝早くから地味な小花柄のワンピースとエプロン姿で家政婦として働いています。
 夫が戦死したことが確定となりますが、それでも人前では気丈にふるまい、辛いときは通勤途中の橋の欄干から川の流れを見つめるのです。
 雇い主たちは、贅沢で横柄な態度なのに「うちも苦しいから」とか言って賃金の支払いを渋るダント夫人や、礼儀知らずで甘えん坊の女優志望の若い女性パメラ・ペンローズなど癖のある人たちで気苦労も多く、友人のバイとのおしゃべりが心の支えです。

 ある日ダント夫人のお宅で、椅子に無造作にかけられている輝くように美しいディオールのドレスを見た時から、もうエイダはそのドレスに心を奪われてしまいます。ところがそのドレスはなんと500ポンド
(500ポンドのドレスが買えるのにエイダへの賃金は払わないんですよね)
 エイダは「私はディオールのドレスを買う」と心に決めます。

 ディオールのドレスを思いながらエイダがサッカーの懸賞くじを買ったところなんと当選、バイと大喜びしますが、当選金は150ポンド。ドレスを買うには足りません。
 バスを使わず徒歩にして節約したり、仕事を増やしたり、残りの金額をなんとか捻出しようとエイダはがんばります(※実はトランサーフィン的には無理や働きすぎはよくないとされています)。
夢に向かうエイダは仕事中もノリノリです。
まだ金額は足りていないけれどパスポートを取ったり旅費を確保したり。

 あまりに働き詰めのエイダを心配して、ある夜バイはドッグレースに誘います。
「オートクチュール」という犬の名前に運命を感じたエイダは、受付係で友人の男性アーチーが止めるのも聞かず100ポンドも賭けてしまいますが、結果は大外れ。せっかく貯めたお金を失いすっかり落胆してドレスをあきらめようとします。
 ところがその翌日、軍から使者が来て戦争未亡人への年金の支払いがあったり、雨の日に拾って届けた高価なイヤリングの謝礼金が警察から届いたり、友人のアーチーがドッグレースの掛け金を全てかけずにとっておき、別のレースに賭けてくれたおかげでそっくり掛け金が戻ってきたり、
それが同じ日の朝に立て続けに起こって、なんと一気に580ポンド達成。
 エイダはパリへ旅立つことになります。

 日帰りのつもりで、でもドレスを持ち帰るための大きなトランクを持ってエイダは飛行機に乗りますがなんと遅延。真夜中にパリに到着し、とぼとぼと市街地まで歩くことになります。
 駅の待合所で出会った酔っぱらいの男性の一人に朝ディオールのメゾンまで案内してもらいますが、パリの街はゴミだらけ。ボスに騙された労働者たちのストのせいだと男性は説明します。
イギリスで労働者階級としてつつましく働くエイダは、ストをして権利を主張する話を興味深げに聞きます。

 ディオールに到着し、ショーに遅刻しそうになった看板モデルのナターシャの落としたバッグを拾って渡そうとして追いかけ、意図せずエイダは本来入れないであろうメゾンで行われるショーのフロアに入り込みます。
 大金持ちや位の高い人ばかりが招かれる中、明らかに場違いなエイダをディオールのオーナーの女性コルベールは追い出そうとしますが、憤慨したエイダは鞄から現金を出して並べて見せます。「現金だ」と思わず声を上げる会計係の若い男性フォーベル(アンドレ)
その騒動をみていた侯爵「私のゲストとしていかがですか」とエイダをディオールのショーに誘ってくれるのです。
 一方バックヤードは「ロンドンの家政婦さんがわざわざドレスを買いに来た!」とモデルもお針子さんも皆大盛り上がりで喜んでいます。
その様子が可憐でかわいらしくて、とっても素敵なシーンです。

 ショーが始まる前の会話で、侯爵も夫人を亡くされたことや、エイダの戦死した夫エディが花市場で働いていたことなどがわかります。
 エイダの隣の席は高慢でエイダを見下している、でもディオールにとっては大事なお得意様の”ゴミ王”の妻アバロン夫人とその娘
とてもひどい態度ですが、ともかくショーは始まります。
ショーにでてくるスーツもドレスも本当に素敵です!
(上の紹介記事で、エイダが気に入るグリーンとガーネットの2着のドレス以外は、アーカイブの貸し出しやわざわざドレスチームが当時のドレスを再現したと書いてありますね ディオール、力入ってます!)

