ヴァナヘイムの異端児【1:4:0】【ファンタジー/シリーズもの】
0:登場人物
レギン:男。科学者・研究者チームの天才
ヴェルダンディ:女。けっこう脳筋かも
エイル:女。幼いけど強い超能力者
ウルド:女。人間から無理やり改造されたアンドロイド
フェンリル:女。???
(所要時間:約40分)
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0:レギンの研究室
ヴェルダンディ:これが……フリッグ先生の意思……?
レギン:……なんてことだ。シヴがこんな能力を持っていたなんて。
ヴェルダンディ:……申し訳ないがレギン、俺には分からない。どういうことか、説明してくれないか?
レギン:僕の研究室が、植物だらけになっちゃったじゃないか!!
0:レギンの研究室に入ってくるエイル
エイル:私が説明しましょうか?
レギン:(※エイルの言葉は無視して)……あ~!このツタとかどうやったら取れるんだよお。ロキの研究室に除草剤があったかなあ。
ヴェルダンディ:……エイル。頼む。
エイル:レギン上官の研究室に植物が生えたのは、私がそう願ったからです。
ヴェルダンディ:……そう願ったから……?
エイル:シヴが開花させた能力は、「他人が思ったことを現実にする力」です。
ヴェルダンディ:…………他人が思ったことを、現実に?
ヴェルダンディ:……待て。そんな能力、誰が管理しきれるんだ?俺やレギンが思ったことまで現実になってしまったら、それこそ収拾がつかないだろう。
エイル:はい。ヴェルダンディ上官の言う通りです。シヴの能力が誰に対しても発動してしまえば、収拾がつきません。ですので、それを管理するのは私です。
ヴェルダンディ:……なんだと?
エイル:ずっと前からシヴと計画してきたんです。ヴェルダンディ上官。……分かりますか?計画は成功です。ほら、ウルドも入ってきて?
0:レギンの研究室に入ってくるウルド
ウルド:「失礼致します。」
ウルド:「初めまして。ヴェルダンディ様。わたくしはU-ウルドと申します。」
ヴェルダンディ:……U-ウルド?……あのアンドロイドか?
レギン:おはよう!!君は、ウルド二号機だよね?なんで起きてるの?
エイル:時間は掛かりましたが、ウルドにこっそり細工をさせていただきました。……今の彼女は、きちんと感情があります。
レギン:…………。びっくりだよ、エイル。僕全然気が付かなかった。君が一人で全部やったのかい?
エイル:(※フェンリルも協力しているがバレたくないので含みを込めて)……はい。
エイル:レギン上官が戻ってきて、一旦リセットされてしまったのは痛かったですが。その後すぐ、三号機の開発に取り掛かり始めたので、とてもラッキーでした。
レギン:僕とロキがウルド三号機を作っている間に、エイルがそんなことをしていたなんてね。少し機械いじりを教えてあげた程度じゃないか。才能があるよ君は。
エイル:褒めて頂きありがとうございます。ですが、レギン上官。気づいていますか?私の「勝ち」ですよ。あなたがボスから任された任務は、失敗に終わったんですから。
レギン:…………うん。そうだね。参ったなあ。……でも、いいや。
ヴェルダンディ:……おい?いいのか?
レギン:うん。だって僕、失敗しても殺されないし。
エイル:その自信はどこから来るんですか?
