中央線とビールの味
中央線。大学時代のにがい記憶を思い出す。
いまからもう5-6年も前なのか。
午前授業の眠すぎる朝。友だちと談笑した帰り道。はじめて恋人と出かけた週末。
晴れの日も雨の日も経験したのが中央線だ。
そんな中央線沿線で、わたしは今日懐かしい人たちと会っていた。
このメンバーで会うのは実に5年ぶりだろうか。
わたしたちは18歳の夏に出会った。
ひょんな運命で大学のとある活動の幹部をひきうけることになり、右も左もわからないのに、やることと責任だけは一丁前にあった。
当時のことはほとんど記憶にない。けど、自分がちっとも冷静じゃなくて、周りにたくさん迷惑をかけたこと、ひどいことを言ったことははっきりと覚えていた。なかなかにがい記憶だった。
だから、ちょっと怖かった。会ってしまったらまたあの大嫌いな自分を思い出すんじゃないか。中央線に乗りながら怯えていた。
中野駅で再会したわたしたちは、25歳になっていた。みんなすっかり「おとなの顔」をしていた。そしてわたし自身も、なんだかまるくなっている気がした。
わたしは安心した。
学生のときのように人を傷つけてしまう自分じゃない。ちゃんと反省して、ちゃんと変われたんだと。
・・・
わたしがブレーキをかけすぎていることに気づいたのは、友人だった。
「あなたのこと、あのときからおもろいやつって思ってる。そして今日までいろんなこと気をつけて過ごしてきたのも知っている。でも、あのときのままでだって、いいんだよ」
わたしはこのときの感情を、なんと呼んだらいいかわからなかった。ありがたくて、ありがたくて。照れてぬるくなったビールを飲み干すしかできなかった。
さすがにちょっとにがかった。
中央線を見るとにがさを覚える癖はなかなか治らない。でもこの味を思い出すのも、そろそろおしまいにしていい気がしてきた。
「そんなに嫌いにならなくてもいいんじゃない」
そう、あのときの自分に言い聞かせてみる。
だって、あなたがいなかったら今日の言葉にも出会えなかったのだからね。
ありがとう。