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ファムファタル・コンプレックス【2:2:0】【ラブストーリー】

ファムファタル・コンプレックス
作・monet

※全ての役にセンシティブなシーン・内容が多く含まれます。上演前にご確認ください。
※お話の内容ゆえ、15歳未満の閲覧・上演は非推奨です。

イメージイラストは杉桧華粉様に描いていただきました!(※画像の保存、再使用は禁止です。)

●所要時間:約35分~40分

●登場人物
青砥 達也(あおと・たつや):男。20歳。大学二年生。バンドサークル所属だがほとんど顔を出さない。ドラマー。ライブハウスでバイトをしている。基本クールだけど人情味がある。

狛江 清花(こまえ・さやか):女。21歳。大学三年生。律輝とセフレだけど律輝に片想い。ベースがめちゃくちゃ上手い。麗子ともう一人(ドラム:メイ)とガールズバンドを組んでいる。ふんわりダウナー女。麗子より落ち着いた性格(中身が落ち着いているとは言っていない)

成瀬 律輝(なるせ・りつき):男。23歳。大学五年生。麗子と付き合ってるけど、清花とセフレ。統合失調症(精神疾患の一種)を患っていて、その影響で一年半休学していた。ギターが上手い。病気のせいで精神的に不安定だが、元々は面倒見のいい性格。休学前はサークル内でも人気者だった。

湯島 麗子(ゆしま・れいこ):女。21歳。大学三年生。律輝と付き合ってる。清花と組んでいるバンドでギターボーカルをしている。可愛くて明るくて女の子らしい。サークルのマドンナ的存在。
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【本編開始】

清花:(※一人つぶやく)あ……。……やっぱり、陽性だ。

清花:(M)——妊娠を、した。親友の彼氏との子供だった。一応産婦人科にも行ったけれど、間違いないとのことだった。

清花:……律輝(りつき)さん。麗子(れいこ)。……言えないよ、こんなこと。

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●大学

麗子:ねえ、清花(さやか)!

清花:ん~?

麗子:うちらってさ、親友だよね!

清花:は~?そんなに仲良いか~?

麗子:えええ!?ひっどお!!そんなこと言われたらヘラっちゃう!!

清花:ん~。……まあ、でも、いちばん一緒に居て落ち着く存在かもね。

麗子:それを親友って言うんだよ!!

清花:そっか。……じゃあ、よろしく?親友。(※手を差し出す)

麗子:(※清花の手を両手で握って)うん!よろしく、親友!……って、なんかこれも変だね。(※笑う)

清花:たしかに。(※麗子と一緒に笑う)

(間)

麗子:ずっと親友で居てね。清花。私、清花が傍に居てくれないとヘラっちゃうんだから。

清花:このメンヘラめ。

麗子:清花も人の事言えなくな~い?

清花:……まあね。

―2人で笑いあう。

清花:あ。そういえば律輝さんとはどうなの?上手く行ってる?

麗子:え?……ああ、うん。上手く行ってるよ。

清花:なんか困ったこととかない?ほら~、あの人さ、不安定じゃん?けっこうさ、

麗子:(M)なんで清花がそんなこと気にするの?とは、聞けなかった。

麗子:大丈夫だよ!確かに不安定な時は不安定だけど、今のところ困ってない!ありがと、清花!ぎゅーしよ、ぎゅー。

清花:うわっ、ちょっとお!くっつくな!

麗子:え~~??いいじゃんか~~!!

麗子:(M)清花から感じた違和感。——最近の清花は、律輝さんの部屋のお香の匂いがする。

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●律輝の家

清花:ただいま。……律輝さん、寝てる?……あ。またスニッフしてる。

清花:(M)沢山の錠剤のシートの空き殻と、すり鉢に青い粉。細いストロー。

律輝:(※寝息)

清花:ラリってる時に起こすとダルいんだよな……。うーん。せめて毛布でも……。

―清花は毛布を持ってきて、律輝にかけようとする。

律輝:んん~~(※清花に抱き着く)

清花:うわっ、ちょっ

律輝:(※気持ち悪そう)う~~、清花~。帰ってきたなら言えよ~~。

清花:……はいはい。よしよし~。……すみませんでした、律輝さん。

律輝:清花~~。

清花:はい。ここにいますよ。

律輝:……死にたい。

清花:(※妊娠の事は言えないな)……そうですね。しんどいですね。

律輝:清花はさぁ~。こんなことしてていいのか?

