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具のないピザ

今日は闘病記ではありません。
お話が作りたくなったのです(*´ω`*)
どうか時々妄想が始まる私にお付き合いください(笑)



ここはイタリアのとある片田舎にあるピザ屋さん。地元の海の幸、山の幸が乗ったボリュームピザが人気で、田舎だというのにこのお店だけはいつもたくさんのお客様で賑わっていました。

なのにこのお店のご主人は今日も仕事終わりに浮かない顔でため息をついています。いったいどうしたのでしょうか。
「今日もあいつは売れなかったんだよ」
ご主人はこの店の真ん中にある大きな石でできたピザ窯に向かって話しかけました。長年ご主人の右腕として一緒に働いてきたピザ窯は、昔からことあるごとにこうしてご主人の相談相手にもなっているのです。

あいつと言うのは、一枚のピザ生地のこと。塊のピザ生地を丸く平たく伸ばすのはお客様の注目をあびる華やかな場面。皿回しのように宙を舞いながら伸びていく生地はいつもお客様の喝采をあびています。そこまではいいのですが、ちゃんとのばしてあるにもかかわらずどうしても売れ残ってしまうピザがありました。
今日もその生地はトマトソースとチーズとオリーブ、アンチョビやきのこを彩りよくのせられて、大きな木のヘラでピザ窯に入れられました。
ところが、焼けたのを見計らって取り出されたそのピザはいつも具がありません。窯がみたところによるといつもこの生地は窯のなかでチーズが溶けるフリをしてグネグネとうねり、具を滑り落としてしまうといいます。これには窯もほとほと手を焼いていました。

いつもそのピザ生地はトマトソースとチーズだけになって焼き上がってきました。これでは売り物にはなりません。

「いったいどうしたもんだろう」

この日もご主人は窯に様子を見ておくことを頼んで、あのピザ生地を焼いてみました。でもいい頃合になるとやっぱり具を振り落としてしまうのでした。
「なにか言いたいことがあるに違いない。」
そう思ったご主人は仕事終わりにじっくりとピザ生地と腹を割って話すことにしました。もしこれでダメなら具を包み込んで焼くカルツォーネにしてみてもいい。と密かに考えていました。

ついにピザ生地は重い口を開いたのです。
いつもお客様が喜ぶのはたくさんの具の事ばかり。ボク達生地のことはただのチーズのお皿のようにしか思っていない。
チーズの乗っていないへりを残したり焦げていると嫌がられたり。ボクだってちゃんと小麦粉を練ってイーストで発酵させて手間ひまかけて作られてるんだよ。なのに生地を褒めてくれるお客様はいない。。ボクはトマトとチーズとせいぜいバジルだけでいい。それでも十分美味しいんだよ。

そうだったのか。わかった、もう無理やり具なんかのせないよ。シンプルなピザでいこうじゃないか。

そう言ってご主人は次の日からそのシンプルなピザを売りだしました。
売れるかどうか内心、心配だったご主人ですが、予想に反してたくさんのオーダーが入りました。
野菜嫌いの子供や、偏食気味な大人、まだ色々食べられない赤ちゃんや、たくさんの具を噛むのが苦手な老人まで。
なんとシンプルなピザは人気商品になったのでした。作るのが簡単だし、具がなくなっても作ることができるとご主人も喜んでいます。
こうしてそのピザはマルゲリータという名前でお店の看板商品になりました。毎日毎日たくさん焼かれて、お店はいつもお客様の笑い声が響いていました。
おしまい(*´ω`*)🍕


あとがき
お菓子屋さんでもオーブンの中で不思議な現象が起きることがあります。ちゃんと並べて焼いたクッキーが、バラバラになって焼けてきたり、隣とくっついて変形したり、焼いてる途中で生地が吹きこぼれて上に並べたはずのナッツがなくなったり(笑)そんな時、なにか物言いたげな形になったお菓子たちを見て考えます。どうしたらよかったのかなぁって。
そんなお菓子たちと対話するのがお菓子屋のお仕事。具のないマルゲリータを見た時、ピザにも色々言い分がありそうだなぁと思ってこのお話が浮かびました。ピザやお菓子が可愛く思えてきましたか?
そうだったら嬉しいです。

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