 エイダも拍手をし目を輝かせてドレスショーを楽しみますが、途中で登場するグリーンのドレス「ヴィーナス」に思わず声を上げます。侯爵に促され番号を書き留めるエイダ。
 その後ナターシャが着て出てきたガーネット色の「誘惑」という名のドレスにエイダは心から感激して、「もうこれに決めた」というのがその夢を見るような表情からわかります。
 美しいナターシャのウエディングドレスでショーは終わり、さっそくエイダは心に決めたドレス「誘惑」を注文しようとするのですが、アバロン夫人が「順番があるわよね」と割り込み、強引に「誘惑」を自分の注文にしてしまうのです。
 一点ものが希望のアバロン夫人のため、エイダは欲しかったドレス「誘惑」を諦め2番目に気に入ったグリーンの「ヴィーナス」を430ポンドで注文することになりますが、オートクチュールのため仮縫いなどで2週間滞在しなければなりません。
無理だとあきらめようとするエイダでしたが、モデルのナターシャがとりなし、会計係のアンドレが留守の妹の部屋に泊まるよう申し出てくれたり、急がせれば1週間で済むかもしれないとスタッフが申し出てくれたり、皆がエイダに好意的に協力してくれます
 早速採寸に入るのですが、スタッフもエイダを拍手で迎え好感触。エイダは冗談を言ったりして打ち解けます。
 採寸後はトップモデルでありながら心優しいナターシャに車で観光地を巡りながら送ってもらい、アンドレの部屋で3人で食事をします。
アンドレとナターシャは、ディオールの会計係とトップモデルという間柄でありながら、二人とも哲学が好きで教養と思いやりのある性格でお互いに好意を感じているのがうかがえ、エイダは二人はお似合いであるのにと思うのです。
 
 またアンドレの妹の部屋で寝泊まりすることになったエイダは洋服も貸してもらえることになり、エイダはパリでの滞在中おそらく20代であろうパリジェンヌのドレスを着ることになるのですが、それもまた不思議と違和感がなく、とてもかわいらしいのです。
 話の設定で還暦前、女優さんの実年齢60代半ばで、若々しいパリモードを着こなしていてすばらしい。地味な小花プリント柄のワンピースを着ていたロンドンでのエイダとは見違えるようです。
 
 次の日の採寸時の会話で、ドレスが出来上がるまではディオール負担ですべて最高級のものを使用し仮縫いなどを繰り返すので、ディオールと言えども経営に不安を抱えていることがわかり、エイダはこの高級店で自分の現金払いが喜ばれたことに納得します。

 メゾンから出たところで犬の散歩中の侯爵に出会い、奥様が亡くなるまで一緒によく来ていたという花市場を散歩し、夜は若々しいドレスを着てムーランルージュのようなショーを楽しみながら二人で食事をします。そこでは投資家たちを接待するために来ていた昼夜多忙なナターシャにも出会います。エイダはナターシャから「お似合いよ」と耳打ちされ否定しますがまんざらでもない様子。
 
 侯爵といっしょにお酒とダンスを楽しんだエイダは、うっかり寝過ごしてしまい翌朝の仮縫いに遅刻、採寸担当のカレ氏を怒らせて拒否されてしまいます。
 心優しいスタッフのマルグリートはしょんぼりするエイダにディオールのアトリエを案内します。
 窓から太陽光が差し込み、光に満たされたすがすがしいアトリエで、裁断や縫製に勤しむ白い制服を着たお針子たち。仮縫いが終わっておかれているドレスや細やかで美しい装飾品。「ここは天国?」と思わず言ってしまいスタッフを笑わせるエイダ。しまいには得意のボタン付けを手伝いだします。
 