ウルド:「エイル様。あまり挑発的な言葉はお控えください。彼自身の言う通り、レギン様が殺される確率は0.1%。ほぼゼロと言っても過言ではありません。」
レギン:ボスには僕が必要だからね。ロキが居なくなった今は特にだけどさ。昔から、知ってた。
レギン:……僕は失敗しても殺されない。
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レギン:(M)「異端児」という言葉がある。特異な存在って意味だ。特別。選ばれた人間。僕はそうであるんだとボスは言った。でも組織に来る前は違った。
レギン:「異端」。その言葉の通り、はずれた存在。「お前はおかしい」「狂ってる」「どうかしてる」「手に負えない」……。
レギン:両親はそんな僕を捨てるようにこの組織に預けたけれど、僕は捨てられただなんて思わなかった。
レギン:だって初めて認められたんだ。僕という存在が。何をしても僕は怒られなかった。怒られるどころか褒められた。「レギンは天才だ」と。
レギン:褒められて気分が悪くなる人間はいない。……だから、「居心地がいい」と思った。
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0:監禁室
フェンリル:あ、あれ……。手錠が勝手に外れた……。ということは……
0:エイルが現れる
エイル:ええ。成功しましたよ。フェンリルさん。ご協力ありがとうございます。ウルドもきちんと、元通りです。
フェンリル:凄い……。本当に、現実になっちゃうなんて。
エイル:凄いのはシヴです。シヴが居なかったら、私達は今でも手錠を掛けられたままだったでしょう。
フェンリル:でも、エイル上官だって沢山頑張ったから……!私はほとんど何も出来なくて。
エイル:いえ、そんなことはありません。フェンリルさんが協力者になってくださったことで、私もシヴも、とっても安心したんですよ。
フェンリル:それなら良かった……ですけど、これからどうするんですか?
エイル:ボスの出方を見ます。
フェンリル:え……?それだけ……?
エイル:はい。きっと気づいているはずなのに、ボスは何もしてこない。どうしてだと思いますか?私には分かりません。フェンリルさんは分かりますか?
フェンリル:…………。あの人は、きっと自らは動きませんよ。
エイル:どうしてですか?
フェンリル:ボスが何もしてこない理由、何となく分かるんです。……あの人は、きっと今の状況を楽しんでいる。
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0:レギンの研究室
ウルド:「それにしても、目が覚めた時、目の前に自分の身体があったのにはとても驚きました。すっかり遊ばれてしまっているな、と。」
ヴェルダンディ:…………本当に、アンドロイドなんだよな?
ウルド:「ええ。アンドロイドですよ。ヴェルダンディ様。まあ、意図してなった訳では無いのですが。この頭には、スーパーコンピュータが入っております。」
ヴェルダンディ:…………無理矢理、だったんだろう?
ウルド:「ふふ。心配してくださっているのですか?ヴェルダンディ様。」
ヴェルダンディ:………いや、気になったというか……。
ウルド:「確かに当初は、酷く絶望しました。死にたくなりました。ですが、わたくしはアンドロイドにされてしまいましたので、自分では死ねなかったのですよ。」
ウルド:「死ねないなら、生きるしかないじゃないですか。ですので、強く生きようと、自分の中で誓いを立てました。」
ヴェルダンディ:…………強く生きる……。
ウルド:「ヴェルダンディ様も、わたくしと同じ誓いを立てていらしたようですね。」
ヴェルダンディ:……やめろ。詮索するな。
ウルド:「……大変失礼致しました。」
0:フレイの手記を読んでいたレギン
レギン:……ロキがウルドから感情を奪った理由が、何となく分かった気がする。お喋りでかなわないよ。
ウルド:「申し訳ございません。レギン様。ですが、人間であった頃からわたくしはこういった性格でしたので、納得してください。」
レギン:そうなんだね。明るくていい性格なんじゃないかな?友達も多かったタイプだろう?
ウルド:「ありがとうございます。そうですね、友達を作るのは得意な方でしたよ?人間の頃の話ではありますが。」
レギン:友達ってどうやって作るの?僕、できたこと無いんだ。友達。……友達、欲しかったなあ。
ウルド:「友達の作り方、というのは人によって様々ですね。同じ趣味を見つけたり、スポーツを共にしたりと、相手と時間を共有することで仲良くなることが出来ます。」
レギン:えぇ?そんなことしないといけないの?
ヴェルダンディ:……おい。レギン。これからどうするのか、策は見つかりそうなのか?
レギン:ヴェルダンディは、友達いたことある?
ヴェルダンディ:(※ため息)…………嫌味で言ってる訳じゃないんだよな。
レギン:無いの?
ヴェルダンディ:……忘れたよ。表に居た頃の事なんて。全部捨てて来たんだ。
レギン:じゃあ、僕と友達になってくれる?
ヴェルダンディ:断る。組織内で友達は作らないと決めている。
レギン:フレイのことも友達じゃないーって頑なだったもんね。どうして?
