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委員長と異界駅【1:1:0】【学園もの/オカルト/都市伝説】
『委員長と異界駅』
作・monet
所要時間:約30分
●あらすじ●
一一その駅に居たのは委員長だけだった。
学園もの+ちょっとSF。
蕾/♀/綾間蕾(あやまつぼみ)。高校生。文系特進クラス・A組の委員長。家がお金持ちのお嬢様。オカルトが好き。
弦/♂/琴見弦(ことみゆづる)。高校生。蕾と同じ文系特進クラス・A組。自己流で音楽をやっているが誰にもそのことを話していない。
●ここから本編●
蕾:(M)同級生が死んだ。 先週の昼過ぎ。学校裏のダムへ飛び込んで、二人は死んだ。 一人は保健室登校の知らない子だったけど、もう一人は委員長会議で見たことがある顔だった。 二人の遺書にはこう書かれていたらしい。 『あと45分もしないうちに世界は滅びます。』
(少し間)
蕾:(ため息)……どこがよ。妄言にも程があるわ。
(担任が教室へ入ってくる)
蕾:……あ、先生。おはようございます。
(先生「綾間は相変わらず朝早いな」)
蕾:いえ、A組の委員長は私ですから。
●朝のホームルーム●
(進行をしている委員長の蕾)
蕾:……では、今朝のホームルームは以上です。
弦:(M)綾間 蕾(あやま つぼみ)。 このクラス……文系特進クラス・A組の委員長。容姿端麗。成績優秀。 そして彼女の家、『綾間家』はこの地域一帯を仕切る地主ときた。 つまりは金持ち。いいとこのお嬢様。 ……対して俺は、ちょっと文系科目が得意な程度の地味な陰キャ男子。 特進クラスを選んでおいて本当に良かった。 文系一般クラスなんて選びようもんなら、いじめの恰好の的(まと)となっていたに違いない。 あそこはただ数学ができない馬鹿どもが集まるだけの、うるさい動物園みたいなもんなんだから。
●休み時間●
蕾:……琴見(ことみ)くん。 換気の為に少し窓を開けたいんだけど、いいかな?
弦:……え、あ、ああ。……うん。もちろんいいよ。
蕾:ごめんね。……窓際の席だから少し寒いと思うけど、我慢してね。
弦:(M)このクラスは平和だ。落ち着いた委員長を始めとして、とても平和である。 だから、先週起こった『C組女子とF組女子の心中事件』なんて、別世界の出来事のように思っていた。
それに俺は……彼女たちのことを……
●放課後の教室●
弦:……よし!できた! 『地球最後の日 私達は せっかくだから 心中した』 ……我ながらいい歌詞が書けたぞ! めちゃくちゃいいインスピレーションが降りてきたんだよなあ。 っとお、もうこんな時間かあ。……冬は日が落ちるのが早いなあ。
(場面移動)
●駅のベンチに腰掛ける弦●
弦:さっむぅ~~!! ひぇ。次の電車一時間後かよお。これだから田舎はなあ……。
(次の瞬間、二両ほどの電車が駅へと入ってくる)
弦:……あれっ?電車……。……随分と早くねえか? いくら田舎の電車のダイヤがめちゃくちゃだからって……。
弦:(M)だがそのときの俺は、寒さに耐えきれず、その車両へ乗り込んでしまった。
(間)
弦:……っふ~!!……あったけえ。 ……電車の暖房って無駄に効きすぎてんだよなあ。ホント救い。 ……あーやべ。あったかすぎて、眠たくなってきた……
(しばらく間)
蕾:……え。琴見くん?
弦:(M)目を覚ました俺がまず最初に見たのは、委員長……いや、綾間蕾の驚いた顔だった。
(間)
弦:え?は?どうして委員長がここに。
蕾:どうして琴見くんがここに。(※弦とほぼ同時に)
弦:……えっと。
蕾:……琴見くんも、よく来るの?ここ。
弦:……ごめん。ちょっと状況の整理が追い付いてないみたいなんだけど、……ここは、どこ?
蕾:……どこ、だろう。
弦:えっと、さっきの口ぶりからすると、委員長は何回かこの場所に来たことがあるんだよね?
蕾:……そう、ね。……駅、であることは間違いないと思うんだけど。 ほら、看板とかも……なんて書いてあるか……分かんないし。(※看板を直視しないように目をそらしながら指をさす)
弦:なんだよ……あの文字。見たことないし、読めない。 文字化けしてるっていうのか?
