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癸卯葉月 処暑 四国行 夏休み編その1
廿七日 午前
温泉宿に泊まったら早起きして朝風呂せねば気が済まぬ貧乏性ゆえ今朝も五時起き、開湯時刻にあわせて大浴場へ赴く。他に人もおらぬだろうと思いきや、同じことを考える人が多数いるとみえて、洗い場は夜より盛況。それでも混んでいるというほどでもなく、朝日輝く露天風呂を堪能した。
炎陽の 倒景もおかし 湯の面
今日の午前は宇佐美まことさんのご案内で松山観光……なのであるが、その前にごくプライベートな予定を入れていた。
義理の伯母の墓参りである。色々と事情があって長らく疎遠になっていたのだが、伯母の息子である従弟の結婚式で墓が松山にあると知ったのが講演会が決まったほぼ直後。これもご縁かと思い、従弟妹たちの許可を得てお参りさせてもらった。
墓地は車がないと行けない場所なので、宇佐美さんにお願いして連れて行ったいただくことにしたのだ。迷惑な訪問客であるが、二つ返事で御快諾くださり、晴れて墓参叶った。
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墓は風がよく通る、眺めのよい高台にあった。
手を合わせ、無沙汰を詫び、なにやら胸のしこりが失せたような、そんな気がした。まるでこの景色のようにすっきりとした気分だ。
お参りが終わって、いよいよ”わたしの夏休み”の開始である。
松山市はこれまで複数回訪れたことがあるのだが、なぜか松山城は未訪の旨、宇佐美さんにお伝えしたら御案内くださることになった。ちなみに、松山城の麓一体は宇佐美さんの小説『少女たちは夜歩く』の舞台でもある。
宇佐美さんの数ある作品の中でも特にお気に入りの一作なので、その舞台を歩くことであのじんわり迫る恐ろしい気配を感得でき……ればよかったのだが、あいにくこの日はピーカン晴れ。燦々と降り注ぐ太陽光はどちらかというと映画の「ザ・ビーチ」とか「オールド」寄りで、情緒はなきに等しい。
それでも、城山をロープウェイ登った先にある城郭は美しかった。
特筆すべきは精緻な石垣の曲線美だろう。
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どのようにすれば積み上げた石でこの曲線が出るのか。
石垣の美というと、沖縄県のグスクが圧巻だが(とりわけ今帰仁城の美しさ!)それにも負けぬように思う。
巨石さえ 融通無碍の 古匠かな
もちろん天守にも登った。
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どこの城でも天守から眼下を眺めると天下人の心地を少し味わえる気がする。
松山城の天守も見通しの良さ(つまりは戦のしやすさだが)は言うまでもなく、風通しもまた格別だった。宇佐美さんと、きっと殿様たちもここで納涼の酒盛りでもしたことだろう、というような話で盛り上がる。
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下城後はかき氷で一服。食べ終わる頃には汗が引いていた。やはりかき氷は偉大だ。
城の見学後は、城下町を少し散策した。コロナ禍で激減していた観光客もかなり戻りつつあるとか。土産物屋のみなさんもほっとしていることだろう。
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