清花:こんなことって?

律輝:……俺の事、好きなの?

清花:……。

律輝:なあ、清花

清花:(※被せて)好きですよ。どうせこんなこと言ったって覚えてないでしょあなた。

律輝:(※虚ろに)清花、かわいい。……こっち向いて?

清花:……。あっ、ちょっと

―律輝から清花にキスをする。(※長め)

清花:や…だ…っ

律輝:やだじゃないでしょ。(※またキス)

清花:んっ…やめっ

律輝:やめない。(※またキス)

清花:(M)——そうだ。私はどうしようもない。どうしようもないこの人のことが、どうしようもなく好きで、逃れられないのだ。

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●大学

清花:(M)講義に出る気が起きない。まあ、いいや。部室でベースを弾いていよう。何にも考えなくて済むし。

達也:(M)——何となく。その日は本当に何となく。サークルの部室に立ち寄ることにした。どうせこの時間、誰もいないだろうし——

―扉を開けようとする達也

達也:あれ。

達也:(M)まだ講義中だというのに、先客が居た。なかなかこの部室では聞かない。プレシジョンベースの音。——誰が演奏しているのかすぐに分かった。

●バンドサークル・部室

清花:あれっ、たっちゃん?久しぶりじゃん~。サボり?

達也:……言っときますけど、その呼び方するの清花さんだけですからね。

清花:嫌だった?

達也:(※ため息)勝手にしてください。

清花:ふふ~。かわいいねぇ。たっちゃん。

達也:……。清花さんこそ、サボりですか?

清花:……はは。うん、ご明察。だるくてずっとベース弾いてた。

達也:まあ、俺はサボりじゃないんすけどね。臨時休講でやること無くて暇だったから、何となく寄っただけっすよ。

清花:そっか~。でもたっちゃんが来てくれて良かった。

達也:……。

清花:——独りだとほら、寂しいからさ。

達也:……。せっかくなら、合わせましょうか。スティック持ってきたんで。

清花:ほんと~?嬉しい。たっちゃんとは音楽の趣味も合うしねぇ。お願いしちゃお。

(間)

―部室に誰かが入ってくる

麗子:あれ~?清花と達也じゃん。そんな仲良かったっけ二人。

清花:……。

達也:たまたまっすよ。臨時休講になったんで。

麗子:ふ~ん。そっか。じゃあ私も仲間に入れてよ。チューニングするから待って。

清花:はいよ~

麗子:メイ(※バンド仲間)居ないけど、SAKANA(さかな)の曲やらない?ど?

清花:私はいいけど、たっちゃんは?

達也:……完璧には無理っすけど、合わせるだけなら。

麗子:よ~し決まり!じゃあ、『水槽の恋』!この曲からやろ!

清花:はいは~い、私いつでもいけるよ~

麗子:ちょ~っと待ってね~!

―麗子と達也、各々準備

達也:お待たせしました。こっちも大丈夫っす。

麗子:私もオッケー!

清花:はいな

麗子:よ~し。じゃあ達也!カウントお願い~!

達也:うす。じゃあ行きます~

―達也がスティックを打ち合わせて4カウントする。(※何か音が出せるとよいです。)

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●律輝の家

麗子:ねえねえ、律輝!クリスマス、どうする?!

律輝:どうするったって……。あ~……。ケーキでも買うか?

麗子:え~~!せっかくだからどっか出かけようよ!あ、私イルミネーション観に行きたい!

律輝:……遠出しんどい。

麗子:も~~。律輝はいっつもそうじゃん。……まあ?病気のこともあるし、理解してるつもりではありますけど?

律輝:(M)それが理解してる人間の発言かよ……。

麗子:ま!それならお家でゆっくりでもいっか~!せっかくならちょっといいケーキ頼もうよ!ほら、レザネフォールとかさ!

律輝:俺、金無いんだけど。

麗子:そんなこと私が知らないとでも思った~~??今回は麗子ちゃんの奢りです!!

律輝:……なんか、悪いな。

麗子:へ!?なんで!?

律輝:いや、その……。なんというか、彼氏らしいこと全然出来てなくて。

麗子:……うーん。……ねえねえ、律輝はさ、私の事好き?

律輝:好きだよ。

麗子:私はちゃんと律輝の彼女?