蕾:……たぶんだけど、あんまり見ないほうがいいと思う。
弦:えっ……それって……
蕾:琴見くんってさ、都市伝説とか信じる?
弦:まさか、異界(いかい)駅……?
蕾:うん。何回か来てみて、たぶんだけど、……ここ、現実世界じゃない。
(少し間)
弦:何回か、って言ったけどさ、委員長。
蕾:……その呼び方、辞めてほしいんだけど。
弦:ああ、ごめんっ。えと……綾間さん。 綾間さんは、何回かここに来てるってさっき言ってたけど、……その、どうやって帰れたの?
蕾:簡単だよ。 『家に帰りたいです』ってハッキリ口に出したら帰れた。
弦:……なんだよそれ。意味わかんねえ。
蕾:先週くらいから、何かおかしいのよ。
弦:……『C組女子とF組女子の心中事件』?
蕾:……あら。琴見くんってなんかそういうの詳しいの?
弦:……詳しいっていうか…………その、不謹慎なんだけどさ……(言い淀む)
蕾:ここには私と琴見くん以外、誰もいないよ。……だから、教えて?
弦:……その……でもなあ。
蕾:……私も気になってたの。F組の子は、委員長仲間だったし。まあ、ほとんど話したこと無いんだけどさ。……ほら、それこそ不謹慎っていうの?
ネットニュースとか掲示板とか、実は私いろいろ見ちゃってるんだけど、学校ではそんな話とてもできないじゃん?
弦:……真面目な委員長だもんなあ、綾間さんは。
蕾:そういうこと。
弦:……とは言っても、俺もあんまり詳しくないよ。 ……俺、実はさ、誰にも言ってないんだけど、……歌詞、書いてて。
蕾:歌詞!?え、じゃあ、歌ったりするの?その、曲、作ったり……。
弦:……うん。実はね。こっそりやってる。親にも内緒なんだ。 ……それで、彼女たちをテーマに歌詞を書いてて。
蕾:うんうん。
弦:だから、書くからにはそれなりに調べた。
蕾:ほうほう。お聞かせくださいな。
弦:……まず、彼女たちは同性愛者だったんだよ。
蕾:へえ。
弦:……驚かないのな。
蕾:だって。女子二人で心中って時点でなんとなく察しはつく。
弦:……そして、二人とも自殺願望があった。
蕾:まあ、そりゃあ自殺したんだからそうでしょう。
弦:……ううう…………まあ、ここまでは誰でも分かるようなことだよ!
蕾:へえ。じゃあここからが面白いんだ。
弦:……お、おう。 ……その、彼女たちが心中をする前……昼休みだな、二人で保健室に居たって目撃情報はあるんだけどさ、そこから学校裏のダムまでどうやって行ったのか分かってないんだよ。
蕾:へえ。
弦:反応薄……。
蕾:いや、すごいびっくりしてる。そんな情報初めて聞いた。 え、じゃあじゃあ、何かも分からぬ超常的な力で、二人はダムまで移動したと!?(※だんだんとテンションが上がっていくイメージ)
弦:……そう、いうことになるのかな。今の話だけだったら。
蕾:何それ!?めっちゃ楽しい。 二人だけその間、異空間?異世界?違う世界線?そういう類(たぐい)の場所に行ってたってことでしょう!?
弦:あ……あのさ、綾間さんって……オカルト好き?
蕾:オカルト超大好き!琴見くんは違うの?
弦:……俺はオカルトが好きっていうか、歌詞のインスピレーションになりそうなものなら、わりとなんでも興味ある。
蕾:なるほどねぇ~。それで、歌詞は書けたの?
弦:ああ、もうバッチリだよ!
蕾:…………。(※無言で弦を見つめる)
弦:……み、見せないよ!?
蕾:えー。なんでよー。誰もいないんだし、いいじゃんかあ。
弦:……でも、そうなんだよな。 さっき綾間さんが、異空間とか異世界とか違う世界線って言ってたけど、まさに今俺たちが居る場所って……。
蕾:それじゃあ、その超常的な力に選ばれた記念に、私達も心中しとく?
弦:し、しません……。
蕾:なんで今一瞬どもったのかなあ~?ふふふ。
弦:……というか、委員長、いや、綾間さんって、そんな感じの性格だったんだね。
蕾:何よ!?女の子に向かって『そんな感じ』とは!
