須田さんから遺された宿題『メディアが伝えなかった復興物語』上映会開催までの経緯②
須田さんが倒れる2日前の12月22日。夕方からさばのゆでこの映画の上映会の相談をしていました。
『企業を巻き込んでビジネスになるイベントにして行きましょう。例えば◎△×●□☆の□◎×△さんに声をかけてみるとか』
もともと早口の人の言葉を聞き取るのが苦手なので、早口な須田さんの言葉は普段から半分ほどしか聞き取れてませんでした。話なんてものは10のうち確かなところがひとつでもあればわかるもんだ、と落語の金明竹にもあります。しかし、なぜか『ココは大事なところ。絶対に聞き逃してはいけない』と思いました。
『え?誰ですか?』
『◎△×●□☆の□◎×△さん』
『え?』(全然わかんない…)
『◎△×●□☆の□◎ハシさん』
『え?』(あ。ちょっと聞こえた)
『◎△×アー☆のタカハシさん。サーバー缶の』
『あ!あー!!!サーバー缶のタカハシさん!あの背高い人ですよね!こないだラスベガス行ってた人ですよね!』
『そうですそうです』
(よかった…やっとわかった…サーバー缶でわかった…よかった…)
Amazonクラウドなどのシステム業務を主とするIT企業、スカイアーチネットワークスさんは、自社ノベルティの『サーバー屋のサーバー缶』に木の屋さんのサバ缶を使っておられてます。須田さんとの繋がりは遡ること10年ほど前。販促商品のアイデアを探していた高橋さんは、面白いものはないかしらとネットサーフィンしていたところ、ひょんなことからさばのゆを見つけ、経堂を訪ねたのだそうです。
『返礼品をスカイアーチのサーバー缶にしたいんです。須田さんと私が出会うきっかけになった品なので』
通夜の準備でさばのゆに向かうと、なおこさんがそう言いながら、店内に置いてある缶詰を数えていました。
2023年版スカイアーチ販促サーバー缶のパッケージデザインは、須田さんがグラフィックデザイナーのはらだなおこさんに依頼して作成されたものでした。1月8日初顔合わせの打ち合わせ。3月8日さばの日にご結婚。事の速さに比例しない愛の深さに感嘆しつつ話を聞くうちに『◎△×アー☆のタカハシさん。サーバー缶の』という須田さんの言葉が、頭の中から、ボアン!!と出てきました。
『他社の缶詰を足せば、かろうじて間に合いそうなんですが』
『いや、せっかくの出会いの品。高橋さんの手元になら在庫があるはずです。ダメ元で問い合わせてみてください』(愛だな…愛…)
なおこさんが問い合わせると、高橋さんは在庫の段ボールを、会社から通夜葬儀会場である経堂の福昌寺まで、タクシーで運んで来てくれました(愛だな…愛が溢れてるな…)。
前日昼下がりから通夜葬儀手伝いを方々に連絡依頼、12月28日当日16時集合、約30名の有志の皆さんに各自担当指示、18時から通夜が始まりました(有志の皆さん本当にありがとうございました。お疲れ様でした)。
参列者の見送りで出口付近に立っていると、隣に見覚えのある人がいました。
『◎△×アー☆のタカハシさん。サーバー缶の』高橋さんだ。さっき缶詰運んでた人だ。ラスベガス行ってた背が高い人だ。間違いなくこの人だ。
参列者の波の切れ目で、意を決して話しかけました。
『サーバー缶の高橋さん、ですよね。実はご相談がありまして』
『はぁ…ボクに相談?ですか?』
高橋さんは、下がり眉毛をさらに下げながら、困惑した面持ちでそう答えたのでした。(続く)