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ちぎれ雲と雲ちぎり仙人
秋風が吹く頃になると、雲ちぎり仙人は向こうの山からやってくる。
ものすごく歳をとっていて、頬の少しこけた、しかし背筋はシャッキリ伸びていて、いかにも職人ぜんとした風貌である。
雲ちぎり仙人はその名の通り仙人なのだが、あまりにも長生きなので、収めるべき修行はほとんど全てなくなってしまった。
なので仙人と言っても、毎日山をひょいひょい飛び回りながら、花を咲かせ、動物とおしゃべりをし、川のせせらぎに耳を傾けるような生活である。
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左からねこっぽ草、プシュプシュ草、ベロリンチョ・べローリ
ただ秋口は何か風流な遊びでもしたくなるようで、それで雲でもちぎってみるか、と山を越え越えやってくるのである。
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雲ちぎりは仕込みがじつにに大切だ。
雲の元となる生地をどれだけ柔らかくできるかで雲の形が変わってしまうからだ。みなさんもその違いをじっさいに目にしたことがあるかもしれない。
全ての雲が同じ大きさ・等間隔で並んでいるちぎれ雲は、これはとっても柔らかい生地でできた雲だ。
生地が柔らかくふかふかなので、素早くちぎっても形が揃い、空に浮かべた後も安定して広がっていく。
一方、柔らかさが足りなかったり、乾燥した生地だと形は揃わず、ぶちぶちとした印象の雲になる。
だからこそ、彼は生地の仕込みを決しておろそかにしないのだ。
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生地の仕込み工程を、特別に一部ご紹介しよう。
生地の材料は彼だけの秘密だ。噂では色々な色の瓶をもってきて、光る粉や艶々のゼリーに似たもの、ザラメのようなものを次々と混ぜ込んでいく。
一見ひとつの生地にはならなそうなものだが、彼があれこれするとだんだんと生地が出来上がってくるから不思議である。
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そうしたら今度は丁寧に、丁寧に手ごねして、夜の間中月明かりの下で発酵させるのだ。秋虫の、コロコロコロ、リーリーリー…こんな音を聞かせれば聞かせるほど、生地はやわらかくなっていく。ここまでできるとようやっと生地の仕込みができたことになる。
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そして空がよく晴れた日が来たら、彼の出番。
やまのてっぺんまでひゅーっと飛んでいって、ふかふかの生地をちぎり、ちぎり、青空に並べていくのである。
空に浮いた生地は、さすが彼の仕事というべきか、なんとも軽やかに空の奥へ、奥へと広がっていき、あっという間に空の半分ほどを埋め尽くした。
今日の生地もとっっても柔らかかったので、等間隔に雲がふわふわと浮いている。
「ふう」彼はようやっと一息つくと、満足げに生地たちを見送りながら、また明日の仕込みを始めるのだ。
次にちぎれ雲を見つけたら、ぜひどんな風だったか教えてほしい。
ちぎれ雲をみれば、彼が元気でいることがわかるのだから。
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