弦:いや、いい意味でっていうかさ。 普段の学校での綾間さんはさ、委員長だし、お嬢様だし、落ち着いてて、クールなイメージだったんだけど。
こうやって話すと明るいし、かわいいなって。
蕾:……かわいい、か。
弦:あ、いや!今のは言葉の綾っていうかさ!
蕾:綾間だけに、ってか?あっはは!
弦:ご、ごめ……ん。からかうつもりじゃなくて、その……。
蕾:……よかった。
弦:え?
蕾:普段の私、ちゃんとできてるみたいでよかった。
弦:あ……。その、たいへん、だよな……。お嬢様、だし……。
蕾:うん。大変。今日もね、家に帰りたくなくてさ。 嫌だなあと思いながら電車に乗ってたら、この駅にたどり着いたの。
弦:あ、そうだったんだ……。
蕾:だからさ、気になってた。……琴見くんも、そうなの?
弦:あー……。あはは。うーん。そうかもなあ。
蕾:何よ。煮え切らないわね。
弦:まあ、誰もいないし、いっか。
蕾:うんうん!そうだよそうだよ!
弦:うち、父子家庭でさ。父ちゃんけっこう厳しくて。 あ、って言っても綾間さんの家とはまた違うっていうか、うちの父ちゃん古い田舎もんだからさ、高校卒業したら公務員になれってうるさくて。
蕾:……音楽の、夢は……?
弦:そんなん無理だよ。バレた時点でギターも取り上げられるだろうし。 でも、地方公務員かあって思うと、……嫌なんだよなあ。
蕾:なるほどね。
弦:……男なんだし、単身上京でもするのがロックなんかもしんないけどさ、うちの家、貧乏だし、先立つものが無いっていうかさ。 どうにもこうにも、金は必要で、その為には、地方公務員かあ……。
蕾:私たちってさ、田舎に縛られてるよね。
弦:田舎に……ああ、まあ、たしかにそうなのかな。
蕾:私もね、家督(かとく)を継げって言われてて。 東京の大学に行きたい!っていう願いすら聞き入れてもらえないの。 綾間の家なんて大っ嫌いだし、絶対に継ぎたくないのに。
弦:おいおい、そんなこと言って大丈夫なのかよ。
蕾:ここには琴見くんと私以外、誰もいないでしょう?
弦:あ、いや、まあ……。そう……なんだけど。
(少し間)
蕾:……ふーん。そっかそっかあ。なるほどね。だから琴見くんは、帰りたくないんだね。
弦:うん……。帰りたくないっていうか、行き場を見失って、迷ってる。
蕾:それは私も同じだな。行き場を見失って……。
もしかしたら、この空間は、あの二人が作り出したものなのかもね。
弦:C組とF組の?
蕾:うん。行き場を見失って。そして文字通り『生き場を見失った』二人が、私達みたいな人間の為に作り出したのかも。
弦:……ホント、オカルト好きなんだな、綾間さん。
蕾:どう?いい歌詞のネタにはなりそう?
弦:うん。お陰様で。めちゃくちゃインスピレーション降ってきました。
蕾:それじゃあ、帰ろっか。
弦:お、おう……うん。
蕾:ちゃんと口に出すんだよ?
弦:……はい。
(間)
蕾:家に帰りたいです!
弦:家に帰りたいです!(※ほぼ同時に)
(間)
弦:(M)気づくと俺は、電車に乗っていて。次の降車駅は、家の最寄り駅だった。 時間も二十分程度しか経っていない。いつもの通学時間と何ら変わりはない。 あの場所では、体感にして三時間程度は喋っていたと思うんだけど……。 ……とにかく、不思議な体験をしたもんだ。 夢にしてはリアル過ぎるけど、あの綾間さん……委員長は本物だったのかな?
●蕾、自宅●
蕾:(M)……帰りたくなかったなあ。 あの駅は、きっと私を一時的に避難させてくれる場所。この大っ嫌いな家から避難させてくれる唯一の場所なのだ。それが異空間だろうと異世界だろうと、違う世界線だろうと私にとってはどうだっていい。 この家から逃れられるなら、どうだっていいのだ。 ……片田舎の小さな地主程度。私は世界を知らないお嬢様のままで終わりたくない。 だってそんなの面白くないじゃない。
●次の日、学校●
蕾:おはよう、琴見くん。
弦:あ、お、おはよう……綾間さん。
蕾:ちゃんと綾間さんって呼んでくれるんだ。嬉しい。
弦:あ……えっとっ……!(※照れる)
蕾:……昨日の話は、内緒だからね。
弦:(M)昨日の話って…… やっぱりあれは夢でも何でもねぇ~! あの委員長は普通に本物の委員長……綾間さんだったじゃねえか!