律輝:麗子はちゃんと俺の彼女だよ。

麗子:……うん。なら!それでよーし!!私は、律輝の彼女で居られるだけで幸せなんだからね!!

麗子:病気のことも、一緒に治していこうよ。何も心配要らないからさ!ね!

律輝:(M)可愛くて明るくて、誰もが羨む理想の彼女。
律輝:(M)——麗子は、本当にいい子だ。いい子なんだけどなぁ……。正直、ずっと一緒に居るのは、しんどいんだ。

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●大学

―達也が部室に入ろうとすると、ギターの音が聞こえてくる。

達也:(※窓から覗く)ん……?誰だ……?見たことない。うちの部員じゃないよな……

清花:たっちゃん何してんの~?

達也:……。清花さん。お疲れ様です。

清花:おつかれおつかれ~

達也:……あの人誰っすか?めちゃくちゃギター上手い。

清花:あの人は成瀬 律輝(なるせ・りつき)さん。一年半休学してて今年の後期から復学したから、私の二個上。たっちゃんの三個上だね~

達也:休学……。そうか、だから見たこと無かったのか。

清花:一応挨拶しときなよ。怖い人じゃないよ。

達也:ハイ。

―部室に入る達也

律輝:ん。(※ギターを弾く手を止める)

達也:初めまして!あの——

律輝:(※被せて)だれ?

達也:二年の青砥(あおと)って言います!

律輝:下の名前は?

達也:え?ああ、いや……。結構みんな青砥って呼ぶんすけど……

律輝:下の名前

達也:達也……っす。

律輝:よし、達也な。よろしく。俺は律輝(りつき)。成瀬 律輝(なるせ・りつき)。

達也:成瀬、さん。

律輝:律輝

達也:あハイ!……律輝さん。

律輝:俺、去年一年と今年の前期休学しててさ~、ぜんっぜん大学居なかったから友達すくねえの。仲よくしよ~ぜ~。

達也:はい。よろしくお願いします……。

律輝:で?パートは?

達也:ドラムっす。

律輝:ふーん。どれくらい叩けんの?

達也:えっと——

清花:ちょっとちょっとストーーーップ。あんまり後輩に詰め寄らないでくださいよ?

律輝:……あれ、清花(さやか)じゃん。なに?俺そんなに詰め寄ってた?久々過ぎてわっかんね~後輩との距離感。

清花:もう~。お手柔らかにお願いしますよ~?

律輝:んなこと言ったってなあ……

達也:あの!!

律輝:?

清花:…たっちゃん?

達也:俺は、全然嫌じゃなかったっすよ。ぜひ、仲良くしてください。律輝さん。……早速セッションでもします?

律輝:……お。いいね~。なあ清花、こいついい奴じゃん。

清花:あはは……

律輝:早速合わせようぜ!達也!!

達也:はい!律輝さん!

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●大学
●バンドサークル・部室

清花:あれ?たっちゃん?

達也:お疲れ様です。

清花:講義終わりに部室来るなんて珍し。

麗子:ほんとじゃん~!嬉しい嬉しい!手伝うから思いっきり練習してってよ!

達也:まあ、今日はバイト無いんで……。暇だったといいますか。

麗子:いいな~!ライブハウスのバイト!

達也:どうなんでしょう。楽っちゃ楽ですけど、きついときはきついっすよ。

清花:え~バイトって大体そういうもんじゃん?

麗子:でもでも!音楽やってる身としては憧れるじゃない!?

清花:ん~まあ、そう言われたらそうかも?

麗子:んもう!清花ったら!本当は憧れてるくせに!!

清花:別にそんなことないです~

麗子:嘘だ~!こないだ言ってたじゃん!!

清花:言ってません。

麗子:絶対言ってた!!

達也:あはは……相変わらずお二人は仲良いっすね。

清花:(※小声)どうかな。

麗子:(※清花の言葉は聞こえてない)そうだよ!!めっちゃ仲良し!!大親友!!

―麗子に着信

麗子:っと、あれれ?電話~?誰からだ~?

―画面を見た瞬間、麗子の表情が変わる。

麗子:ちょっと電話出てくるね!達也も清花も、ごめん!!

―麗子、その場から去る。

清花:(※溜息)ありゃあ彼氏だなぁ……。もう今日は戻ってこないね。

達也:麗子さんの彼氏?