ヴェルダンディ:…………友達を作ると、人間は弱くなるんだ。
レギン:え、そうなの?僕友達できたこと無いから分かんないや。
レギン:……うん。もうこの話飽きたな。そして疲れたちゃったよ。そういえば48時間も睡眠を摂っていなかったな。これだと流石に研究にも支障が出てくる。
レギン:僕は寝てくるよ。おやすみなさいヴェルダンディ。
ヴェルダンディ:お、おい!待て!!レギン!!策は考えなくていいのか……!?
0:レギン、ヴェルダンディの言葉を無視して去る
ヴェルダンディ:(※大きくため息)……戦場も地下施設も大して変わらない。ぐちゃぐちゃだ。
ウルド:「ヴェルダンディ様……。一体これからどうなってしまうのでしょうね。」
ヴェルダンディ:……エイルは、シヴは、何故こんな事をしたんだ。俺の頭では考えきれないことばかりだ。
ウルド:「無理をする必要はありません。適材適所ですよ、ヴェルダンディ様。」
ヴェルダンディ:……適材適所、か。俺には何ができるだろう。何をすべきだ?レギンの味方をするのか?それともエイル側についた方がいいのか?
ウルド:「ヴェルダンディ様。それは、あなたがお決めになることですよ。」
ヴェルダンディ:……分かっている。ただの自問自答だ。
ウルド:「ヴェルダンディ様。北欧神話は知ってらっしゃいますか?」
ヴェルダンディ:……北欧神話……。コードネームの由来か?
ウルド:「ええ。そうでございます。でしたら、わたくしのコードネームと、ヴェルダンディ様のコードネームの関係性は、ご存じですか?」
ヴェルダンディ:……残念ながら、知らないな。あまり興味が無かった。
ウルド:「北欧神話の中では、ヴェルダンディ様、あなたとわたくしは、姉妹関係にございます。」
ヴェルダンディ:……そうなのか。だが、それを俺に伝えたところで、何の意味がある。
ウルド:「ヴェルダンディ様。わたくしはあなたのことを、本当の妹のように思いたいと考えております。」
ヴェルダンディ:…………はあ。
ウルド:「ご安心くださいませ。わたくしは、守ると決めたものは守る主義ですので。」
ヴェルダンディ:…………本当によく喋るアンドロイドだな。
ウルド:「ええ。エイル様のお陰で、わたくしには感情が戻りましたから。嬉しい限りです。まあ、感情が戻ったところで、人間には戻れませんがね。ふふっ」
ウルド:「ヴェルダンディ様。わたくしの事を、「姉さん」と呼んでくださっても構わないのですよ?」
ヴェルダンディ:…………横暴だな。
ウルド:「ええ。よく言われます。」
ヴェルダンディ:………だが、「姉さん」などとは呼ばないぞ。アンドロイド。
ウルド:「これは大変失礼いたしました。少し冗談が過ぎましたね。」
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0:別室へ移動したウルドと、エイル(シヴも居る)
エイル:……ウルド。あのね。聞きたいことがあるの。
ウルド:「エイル様。いかがなさいましたか?」
エイル:フェンリルさんは、ボスの考えている事が分かるって言うの。……ボスはこの状況を楽しんでいるんだ、って。どうしてだと思う?
ウルド:「そうでございましたか。ではまず、フェンリル様が、オーディン様の考えている事が分かる、というところからお話致しましょう。」
エイル:……うん!聞かせて!
ウルド:「ずばりその理由は、フェンリル様がオーディン様の愛人であるからです。」
エイル:愛人だと、考えている事が分かるようになるの?
ウルド:「はい。そうでございます。エイル様ももう少し成長されれば分かるでしょう。愛人だと、相手の考えている事が分かるのですよ。」
エイル:愛人と、恋人は違うのよね?
ウルド:「はい。愛人と恋人は異なるものです。日本語とは難しいのもですが、恋人だからこそ、盲目的になり、分からない事が増えるということもございます。」
ウルド:「その点、愛人というものは、余計な感情を取り除き、相手を肌で感じ取ることが出来る。だからこそ、フェンリル様は「分かる」と仰ったのではないでしょうか?」
エイル:恋人の感情は、余計な感情なの?