 その様子をコルベールに見つかったエイダは、別室でワインを勧められながらコルベールに聞かれます。
「なぜここにきたの?金持ちや有名人は着飾る場があるけれど、ディオールのドレスをあなたはどこで着るの? ドレスは驚きと喜びのためにデザインされているのに。あなたは透明人間(nobody、invisible)だわ。ドレスをどう生かすの?」
私の夢なの。お金も稼いだ」
夢を買うのもいいけれどそれをどうするの?
エイダが口ごもったその時、ナターシャが、侯爵からのプレゼントだと言ってベビーピンク色のずっしりと豪華な花束を持ってきて、侯爵が明日お茶に招待したいと言っていたとエイダに伝えます。
 それを見たコルベールは「侯爵は誰も受け入れない」といいますが、エイダは「私は透明人間よ(I'm nobody,orner)」と言うのです。

 会計士のアンドレと歩いて帰る道すがら、ショーウィンドウに飾られている素敵な吊るしのドレスが目に留まります。
アンドレは、「これではだめなの?オートクチュールは虚栄心の塊。」と言った後、実はディオールの経営が苦しく、自分がアイデアを出しても改革は受け入れられず保守的なコルベールに拒絶されるとエイダに説明します。「なら、お金もうけを考えないと」というエイダ。
 そこで通りがかった映画のプレミアで、人気映画俳優とディオールのトップモデルであるナターシャが劇場前の観客たちの前でキスをするのを見て「ただのショーよ」とアンドレを慰めるエイダ。アンドレは「僕と彼女をくっつけようとはしないで」と強くエイダに言い、そして「僕は彼女が好きだ。でも人生と映画は違う」と言った後、「ロマンチックな夢はパリに似合っている、恋をしたいのはあなたかも その心を大切に」と意味深なことを言います。
 部屋で花束に差し込まれていた侯爵からの招待状を見ながら、自分は誰かと出会うためにパリに来たのかしらと思いを巡らせるエイダ。
 
 翌日仮縫いの後、侯爵にエスコートされて立派な侯爵のお屋敷へ。自分を賞賛する言葉を投げかけられ、エイダはあらためて侯爵が自分に好意を持っているのではないかと思うのですが、
侯爵から幼少の頃ウィンザーの寄宿学校にいたこと、そしてその頃の集合写真を見せられ、端に立って写っている弱虫でいじめられていた自分を慰めてくれた掃除婦、通称「モップおばさん」のことを聞かされます。
 エイダのほほえみや優しさ、英国のユーモア、それを見てモップおばさんのことを思い出したと侯爵から聞いて、微妙な表情になるエイダ。
 侯爵は、人を笑顔にし見返りを求めず人に安らぎを与えるエイダを賞賛し、死んだ妻にも会わせたかったと言いますが、その後紅茶を勧められたエイダは耐え切れず、お茶を断って帰ってきてしまいます。
 
 イギリスの労働者階級の還暦前の家政婦のおばさんが、年齢は近しいとはいえパリの侯爵から交際対象の女性として見られることなんてないのに、侯爵の優しさや品位のある心遣い、パリという異国の環境、素敵なパリモードを着こなす自分に「ひょっとしたら」と勘違いをしてしまった。
 なんてこと。恥ずかしい。
 侯爵は、女性としてではなく、子供の頃優しくしてくれた掃除婦のおばさんを思い出したなつかしさと、エイダの心根の美しさに惹かれていただけなのに・・・。

 あるあるやわ。
 わかるわぁ、わかるわぁ。
 もう胸が痛い。ああ、イタイ。

 女性はやっぱり美しさや若さに価値があると自分も周りも思いがちなので、そしてそれは通常年齢とともに儚く失われて行くものなので、
「性格が素敵」と言われるよりも「容姿が素敵」と言われるほうが、
「人格者」としてより「一女性」として認められる方が、何倍も何倍もうれしいことがある。
 それに、周りの好意や、そして好意がなくても、自分の都合のいいように解釈してしまうこともある・・・。