清花:そ。こないだ挨拶したでしょ?律輝さん。あの二人付き合ってんの。

達也:……え。まじすか。

清花:マジマジ。超ラブラブなんだよね~あの二人。(※思ってない)

達也:ふーん……。

(間)

清花:……。あのさ、たっちゃん。

達也:はい?なんすか、清花さん。

清花:今日この後、時間ある?

達也:?はい。バイト休みなんで暇っすけど。

清花:……ちょっと相談乗って貰ってもいいかな?

達也:え?あ、はい。俺でよければ。

清花:ありがとう。

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●ファミレス

達也:は!?妊娠!?

清花:しっ!あんまり大きい声で言わないで。

達也:……すんません。でも、俺びっくりして。てか清花さん彼氏いたんすね。

清花:彼氏なんていないよ。

達也:は?

清花:彼氏なんていない。だってこれは……律輝さんとの子供だもん。

達也:(※混乱)え、は?律輝さん……って、え?でも、律輝さんは麗子さんと付き合ってて……

清花:そう。たっちゃんの言う通りだよ。……ハハ。サイテーだよね。私。

達也:……。

清花:だから堕ろすことになると思うんだけど、なかなか律輝さんに言い出せなくてさ。

達也:……。

清花:はぁぁ~~~。ねぇ~どうしよう~、たっちゃん。

達也:……。それはさすがに、自分から言った方がいいんじゃないっすか。

清花:分かってる。分かってるよ?もちろん自分から言うつもり。……でも、でもさぁ~~。

達也:どうやって切り出したらいいか分からない?

清花:……うん。たっちゃんの言う通り。

(間)

達也:……まあ、一緒に考えるくらいならできますけど。

清花:!!ありがとう!もう~~本当にいい子!!たっちゃん大好き~~。

達也:(M)「大好き」とか。そういうこと、好きでもない男の前で言わない方がいいですよ。清花さん。
達也:(M)——俺けっこう今、本気でショック受けてるんですから。

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●律輝の家

律輝:(M)身体も頭も怠い。言うことを聞かない。薬も効かない。飲んでも飲んでも効かない。

律輝:~~っんだよぉ!!こんなものっっ!!!(※薬を投げてばらまく)あああぁぁぁ~~~~~…………

律輝:(M)部屋中に虫が湧いている(※幻視)。気色悪い。うるさい。うるさいうるさい。声が鳴りやまない(※幻聴)。攻撃、されている。誰も彼もが俺のことを責めていやがる(※被害妄想)。やめろ、見ないでくれ。やめろ。やめろやめろ。お願いだから!

律輝:…やめろ。やめろよ……。やめろ!!やめろやめろやめろ!!!許してくれ!!!!!許してくれえええええ!!!!!もう誰も俺のことを見るなあああああ!!!!!!

―誰かに後ろから抱きしめられる。

律輝:っっ!?誰だ!?!

清花:律輝さん。清花です。……律輝さん。

律輝:ぁ……さや、か……。

清花:大丈夫ですよ。律輝さん。……よしよし。

律輝:清花ぁ……(※うなだれる)

清花:よーしよーし。大丈夫。大丈夫ですよ。

清花:(M)私はこの時、律輝さんがずっと私の腕の中に居ればいいと。そんな都合のいい妄想をしてしまっていた。……そんなこと、あるはずないのに。(※妊娠のことを打ち明ければ)

律輝:(※清花の腕の中でうなだれている)

清花:……律輝さん。ねえ、律輝さん。

律輝:……?

清花:私の事、好きですか?

律輝:……。

清花:ふふっ。分かってました。律輝さんの彼女は麗子ですもんね。あんな可愛くて気が利く女の子他にいないもんなぁ~~。……ちょっと、嫉妬しちゃう。

―清花、律輝を離し、正面に向き直る。

清花:(※律輝の目を見て)その上で、律輝さん。聞いてもらいたい話があります——。

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●大学・バンドサークル部室

―どことなく元気がないが、いつものように振舞おうとしている麗子。

麗子:あれっ、達也じゃん。おつかれ~。

達也:お疲れ様です。麗子さん。

麗子:最近よく部室来るよね。バイトは大丈夫なの?