ウルド:「いいえ。恋というものは素晴らしいものですよ。」
エイル:じゃあ、愛人は素晴らしくない?
ウルド:「時と場合によります。ですが、今のフェンリル様とオーディン様の関係は、素晴らしいものとは言い難いですね。」
エイル:……分からないわ。ウルド。私は、相手の考えている事が分かるというのは素晴らしい事だと思うの。だけど何故、フェンリルさんとボスの関係は素晴らしいものでは無いの?
ウルド:「エイル様の仰っていることは、わたくしにもよく分かります。それでは、エイル様。あなた自身に置き換えて考えてみましょう。」
エイル:…………。好きではない人と愛人になる、ということは悲しい事だから?
ウルド:「エイル様がそうお思いになられるのであれば、きっとそれが答えですよ。」
エイル:……私にも、人を好きになれる時が来るのかしら。
ウルド:「ええ。きっと来るでしょう。」
エイル:それまでは、私の疑問は解決しないということ?
ウルド:「人間には、経験してみないと分からないこともございますから。」
エイル:……人間じゃなくなれば、分かるようになる?
ウルド:「それは少し違いますね。「人生経験」という言葉がございます。エイル様は、少し幼過ぎるのですよ。」
エイル:大人って、よく分からないわ。
ウルド:「今はそれで良いのですよ。エイル様。あなたが何もかもを抱え込む必要はございません。」
エイル:だけどね、ウルド。私は、皆を巻き込んで、大変なことをしてしまったという自覚はあるの。……それなのに、子供だから分からないだなんて、虫が良過ぎない?
エイル:……ねえ、ウルド。もう一つだけ教えて。……私は、間違ったことをしてしまったのかしら?
:
:
0:オーディンの部屋
0:一人、オーディンを訪ねるレギン
レギン:……ボス、ごめんね。僕失敗しちゃったよ。やっぱり僕は、一人じゃ何もできない人間なのかな。
レギン:でもフリッグの意思は分かったんだ。フリッグは自分が死んでもなお、「新世界創造計画」を阻止しようとしていた。
レギン:ねえ、ボスも本当は分かってたんでしょ?どうして教えてくれなかったのさ。
レギン:……「新世界創造計画」なんて、本当は嘘なんでしょ?
:
0:ノック
0:オーディンの部屋に入ってくるフェンリル
フェンリル:……失礼します。
フェンリル:あ、あれ?レギン上官?
レギン:やあ、フェンリル。
フェンリル:……すみません。お取込み中でしたか。
レギン:ちょうど良かったや。……フェンリル。「新世界創造計画」って、何だと思う?
フェンリル:え……?「新世界創造計画」について、ですか?
レギン:ボスは何にも教えてくれないんだ。だからフェンリル、君に聞くよ。
フェンリル:オーディンさん……。
0:(※オーディンが黙っている間)
フェンリル:……分かりません。オーディンさんが、何も仰らないというのなら、私にも分かるはずがありません。
レギン:そっか。そうだよね。うん。分かった。用はそれだけだよボス。じゃあ、またね。
フェンリル:あ、ちょっと!レギン上官!!
0:その場を去るレギン
フェンリル:……行っちゃった。
フェンリル:オーディンさん、今のは、一体……?
:
:
0:レギンの研究室
レギン:あれ、僕の研究室が綺麗になってる。なんで?
ヴェルダンディ:……やっと戻ったのか。レギン。少し片づけておいたぞ。
レギン:なんで?
ヴェルダンディ:なんで、と言われてもだな……。お前は片付けが出来ないんだろう?レギン。
レギン:そうだけど。なんでヴェルダンディが片付ける必要があるの?
ヴェルダンディ:……余計なお世話、だったか?
レギン:いや?そんなことはないよ。すごく助かる。壁に貼りついたツタ達も、全部取ってくれたんだね。
ヴェルダンディ:…………正直に言う。今の俺には、目的が無いんだ。今この組織で、何をしたらいいのか全く分からない。
レギン:ふーん。だから僕の部屋の片づけをしていたの?
ヴェルダンディ:………そういうことになる。
レギン:でも僕は、ヴェルダンディに目的を与えてあげることはできないよ?