 皆さんはご存じでしょうか。この古い短編を。
 あるパン屋の女主人が、客の男性がいつも古いパンを買いに来るのを不憫に思い、「きっとお金がないのだろう、自分が気を利かせてあげたらきっと喜ぶに違いない」とそのパンに切れ込みを入れバターを塗って黙って渡してあげるのですが、実はその男性は製図士で古いパンは消しゴムとして使うためのものであり、女性の塗ったバターのせいで製図が油脂で台無しになってしまい男性は女性のおせっかいを罵るという、まぁ救いのない話。
 ここで思うのが、古いパンを買いに来るのが女性や子供やおじいさんだったとしても、そのパン屋の女主人はバターを挟んだかのかどうか。
バターを挟むことで男性に感謝され、会話のきっかけになったり仲良くなったりを期待してはいかっただろうか。
 ・・・なんでこの話を出したのか。そうそう、『自分の都合のいいように解釈するのはやめなければ』と戒めるために私は常々この短編を思い出すのです。
 この短編で、男性はただ消しゴムとしての古いパンが欲しかっただけで1mmも好意を表していないにもかかわらず、女主人は勝手な解釈で勝手な行動をとって、結果男性の成果を台無しにしてしまうのです。
ああ膨らむ妄想の、思い込みの恐ろしさよ。

 なんか話がそれちゃったけど、
映画の「あらすじ」しか書いてないのにもう7000字超えちゃったし、最早ここまで誰もついてきていないと思うので、いつも通り通常運転で参ります。


 侯爵の屋敷から雨の中傘をさして帰る途中、以前目にしたショーウィンドウの吊るしのドレスの前で立ち止まるエイダ。まるで「自分はなんて身の程知らずだったのか、吊るしのドレスで十分な女ではないか」という表情で。

 次の日ディオールのサロンに行くと、親切にしてくれたマルグリートや、多くのスタッフたちが、肩を落としてドアから次々と出てきます。どうやらディオールの経営難のために解雇されたようなのです。
 エイダは皆をもう一度サロンに引き入れ、コルベールになぜ皆をクビにしたのかと詰め寄り、皆を引き連れてアトリエで働く皆にストライキをするよう呼び掛けて、さらに大人数になったスタッフたちを引き連れてディオール氏本人のところまでやってきます。
 エイダは会計係のアンドレが救済策を持っていること、時間を取ってアンドレの話を聞いてほしいとディオール氏に掛け合います。
 アンドレは戸惑いながらも、限定されたオートクチュールだけでなく、香水やストッキングなど誰もが買えるもの、”普通の女性が楽しめる贅沢”を提供する案をディオール氏に訴えます。
 サロンの前の道路で別のストに成功した多くの労働者たちが「労働者万歳!」と叫ぶ中、アンドレの訴えがディオール氏に聞き入れられます。
この改善案に「さらに多くのスタッフが必要」とのことでスタッフの解雇はなくなるのですが、
立場と面目がなくなったコルベールはディオールを去る決心をします。
 
 エイダとアンドレがコルベールの住所を訪ねるとそこは古ぼけたアパートで、いつもきつく濃い化粧と厳しく冷たい態度を保っていたコルベールは、家では戦争で大けがをした夫の世話をする地味で疲れた表情の静かな中年女性でした。
 改革を望まないコルベールは最初は復帰を固辞し、自分を「透明人間」だと揶揄しますが、エイダは「女性が席を立つと男性は10分も持たない、アンドレにもディオール氏にも今の水準は保てない」「私たちは似ている、ゴミを片付け庭を美しくする、誰も気づかないけど私たちがいないと全てが台無しになる」と説得、コルベールはディオールに戻る決心をします。
 
