首の皮1枚で助かる! JRAトラッキングシステムはラップタイムを非公表(無料)
お気づきの方も多いように、JRAでは、一部レースの実況画面で、全馬の位置取りを、グラフィックで示すようになりました(競馬場ごとに順次試験中)。これは全馬がGPSセンサーを装着することで、可能になっています。
これまでは、先頭から3番手までの馬番(JRA職員の手入力)しか示されず、競馬ファンにとっては買った馬がどこにいるのか分かりづらい面がありました。このシステムは大変好評のようです。
ところがJRAは、技術的には可能な「各馬のラップタイム」の公表は見送りました。これに関しては、一部の専門家から「腰砕け」「肩透かしを食らったような気持ち」と、反発がありました。
しかし、競馬の近未来を見通せば、多くのファンにとって「助かった」「首の皮1枚つながった」と言えます。JRAの賢明な判断でした。
その背景には、取りも直さずAI予想の進歩があります。2022年8月、ある有名なAI予想が、非常に回収率が高く、オッズへの影響が不可避となり、公開を中止したのは記憶に新しいところです。
一方、非AIの従来の専門家は、事前買い目登録に基づく年間の回収率の表示がある「ウマい馬券」や「レジまぐ」に参加する人は決して多数派ではなありません。多くの予想家は、最近の好配当の表示に留まっています。非AIの従来の専門家で、オッズを動かし、ついには買い目に集中票が入り、儲けが確保できない段階にまで達した人は聞いたことがありません。
今後、AI予想が、手動予想を追い詰めてゆくという見方は、何度も耳にしています。
「各馬のラップタイム」の公表は、手動予想の「敗北」を数年早める劇薬でした。現在は、手動予想でレースVTRをしっかり見ている人にしか分からない情報が、「じり脚だった」「良い脚を長く使った」「着順には反映されない決め手を発揮した」「距離に合う走りを見せた」「スタミナを見せた」などです。
(2022年版)ダート戦で、人気で飛びやすい馬の見極め方~未勝利戦、重賞でのVTR検討の方法~
これらの競走馬の個性は、精度の高い予想には不可欠であり、もしAI予想に取り込まれた場合、AI予想は数段程度の進歩があったでしょう。その意味で、今回「各馬のラップタイム」の非公表は、多くの競馬ファンにとって首の皮1枚つながった、命拾いした措置だったとも言えます。
実際にJRAも、ラップタイムの公表は、「生身の馬が走るという競馬の本質から外れる」とし、レースVTRを見なくても良くなることで、競馬を見る楽しみが失われることを示唆しています。競馬の醍醐味は、素晴らしいレースや駆け引きを見て、楽しめば楽しむほどお金も入るという点です。JRAの「運用には慎重を期す」という判断は極めて賢明でした。
現在、AI予想(機械学習)は、誰でも簡単に使えるようなソフト化はされておらず、理系の院卒など、応用数学が理解できる人のみが扱える技術です(応用数学は知らなくても動きますが、精度に限界が出ます)。
早ければ3年後、2026年頃にはソフト化が始まり、5年後の2028年には、ソフトが洗練され、勝てる競馬ファンが続出するはずです。言い換えれば、あと5年は手動予想だけでも勝負になると思いますし、ソフトの普及に備え、手動予想の総仕上げを図るべき時期とも言えます。
しかし、ラップタイムの公表があれば、2年後にはデータが溜まり、AI予想側の取り分が増え、多くの競馬ファンがかなり負け始め、競馬をやめ始めるファンが出ていたかもしれません。
もとより、パトロールフィルムを公開している以上、画像解析で、各馬のラップタイムや位置取りがデータ化されるのは時間の問題です。しかし、その人が技術を開発し公表するまでには、5年程度は見込まれるでしょう。JRAとしても、画像解析の技術進歩を見守り、隠しても意味はないという段階まで、ラップタイムの公表は遅らせるのかも知れません。
今回、多くの専門家が、ラップタイムの公表取りやめに否定的だったのには、少し驚きました。早々に取り入れ勝てる自信があったのだと思いますが、多くの一般のファンにとっては、競馬予想の流れを変えかねないできごとでした。
現在、手動予想が得意な専門家や競馬ファンは、最強の戦国武将・武田信玄のようなもの。強い予想力で大きな力を持っています。しかし、AI予想は、まさに信長鉄砲隊のような存在。ある戦いで、武田の騎馬隊を撃沈したと伝えられています。鉄砲隊の技術は、信長から秀吉、徳川家康へと受け継がれ、天下取りにつながりました。
当時、各武将が苦労したのが、銃弾に加工する鉛の入手です。ラップタイムの公表は、AI予想陣に、鉛を供給するに等しいものでした。
手動予想、AIとも筆者のメルマガ塾にて、さまざな技術をお伝えしています。