達也:まあ、はい。なんというか、学生らしいこともしとかないとな~みたいな感じで。

麗子:ふぅん。ちなみに今日清花はスタジオ練だから来ないよ。

達也:へっ?……あ。(※少し固まる)

麗子:(※見かねて吹き出す)まさか図星~?カマかけただけだったんだけど。(※笑う)

達也:えっと、

麗子:ほんっとモテるよね~。嫉妬しちゃうなあ。

達也:……そうなんですか?

麗子:(※遠い目をして)……うん。ずるいよね。

達也:ずるい?

麗子:(※小声で)私の彼氏だったのにな。

達也:……麗子さん?

麗子:ううん!何でもない!せっかくだから一緒に練習しようよ!覚えたいギターのリフがあってさ——

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(回想・時を少し遡って)

●律輝の家

―清花は律輝に妊娠の事を打ち明けた。
―重い空気が漂っている。

律輝:申し訳ない。……子供は、堕ろしてほしい。

清花:……はい。そう言われるって、わかってましたよ。

律輝:金銭的な余裕が全く無いんだ。安全に産ませてあげられるかすら分からない。

清花:……え?

律輝:だから、今回は諦めて欲しい。堕胎費用は俺が何とかするから。

清花:今回は……??えっと、あの、律輝さん……?何の話をしているのか……。

律輝:麗子とは別れる。だから、俺とちゃんと付き合おう。清花。

(回想終了)

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●深夜・達也の家

―達也のスマホが鳴る。

達也:は?ったく誰だよこんな時間に――って、麗子さん!?(※急いで出る)

達也:あの、もしもし!?

麗子:(電話)『達也、ごめん急に。今から家行ってもいい?』

達也:え、は、え!?急にどうしたんすか。麗子さんがそんなこと言うなんてめずら(※察する)……わかりました。狭いし散らかってますけど。

麗子:(電話)『……ありがと。達也。……本当に、ありがと。(※電話切る)』

達也:いや、大丈夫っすか!?あ……。電話切れた。……。……まあ、待つか。

―数分後。
―達也の家に来た麗子。

麗子:……ごめんね。急に。

達也:泣いてるじゃないすか。

麗子:……うん。ごめん。

達也:とりあえず、もう謝らなくていいですから。中入ってください。

麗子:……お邪魔します。……ふふ。本当に部屋、狭いんだね。

達也:だから言ったじゃないっすか……。

(間)

麗子:あのね。あの……あの、さ。

達也:はい。

麗子:私、律輝さんに振られちゃった。

達也:……そうでしたか。

麗子:しかも、しかもだよ?清花と付き合うんだって。それでね!清花、妊娠してるんだって!

達也:(※事情を知っている)……そう、なんすね。

麗子:二人が浮気してることくらいずーっと前から知ってたよお。知ってたけど、知らないふり、してたんだあ……。律輝のこと、好きだったからさあ。……バカだよね。

達也:……。

麗子:ねえ、達也。そんなに清花がいい?私じゃダメだった?

達也:ダメなんてこと、無いっすよ。

麗子:でも達也は清花のことが好きでしょ?

達也:……それは、

麗子:(※達也のセリフを待たずに)でもその気持ちはもう叶わない。……ねえ、だから私じゃダメ?

達也:……は?麗子さん、何言って……って……うわっ!?(※麗子に押し倒される)

麗子:(※達也にまたがりながら)ねえ、達也。私のこと、少しでも可哀想だと思うなら——抱いてよ。今ここで。

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●律輝の家

―律輝と清花は身を寄せ合っている。

律輝:なあ。清花。

清花:はい。なんですか?律輝さん。

律輝:本当に俺でよかったのか?

清花:(※しばしあっけにとられる)それ、私のセリフなんですけど。本当によかったんですか?麗子じゃなくて。

律輝:清花が良かった。清花は一緒に居て落ち着くし、俺の事、なんでも理解してくれるから。

清花:それは……嬉しい、ですね。

律輝:麗子はいい子だったけど、一緒に居るのはしんどかったんだ。

清花:……律輝さんの性格なら、そうかもしれませんね。

(間)

律輝:あ。そういえば、あの後輩はよかったのか?

清花:あの後輩?

律輝:清花が可愛がってた……えっと、名前……そうだ!達也!

清花:ああ。たっちゃんのこと。

律輝:どういう関係だったんだ~?

清花:……ただの可愛い後輩ですよ。

律輝:アイツ、清花のこと好きだったと思うぜ?