 そしてエイダはアンドレに対し、ナターシャに告白するよう言いますが、コルベールから、エイダの生き方にあこがれたナターシャが夢を追うためにディオールを辞めてパリから離れることになったと聞くのです。
 急いで駅へ向かうエイダとアンドレ。
広い駅でどこにナターシャがいるのかわからず、エイダは到着当日に夜を過ごした待合室へ向かうと、あの案内してくれた酔っぱらいたちに出会います。ちょうどそこに通りかかるナターシャ。
ナターシャは「今の生き方は本当の自分ではない」といい、ナターシャとアンドレはサルトルを引用して語り合います。エイダはさっさとキスをするようアンドレを促し、ナターシャはパリに残り哲学を学ぶことを決めるのでした。
 酔っぱらいに「パリで恋をしたかい?」と聞かれたエイダは「No」と否定しますが、続いて「今更と思ったけれど、そうでもないみたい」と答えます。
 侯爵の気持ちを勘違いしていたエイダですが、それでも高揚した気持ちですばらしいパリの数日を、ロンドンの自分の暮らしぶりからは考えられないような夢のような日々を過ごせたことを、改めて得難い経験だったと思い直したようにも思えます。

 次の日、いよいよエイダのドレスが仕上がりました。
エメラルドグリーンのドレスを身に付けて採寸台の上でクルクルと回って見せるエイダ。
ドレスもそうですが、エイダ役の女性の肌の、背中の、デコルテの美しさよ。見ていてほれぼれします。
 

 夢のようなパリでの数日の滞在を終え、自宅に戻ったエイダ。
 あわただしくドアをノックされ出てみると、女優志望のパメラが煙草をふかしながら、「プロデューサーに会える大事な機会なのに服がない、スターになるチャンスがダメになる」とエイダに訴えます。
 かわいそうに思ったエイダはパメラにドレスを貸してあげることにします。ドレスを着たパメラに「素敵よ」と声をかけるエイダの、微笑みながらも悲しみのないまぜになったなんともいえない複雑な表情。
 エイダはパメラにパリでの話をしようとしますが、パメラはろくに聞かず、「あなたなら助けてくれると思った」とにこやかに笑うとさっさと迎えの車に乗って行ってしまいます。

 翌日パメラの部屋を訪ねたエイダは愕然とします。
 パメラは不在で、椅子の上にはドレスがメモとともに無造作に置かれており、そしてなんとそのドレスは焼け焦げているのです。
 パメラが会場の暖炉の上の鏡で口紅を直していたところドレスの裾に火が燃え移り、とっさに水をかけられてパメラは無事だったようなことが書かれてあるのですが、メモにはエイダへの謝罪の言葉は一言も無いのです。
 エイダはパメラの部屋を出ると、鍵を郵便受けから中に落とし入れます。もう二度と来ないという意思表示でしょう。
 それにしても、エイダはパメラにドレス代を弁償してもらおうとは考えないのでしょうか。

 ろくに食事もできず暗い部屋で座り込むエイダ。
焼け焦げたドレスをもう一度部屋でしっかりと抱きしめると、あの辛いことがあるといつも佇む橋の欄干へたどり着き、思い切ってドレスを川へ投げ入れます
 430ポンド、数百万円する憧れのディオールのドレス!!
 一度も人前で着ることなく捨ててしまうのです。
(うそぉん、私に頂戴!って思わず声が出るところですね)
 
 ドレスは全部が焼けてしまったわけでなく前面の一部分だけなので、針仕事が得意なエイダならうまくリメイクして着ることができたかもしれません。
 けれどエイダには、単なる洋服ではなく「エレガンスや見識そのすべてを備えているディオール」を自分の手でリメイクするなんて思えないでしょうし、
このドレスをもしうまく直すことができても、自分の夢も親切心も尊厳もゴミのように踏みにじられた象徴になってしまったこのドレスに袖を通すことは考えられなかったのでしょう。

 ベッドから起き上がれないエイダを心配し、バイとアーチーが訪ねてきて、とうとう二人はドアのガラスをぶち破って家に入ってきます。
 バイは「どうしてあんな子にドレスを貸したのよ」と言って新聞を見せます。デイリーミラー誌の一面に、”ドレス炎上”というタイトルのつけられた焼け焦げたディオールのドレスを着たパメラの写真が載っているのです。
「あのドレスは見せるものよ。私は着られなかった、一度も」と絞り出すように言うとエイダは力なく虚空を眺めます。

