あっちゃんへ
あっちゃん、聞こえますか?
聞こえないですよね。今はまだ貴方に声を届けようとする人がいっぱいいて、とても騒々しいことでしょう。
それに私はそもそも不可知論者です。しかも魂の実在には懐疑的なんでした。
だったら私はいったい誰に話しかけているのでしょう? たぶん、35年間、ずっと私の中に住んでいてくれた「BUCK-TICKのヴォーカル 櫻井敦司」さんに、なんでしょうね。
現実の世界に生きた櫻井敦司とは少し違う、私だけの「BUCK-TICKのあっちゃん」。
だから異様に馴れ馴れしかったり、「そんなこと知るかよ」みたいな話があったりするかもですが、そこは笑って見ていてください。
ところで、話しかけている私も現実の世界で生きている私とは少し違います。
今ここで文字を打っているのは、35年前にBUCK-TICKを知り、大阪の地から貴方達に恋い焦がれていた17歳のたこ焼き娘です。
毎日欠かさず「SEXUAL×××××!」と「ROMANESQUE」と「SEVENTH HEAVEN」をローテで聴いていたBUCK-TICK一年生です。
授業もロクに聴かず、下敷きに挟んだ貴方達の写真を日がな一日飽かず眺めてはニヤニヤしていたちょっと痛い高2女子です。
長いこと眠りについていたのですが、あのお知らせによって叩き起こされ、以来ずっと泣いています。52歳の私に「もういい加減にしてくれ、生活に支障が出ている」とガチギレされるほど泣いています。
でも、何を言われても、泣き止むのは無理です。だって、人生の中でこれほどのつらさに遭ったことなんてなかったんですから。
もちろん、たこ焼き娘から卒業したその後の人生の中で何人も親しい人を――肉親も含めて見送ってきました。そして、そのたびに悲しく寂しい思いをしてきました。でも、一つの悲しみをここまで長い期間ひっぱるのは初めてです。
あ、ちなみに今日は12月23日です。二度目の月命日が過ぎて4日目の朝が来て、お知らせからはあと1日で2ヶ月経とうとしています。
私、小説なんかに出てくる「ずっと泣き暮らす」という表現は文学的修辞であって、現実にはありえないと思っていたんですよ。でも違いました。人間、本当に2ヶ月泣き暮らせるもんなんですね。びっくりですよ。おかげで今後は仕事で本を読む時の解像度があがりそうです。
とはいえ、御礼は言いません。言えません。むしろ、未だに本当に勘弁してくれ、と思っています。時々、怒りさえ湧いてきます。怒りの矛先はもちろんあのクソ使えない神様とかいうヤツですが。
そういうぐちゃぐちゃの感情を整理するために、追悼文を書いてくれと何度も52歳の私……生意気なことにプロの物書きなんですが……に頼んだもののバッサリ拒否られました。
金も貰えないのにたこ焼き娘の嘆きなんて書けるかバカ、なんだそうです。でも、本当はたぶん怖いんだと思います。プロの端くれのくせに、エモーション過多のクソ文しか書けないのが。ほんと、どうしようもないヤツです。
でも、許してやってください。こいつはこいつで、やっぱりつらいみたいなんですよ。熱量はたこ焼き娘たる私が一番かもしれないけど、BUCK-TICKと一緒に時を歩んできたのは52歳のコイツなんで。35年を2ヶ月やそこらで整理するのは無理なんだろうと思います。
ところで、お知らせのあったあの日から、ずっと頭の中に響いているフレーズがあります。
BUCK-TICKとは関係ないところで発せられた言葉です。
忌野清志郎のロック葬で、甲本ヒロトが絞り出すように発した言葉です。
「ひどいよ、この冗談は……」
ほんとにひどいよ、あっちゃん。あっちゃんって意外と冗談好きなのかなっていうのはここ数年で思うようになりましたが、でも下手の横好きなのかもしれない。
笑えないよ、この冗談は。
でも、それでも冗談だったらいいのに。29日の武道館で「実は冗談でした!」と舞台に登場してくれたら、もう全然許す。そりゃ、ちょっとは怒るかもしれないけど。どれだけつらかったと思ってるんだ! って。でも全然許します。というか、どうかそうしてください。
あ、また52歳の私が怒ってます。これから買い物に行かなきゃならないのに、そんな腫れた目でいくつもりか、って。うるさいから、一度引っ込みます。
でもまだまだお話したいことがあるので、明日も出てきますね。
今夜はちわきまゆみさんが番組であっちゃん特集をしてくれるそうですよ。すごく楽しみ。
じゃあ、あっちゃん。またあした。
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