清花:……ふふっ。知ってましたよ、そんなこと。

律輝:(※溜息)ほんっと、女って怖えー。

清花:でも。そういうものじゃないですか?(※軽くキス)……ねえ?悪い男さん?

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●達也の家

―起き上がり、服を着る麗子。

麗子:ありがとね。「たっちゃん」。

達也:っ……。

麗子:ほら、……ん。(※キスを求める)

達也:(※麗子に軽くキス)

麗子:お陰でちょっとすっきりした。帰る。

達也:帰るって、こんなド深夜にっすか!?

麗子:なに?朝まで居て欲しいの?

達也:いや、そういうことじゃなくて……。こんなド深夜に危ないっすよ。

麗子:そ。じゃあ帰る。

達也:っ……。

―帰り支度をする麗子。

達也:待ってください!!(※麗子の手首をつかむ)

麗子:……。なに?

達也:帰らないでください。

麗子:……。

達也:麗子さん。俺、麗子さんが心配です。麗子さんの力になりたいんです。

麗子:……達也。

達也:せめて朝まで!一緒に居てくれませんか。いや、違うな……。

麗子:ねえ達也。

達也:(※聞こえてない)俺たち付き合いませんか!?その、順番は逆になっちゃいましたけど。

(沈黙)

麗子:はぁぁ~~~~~~。(※くそでか溜息)

達也:……え。え?

麗子:ごめんね。私、達也とは付き合わないよ。それにさ、達也も私の事好きじゃないでしょ?

達也:(M)ああ。またこれだ。

麗子:でも心配してくれてありがと。それは嬉しかったよ。抱いてって言ったら素直に抱いてくれたのも。

達也:(M)俺は何にも変わってねえ。

麗子:そういう告白は清花にしなよ。まあ、失恋確定だろうけど。

達也:(M)それでも、ちゃんと伝えられただけ。一年前よりはマシになったかな。

麗子:じゃ、帰る。またサークルでね!バイバイ、達也!

―麗子が家から出ていく。
―1人になる達也

達也:……。……いや、いやいやいや。清花さんに伝えられてない時点で、変わってねえじゃん。俺。

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●大学
●部室棟の裏

清花:——で、話ってなにかな?たっちゃん。こんな人気(ひとけ)のないところに呼び出されて、清花さんはどきどきしちゃうな~。

達也:ちゃんと律輝さんに言ったんすね。妊娠の事。

清花:え?……あー、うん。誰から聞いたの?っていうか、麗子か。麗子以外いないもんね。

達也:はい。麗子さんから聞きました。

清花:そっか。

達也:とりあえずは、良かったです。

清花:まあ、結局堕ろすことには変わりないんだけどね。

(沈黙)

清花:麗子から聞いたってことはさ、たっちゃんはもう全部知ってるの?

達也:……知ってます。

清花:全部知った上で、私をこんなところに呼び出したんだ。

達也:はい。

(沈黙)

達也:律輝さんが麗子さんと別れて、清花さんと付き合い始めたのは知っています。

清花:うん。

達也:全部知った上で、言います。

清花:……うん。

達也:(※深呼吸)俺、清花さんのことが好きです。

(少しの沈黙)

清花:(※にこりと笑って)私も好きだよ?

達也:え?あ。いや、そういう好きでは無くてですね……!

清花:(※顔を近づけて)わーかってる。

―清花は達也の唇を奪う。

清花:これからも大好きだよ?たっちゃん。……それじゃあね!!

―清花は走り去っていく。

達也:は……?

達也:(M)なんだ?なんだよこれ。なんなんだあの女(ひと)は!!

達也:なに考えて…(※ハッとして)

達也:ハハ……これが俗に言う、ファムファタルってやつ?

●終わり





●補足
・『ファムファタルとは』
単なる「運命の相手」であったり、単なる「悪女」であるだけではファム・ファタールと呼ばれることはなく、それらを満たしながら「男を破滅させる魔性性」のある女性を指す。多くの場合、彼女たちに男性を破滅させようとする意図などはなく、複数人との恋愛をしたりお金を際限なく使ったりする自由奔放な生き方により、男性が振り回されることになる。

多くの場合、妖艶かつ魅惑的な容姿や性格をしており、色仕掛けや性行為などを駆使して、男を意のままに操る手腕に長けている。
(※Wikipediaより引用)

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