●学校終わり、駅●
蕾:琴見くんっ……!(※走ってきて息を切らしている)
弦:……あ、綾間、さん……
蕾:あのっ、帰る方向っ、同じ、だよね?
弦:……えっと、うん。……俺は上り方面だけど、綾間邸(てい)も上り方面であってるよね?
蕾:……綾間邸とか言わないでよ。
弦:ご、ごめん。
蕾:……それでね!なんで私が琴見くんを追いかけてきたかについてなんだけど、
弦:……お、おう。
蕾:実験!実験をしましょう!
弦:……実験?
蕾:昨日は別々にあの駅に迷い込んだでしょう?だから、もし一緒の電車に乗ったら一緒に迷い込むのか否か! どう?面白くない?
弦:……いや、そうは言っても俺、昨日はなんか、乗った電車からおかしかったし、普通に二人で電車乗っちゃったら、何も起こらないと思うんだけど。
蕾:そうかな?私はあるんだけど。 普通に電車乗っててあの駅にたどり着いたこと。
弦:……ええっ……。……こ、こええ……。
蕾:なにビビってんのよ!ほら、電車来た!乗るよ!
弦:……は、はぁい。
(数分後)
蕾:……ふむ。今のところ、特に異常はないね。
弦:……あってたまるかよ~。 あの奇妙な文字列の看板も気持ち悪かったし、そういえば俺怖いの無理だったわ……。
蕾:それでも歌詞のネタになりそうなら厭(いと)わないんでしょ?
弦:う、うん。そうだけどさ……。
蕾:そういえばF組の鴫沢(しぎさわ)さん。
弦:?
蕾:先週亡くなったF組の元委員長!……鴫沢さんっていうの。
弦:へえ。さすが委員長仲間。
蕾:……理系特進クラスでトップの成績。リケジョってやつ?東京の有名大学に行くことも、ほぼ確定で決まってたらしいんだけど。なんで死んじゃったんだろうね。私は羨ましいなあって思っちゃう。 東京。行きたいなあ。……やっぱり無理、かなあ。
(数十分後)
弦:……あ、次俺の最寄り駅だ。
蕾:ちぇーっ。何にも起こらなかったか。
弦:……何も起こらないに越したことはないよ。もしかしたら昨日は運良く帰れただけで、その、異界に取り残されるってことも……。
(電車が緊急停止する)
蕾:ちょ、す、すごい揺れ……!!
弦:うわっ、これはっっ緊急停止か!?
蕾:きゃっ!!(※座席から振り落とされる)
弦:綾間さんっ!うわっ!!(※座席から転がり落ちる)
(電車が静止する)
弦:ったく……。なんだよ。イノシシか……?
蕾:…………。
弦:あの、綾間さん?
蕾:琴見くん。……周り、見て。
(先ほどまでの乗客が一人残らず消えている)
弦:えっ……。オイオイまじかよ……。なんで誰もいねえんだ。
蕾:……また、来ちゃったみたいだね。
弦:これはもう、認めざるを得ないな。
蕾:……うん。異界駅。
弦:綾間さんの言う通りになっちゃったじゃんかよお。
蕾:……なんか、ごめんって。
弦:……いいよ。別に。
(少し間)
弦:それにしてもここ、本当なんなんだろうな。……なんで俺と綾間さんだけ。
蕾:あのさ。
弦:?
蕾:たぶんだけど、私の考察。
弦:……おう。
蕾:……将来のことについて。 その、この先どう生きていくかについて、私達は迷ってるから、ここに来ちゃうんじゃないかな?
弦:……昨日も似たようなこと言ってたな。
蕾:だからさ、口に出したら家に帰れたみたいに、将来どうするか、ここで口に出してしまえば、もうこの駅に来ることも無くなるんじゃない?
弦:……ほーー。……まさにオカルトだな。
蕾:だから私は、ここに宣言するのです!
(蕾、息を吸い込む)
蕾:実家を出て、東京に行きたいです!
(少し間)
弦:……は。
蕾:あっれぇ?特に何も起こらないね。
弦:……あ、うん。……何も、起こらなかったけどさ。
蕾:何?
弦:その、本気なの?……東京に行く、っての……
蕾:本気だよ?……というか、迷ってたところを、この駅がそう思わせてくれたのかも。
弦:……なる、ほど、な。
蕾:あと、『C組女子とF組女子の心中事件』もそう!