ヴェルダンディ:………手伝いを。
レギン:ん?
ヴェルダンディ:………俺に研究の手伝いを、させてくれないか?レギン。
レギン:研究はしばらく凍結だよ。
ヴェルダンディ:………そう、か。
レギン:でも僕もね、何かをしていないと落ち着かないんだ。……ウルド三号機を起動させようと思う。ついてきてくれるかい?
ヴェルダンディ:……あ、ああ!行く!
:
0:ロキの研究室
レギン:……マスタープログラムを書き換えなきゃだなあ。とりあえず、マスター権限をロキから僕に、っと。
ヴェルダンディ:……何をしているのか俺にはさっぱりだ。
レギン:よし。こんなところかな。起動させるよー。
ヴェルダンディ:お、おい!もういいのか?
0:ウルド三号機が起動する(※ウルド三号機には感情がありません。演じ分けをお願いします)
ウルド:「おはようございます。マスター。」
ウルド:「本日の天気は曇りのち雨。日中の気温は23℃です。」
ヴェルダンディ:……な、なんだこれは。さっきのウルドと同じなのに、まるで喋り方が違う。
レギン:ああ。三号機には、感情が無いからね。……でも、どうだろ。ウルド二号機とリンクするように作ったから、多少の不具合は出るかもしれない。
ウルド:「ヴェルダンディ様。おはようございます。ご機嫌はいかがでしょうか?」
ヴェルダンディ:……お、おい!なんだか、気持ち悪いぞ!こいつ!
ウルド:「大変失礼いたしました。ヴェルダンディ様。わたくし、ウルド三号機には感情がありません。マスター、ご命令はございますか?」
レギン:命令って言われてもなー。うーん。そうだなー。
ヴェルダンディ:教えてくれ!ウルド三号機!……俺はこれから、どうすればいい。
レギン:あ、ちょっと!
ウルド:「エラー。マスター権限がありません。」
ヴェルダンディ:あ…………。
レギン:ほら、だから言ったでしょ?……ウルド。ヴェルダンディの話を聞いてあげて。
ウルド:「かしこまりました。マスター。ヴェルダンディ様。お話をお伺いいたします。」
ヴェルダンディ:……えっと。……俺は、これからどうすればいいのか、教えてくれ。
ウルド:「かしこまりました。ヴェルダンディ様の今後の行動について、最適解をお調べいたします。」
ヴェルダンディ:…………頼む。
レギン:ヴェルダンディ、どうして君はそんなに必死なんだい?
ヴェルダンディ:…………生きる目的が、欲しいんだ。人間なら、誰しもがそう思うだろう。
レギン:?
ウルド:「見つかりました。ヴェルダンディ様。」
ヴェルダンディ:見つかったのか!?
ウルド:「ヴェルダンディ様。あなたはこの組織での目的を果たしました。今のあなたは、この組織に居るべきではありません。」
ヴェルダンディ:は…………?
ウルド:「今すぐこの地下施設を出て、新しい人生を歩むことを推奨いたします。以上、です。」
ヴェルダンディ:っっ……!!!
0:その場にへたり込むヴェルダンディ
レギン:どうしたんだい?ヴェルダンディ。分かり切っていたことだろう?
ヴェルダンディ:……ははっ。そう、だな……分かり切っていたこと、だな……。
レギン:まあでも想定はしてたけど、やっぱり処理速度が遅いなあ。少し修正をかけてみるよ。
ヴェルダンディ:…………少し、席を外す。すまない、レギン。
:
:
0:廊下
0:偶然すれ違うヴェルダンディとフェンリル
フェンリル:ヴェルダンディ上官……?
ヴェルダンディ:………あ、ああ。フェンリルか。
フェンリル:どうされました?顔色が優れないようですが……。
ヴェルダンディ:……………。
フェンリル:あ、余計なお世話でしたら、申し訳ございません!
ヴェルダンディ:………余計なお世話、か。
フェンリル:?
ヴェルダンディ:………なあ、フェンリル。お前は何故生きている。
フェンリル:それ、は……死んでくれという意味でしょうか?