 次の日、いつも「姪」だといって毎回違う若い女性を連れ込んでいる男性の依頼主といつものように屋敷の階段ですれ違います。今日は珍しく男性一人です。
 男性が落ち込んだエイダに声をかけエイダが「実存的危機です」と答えると、主人は陽気に「パリのせいだ。元気を出して。革命が来る」と言葉を残して出かけていきます。

 次に訪れた、あの500ポンドのディオールのドレスがあるお宅で、ガウン姿の女主人が「ディオールを燃やすなんてとんだ売名行為、なんてもったいない」と言いながら紅茶を片手にベッドに寝そべります。
 エイダは意を決してダント夫人に向き直り伝えます。「週末までに全額払ってください」
動揺する夫人に対し、「私を見下す人に忠誠は誓えません」と毅然と言い残しエイダは部屋を後にします。

 
 エイダが自分の家で植木の手入れをしていると、大きな箱の荷物と、一抱えもある赤いバラの花束が届きます。
 大きな箱はクリスチャン・ディオールからのもので、中には手紙が同梱されています。
 手紙には、
”ドレス炎上”写真をディオール氏もスタッフも皆見たこと、
そして”ゴミ王”と呼ばれていたアバロン夫人の夫が労働者のお金を着服していたことがわかり(だから労働者のストが起こりパリの町中がゴミだらけだったのですね)、アバロン家の資産は差し押さえられ夫人はドレスの仮縫いも清算もできなかったこと、
なのでディオールはアバロン夫人が横取りしたエイダが一番気に入っていたドレス「誘惑」を急いでエイダのサイズに仕立て直したと書かれてありました。
 また、アンドレの新しい宣伝の結果業績が順調なこと、一緒に送ったバラは侯爵からのものだとも書かれてあり、
最後は「クリスチャンと友人たちより」と締めくくられています。
 映像では箱を閉じる前に香水を振りかけ丁寧にリボンを押さえる描写などもあり、皆がエイダに心から愛と感謝を感じていることが伝わります。
 恐る恐る箱の薄紙をめくり、目を見張って口に手を当てるエイダ。

 ある夜の軍人会のパーティーで、階段を下りてくるエイダはあの憧れのガーネット色のディオールのドレス「誘惑」を着ています。皆が動きをとめてエイダを見守ります。
 私は直に見たことがありませんが、オートクチュールの数百万円のドレスには、きっとその場の時を止めてしまうぐらいの引力や凄みがあることでしょう。
 自信に満ちたエイダの穏やかな笑顔。
 友人のアーチーがドッグレースの取り戻した掛け金を持ってきてくれた時の約束通り、エイダとアーチーはダンスを踊ります。
バイも黒人男性からダンスを求められバイは「希望がいっぱいね」というと踊り始めます。
 陽気に笑うエイダとアーチー。これからのたくさんの希望の予感を感じさせる映像で映画は終わります。



あらやだ、10000字超よ。
もうただの映画のあらすじにこの字数。
ここまで読んでいる人はいないでしょうが、詳細を書きすぎたことでユニバーサルにしかられませんように。

 一人の寡婦が夢を追い求めたことで、
ディオールが新業態に活路を見出し、
善良で知的で美しいカップルが成立し、
肩ひじを張っていた中年女性が柔軟さを取り戻し、
そして何よりエイダ自身が、
最初は相手にもされなかったパリのメゾンに「友人」を得ただけでなく、
自分を見下す依頼主と決別し、自分の尊厳を取り戻すことができました。

ところで、どこまで史実に沿っているかわかりませんが、
アンドレ、ありがとね。
今庶民がアイシャドーなどで手軽にディオールのエレガンスに触れることができるのはあんたのお陰やで。

 このエイダの行動とそれにともなって起きた結果がトランサーフィン的にどうなのか、次回(今日疲れたのでもしくは近日中)に、自分なりに考えて書きたいと思います。 







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