この二つの不思議な出来事について考えてたら、私の答えは導き出されたってわけ!
弦:……なんかもうよく分かんねぇな。どういう理屈だそりゃ。
蕾:えー?いちいち説明するー?
弦:…………。(※思惑を巡らせる)
……歌詞のインスピレーションになる、と思うから、説明、してほしい、です。
蕾:なるほど?琴見くんも琴見くんで変わってるよね。
弦:……オカルト大好き猫被り委員長に言われたくねえ。
蕾:はあ!?教室で猫被ってるのは琴見くんもでしょ!? もっと大人しい男子かと思ってたのに!
弦:……はあ!?俺は教室でも普段でも大人しいだろ!?
蕾:……想像してた百倍は口悪かった。
弦:百倍!?百倍て……
蕾:そして、想像してた百倍は面白い子だった。
弦:……それ、何でも「百倍」って言っとけばいいと思ってないか?
蕾:褒めてるんだから素直に受け取ればいいと思いまーす。
弦:くっそ、この……。
蕾:で、話すよ?
弦:ちょっと待って。メモ帳。
(弦、カバンからメモ帳を取り出す)
蕾:な、なんかガチでメモられると思ったら緊張してきた。
弦:いいから、話してよ?
蕾:こほん。 ……えっとね、まずこの空間、異界駅についてだけど、やっぱりあの心中事件は関係してると思うんだ。 ……二人が異空間に行ったのかどうかは分かんないけどさ、この駅はきっと二人の無念というか、想いが生み出した空間だと思うの。
弦:へえ。面白いじゃん。続けて。(※弦、メモっている)
蕾:その、ね?例えば私達みたいに、将来に不安を抱えてたり、人生に迷ってたりする人を、たぶん、この駅に連れてくる。
弦:じゃあ、その将来に迷ってる人っていうのは、俺と綾間さんだけなのか?
もっと居てもおかしくないとは思うんだけど。
蕾:……そこなんだけどさ、ほんとに他にもいると思う?……このド田舎に、私達みたいな人間。
弦:ド田舎って……。
蕾:……それこそ皆さ、家督(かとく)を継いだり、就職して地方公務員になったり、県内の大学進学したり、……決まってるんだよ、将来が。
弦:……ド田舎だからこそ、ってことか?
蕾:そう。みんな決められたルートをただ歩くだけ。そこに何の疑いも持ってない。 ……田舎あるあるっていうかさー。狭いコミュニティで生きることに満足しちゃってる感じ? ここがたぶん東京だったら、この電車は満員なんじゃないかな?
弦:……こっわ。
蕾:東京が?
弦:いや、田舎あるあるが。 ……あれだろ?つまり綾間さんが言ってるのは、俺なら地方公務員になって、綾間さんなら家督を継ぐ、みたいな?
そういうことだろ?正規ルート、って意味だろ?
皆そこに当てはまっちゃってるから、迷ってはいないと。
蕾:そう!……だから、そこに疑問を感じてる私達が少数派。
弦:……少数派っていうか二人だけなんだけどな。
蕾:だからね、私はその型をぶっ壊してやろうと思うのです!
弦:ほう!!なるほど、納得いった。 ……でも、具体的にどうすんだ?
蕾:だからさっき言ったじゃん!『実家を出て東京に行く』って!
弦:……いやいや、それは分かるんだけど、具体的にどうやって実家出るんだよ?
蕾:ふっふっふ。それは内緒。
弦:はあ!?ここまで話しておいてか?!
蕾:女の子にはあまり根掘り葉掘り聞くものじゃないよー?
蕾:それじゃ、私は今日はこの辺で!
弦:……っっ!!あ!ちょっと待っ一一
蕾:(被せて)『家に帰りたいです』!
(少し間)
(弦が気が付くと、蕾の姿は無くなっている)
弦:えええ~!?ちょっと待ってちょっと待って。俺ついにおかしくなったのか!?なんで綾間さん跡形もなく消えてんだよ! 超サイエンスフィクショーン!!