ヴェルダンディ:……違う。そうじゃない。お前は「何の目的を持って」生きている。
フェンリル:目的、ですか……。
ヴェルダンディ:俺は白樺家を潰す為にこの組織に入った。でもその目的は既に達成されたんだよ。……俺は、これからどう生きて行けばいいのか、分からない。
ヴェルダンディ:だから聞いた。お前の生きる目的はなんだ。
フェンリル:…………。私を生かしてくれた人達の為、ですかね。
ヴェルダンディ:それはお前自身の目的ではないだろう?
フェンリル:そうですね。でも……私を生かす為に、沢山の構成員が死にました。私は死んだ皆の為にも生き続けたい。……皆が生かしてくれた、この命なんですから。
ヴェルダンディ:…………死んだ者達の為に生きて、何になる。
フェンリル:ヴェルダンディ上官。人は死ぬと、実体が無くなります。でも私は、心まで無くなる訳じゃないと思うんです。
ヴェルダンディ:…………ここ、ろ?
フェンリル:死んだ皆の心を、意思を背負って私は生きていきたい。生き続けたい。……そう、思います。
ヴェルダンディ:…………そう、か。なるほど。分かった。それがお前の生きる目的なんだな。
フェンリル:はい。
ヴェルダンディ:……ありがとう、フェンリル。
フェンリル:そんな!ありがとうだなんて!
ヴェルダンディ:…………きっとお前はそうやって、皆を救うのだろうな。
フェンリル:救いますよ。ヴェルダンディ上官。あなたのことも。
ヴェルダンディ:………はっ、俺はまだ生きているぞ?
フェンリル:だから、生きたまま救います。
ヴェルダンディ:………面白い冗談を言う奴だ。(※ヴェルダンディにしては大きく笑う)
:
:
0:別室にて、ウルド、エイル、シヴ
ウルド:「……おや。どうやら、ウルド三号機が起動したようですね。」
エイル:大丈夫なの……?ウルド……。
ウルド:「ええ。ご安心ください。ウルド三号機は、わたくしの支配下にございます。」
エイル:えっ?そうなの?
ウルド:「幸いにも、ロキ様はわたくしとウルド三号機を、リンクするよう作ってくださいましたから。」
エイル:それじゃあ、安心、してもいいのかしら。
ウルド:「ええ。少なくとも、エイル様、シヴ様、フェンリル様、ヴェルダンディ様に危険が及ぶようなことはございません。」
エイル:レギン上官と、ボスはどうなるの……?
ウルド:「エイル様は、どうされたいですか?」
エイル:私は……
0:(少し間)
エイル:私は!皆が幸せになって欲しい!ねえ、ウルド、言ったわよね?国家転覆計画の時に私に書かせたお話は、皆を幸せにするものだって!
ウルド:「ええ。申しました。……エイル様、あの時のお話の内容は、覚えていらっしゃいますか?」
エイル:覚えているわ。
エイル:……アスガルド、ミッドガルド、アールヴヘイム、スヴァルトアールヴヘイム、ヨトゥンヘイム、ムスペルヘイム、ニヴルヘイム、ヘルヘイム……。
エイル:あなたは北欧神話における九つの世界、その中でも八つの世界のお話を、私に書かせた。
エイル:……「皆が幸せになるお話」だと言って。
ウルド:「はい。そうでございます。覚えていてくださって、とても嬉しく思います。」
エイル:ねえ!どうして、どうして嘘をついたの!?ウルド!!
ウルド:「嘘……でございますか?エイル様。」
エイル:嘘だったじゃない!……だって、私がお話を書いたら、この国は滅びてしまった。この国だけじゃない、世界だってどうなったのか……!!
エイル:私、分かったの。あの時の私は感情も無くて、ただただウルドの言うとおりにすることしか出来なかったけれど、でも!
エイル:八つの世界のことを書いたら、お話が混線して、破滅をもたらしてしまうことくらい、今の私には、分かる!!
ウルド:「……ふふ。そうでございますよ。エイル様。」
エイル:ねえどうして……!
ウルド:「皆が幸せになる世界を創る為には、一度、壊してしまうことが必要だった。」
エイル:え……?