(少し落ち着いて)
弦:……というか、聞きたかったんだけどな。綾間さんがどうやって東京に行くのか。……参考にしようと思ってたんだけどな。 はーー。これは、自分で考えろってことですかねー。
●次の日、教室●
蕾:おはよう、琴見くん。
弦:……おはよう、綾間さん。
弦:(M)いつもの教室。とても平和だ。俺は窓からなんとなくグラウンドを眺めつつ、昨日の出来事を思い出していた。 綾間さんが帰ってからのあの駅は、当然ながら誰もおらず、……まあ化け物が出てこないだけマシなのかもしれないが、ピンと張りつめた静かな空気が妙で怖かった。 ……だが、一人で考え事をするには絶好の場所だった。何時間ほどあの場所に居たんだろう。 将来について考え、答えが出なかったので、新しい曲のコード進行を考え、メロディーラインを考え、綾間さんから聞いた話のメモをまとめて、脳みそを完全に使い切ってから家に帰っても、やっぱり二十分ほどしか経っていなかった。 ……今度はギターも持ち込んでやるか、なんて考えている俺は、やっぱり音楽が諦めきれないのかもしれない。
●放課後●
(弦、将来のことと、蕾に対する感情でナイーブな状態)
蕾:琴見くん、今日も一緒に帰ろう?
弦:……な、なんで?
蕾:実験!昨日私、宣言したでしょ?だから今日はどうなるかなーって! あ。あの後、琴見くんも宣言したの?
弦:……し、してないよ。
蕾:ええ!?なんでよ!?
弦:……答えが出てないから。
蕾:はあ!?なんで!?
弦:……なんでって言われても、言葉通りだよ。
蕾:なんで!?音楽の道に進みたいんじゃないの!?
弦:……はあ?
蕾:えっ、違うの?
弦:……あー。……んーーと。 うん。お前うざい。喋りかけんな。
蕾:はあっ!?ひどっ!!口悪っ!!
弦:……うるさいから。
弦:(M)その日、綾間さんと一緒に乗った電車は、例のごとく異界駅へと行った。 ……だが、そこに綾間さんの姿は、無かった……。
(間をとる)
弦:(深呼吸)……お願いします。俺は音楽がやりたいです。
●数年後●
●東京・新宿●
弦:(M)とても不思議な経験をした、あの高校生の冬から数年。俺は東京へ来ていた。……まあ、『彼女』には遅れをとってしまったが。 委員長は、高校を卒業してすぐ行方をくらませた。地元ではかなりの大騒ぎになった。……まさか委員長があんなロックなことするなんてな。 俺はというと、地元で一度は就職したが、ひと月分の給料だけ貰って逃走。東京へ逃げてきて、今はアルバイトをしながらストリートミュージシャンとして生計を立てている。
(間)
弦:(台詞)……ふぃ~~。新宿はさー。人の流れがこうドーンって来るんだよなあ。
(間)
弦:(M)今日の俺のステージは新宿の路上だ。
このアコースティックギターは高校生のときからの相棒。 そして俺は、自分の曲を弾き語り(ひきがたり)始める。
(少し間)
(弦の演奏が終わる)
蕾:(拍手)
弦:あっ、ありがとうございます。(※蕾に気づいていない)
蕾:……とってもいい曲だった! 『将来に迷えば 迷い込む そこは何処かも知らぬ 異界駅』 この歌詞好きです!これ、少ないけど、チップ。 では、また。
(蕾、足早に去っていく)
弦:あっ!!ありがとうございますわざわざ!! ……って、え!?い、一万円!? いやいやいや、多過ぎだろ。 ……というか、今の女の人って……まさか……!!
弦:(M)間違いない。 雰囲気はだいぶ変わってたけど、絶対そうだ。
(間)
弦:委員長……!!(※遠くへ向かって叫ぶように)
弦:(M)俺の声は、届かない。 新宿の雑踏の中へと消えていく。 でも、あれはたしかに委員長だった。 俺は胸が高鳴った。 地元では行方不明とか言われてたけど、ちゃんと東京で生きてたじゃんか!!
(間)
弦:(台詞)ふふっ……ホント見た目にそぐわず破天荒な奴。
(しばらく間をとる)
●蕾、職場にて●
蕾:『あと45分もしないうちに世界は滅びます』
これ!この歌詞がめちゃくちゃ好きなんです!
ストリートミュージシャンの、『ユヅル』って知ってますか?絶対これから人気出ると思うので、聴いてみてください!
(しばらく間をとる)
蕾:(N)あなたは迷っていませんか? 土地に、家に、縛られていませんか? 勿論それが不幸なことだとは思いません。 だけど、もしあなたが違和感を感じながら生きているのなら。 一歩踏み出してみるのも、いいかもしれません。 これはそんな、思春期の二人のお話。
●END●