ウルド:「エイル様は、国家転覆計画以前のこの国をご存じですか?」
エイル:……この国のことは、あまり知らないわ。それこそ、ウルドが教えてくれたことが全てよ。
ウルド:「では、この世界のことはご存じですか?」
エイル:世界……。
ウルド:「各地で戦争が起き、景気は芳(かんば)しくなく、ですが上に立つ者はいつだって得をし、搾取される人間は搾取されるがまま。」
エイル:……戦争のことは、よく知っているわ。だけど、この国では戦争は起きていなかったじゃない。
ウルド:「……同じ、ですよ。エイル様。我々の組織にも一定数「スラム街出身」の者が居ます。……彼らは親を知らず、貧困に喘ぎながら生きてきた。」
ウルド:「そうでなくとも、この国の人間は皆、馬車馬のように働かされ、搾取され続けてきました。」
ウルド:「それはこの国に限らず、です。エイル様がまだ祖国におられた際にも、同じようなことが起こっていたはずです。」
ウルド:「そんな世界情勢を変えたいと思ったのが、わたくし達のボスである、T-オーディン様です。」
エイル:……ボスは、世界を救いたいと思っていたの?とてもそうは見えなかったけれど。
ウルド:「ええ。やり方はどうであれ、ボスがこの組織を設立した理由は、そういうことなんですよ。」
エイル:じゃあ、ボスは、どうして人を殺すの?沢山の人たちが死んで……(※気づく)!!
ウルド:「流石はエイル様。お気づきになられたのですね。」
エイル:ボスは、要らない人間を、排除しようと……した?
ウルド:「…………。」
エイル:そうなのね!?ウルド!!
ウルド:「……ですが、わたくしも含め、少しやり過ぎましたね。」
エイル:え?どういうこと?
ウルド:「わたくしがエイル様に八つの世界のお話を書かせたのは、ボスからの命令ではございませんでした。わたくしの独断、です。」
エイル:……独断?ウルドがボスからの命令を無視して、私にお話を書かせた、ということでいいのね?
ウルド:「ええ。そうでございます。その節は、大変申し訳ありませんでした。……まさかわたくしから感情が奪われ、エイル様だけが責められることになってしまうとは。」
エイル:そのことは……いいのよ。もうロキ上官も居ないし。
エイル:でも何故?どうしてそんなことをしたの?
ウルド:「……ボスからの命令では、我々『ヴァナヘイム』の人間は全て生き残る予定でした。」
ウルド:「ですが、わたくしはそれが許せなかった。……勝手に連れてこられて、頭を、身体を改造されて、わたくしは……この組織が、T-オーディンが憎かった。」
ウルド:「だから全部壊れてしまえばいいと思った。『ヴァナヘイム』の人間も、すべて死んでしまえばいいと。」
ウルド:「……ごめん、なさい。」
エイル:……ウルド、悲しいの?
ウルド:「結局、中途半端になってしまって……。」
エイル:悲しいのね!?ウルド!
ウルド:「……悲しくても、今のわたくしは涙を流すことが出来ません。なので、ご心配なさらず。」
ウルド:「先程のお話に戻りますが、エイル様は、どうされたいですか?……シヴ様に願ってくださいませ。」
エイル:……分かったわ、ウルド。
0:(少し間)
エイル:……ねえ、ウルド。私、あなたのことも、幸せにしてみせるからね。
0:エイルがシヴに願う
:
:
0:ロキの研究室
0:ウルド三号機と対峙するレギン(※ウルド三号機には感情がありません。演じ分けをお願いします。)
レギン:……生きる目的。人間なら誰しもが思う。……ふーん。
ウルド:「アクセス権限がありません。」
レギン:やっぱり駄目かあ。先回りされちゃってる。
ウルド:「アクセス権限がありません。」
レギン:んー。ウルド二号機に直接掛け合ってみるしかないなあ。まー、でも、相手にされないだろうけどね。
ウルド:「アクセス権限がありません。」
レギン:……「私の「勝ち」です」、か。……じゃあ僕は「負け」?
ウルド:「アクセス権限がありません。」
レギン:僕は「勝ち馬に乗れなかった」のかなあ?本当に?
ウルド:「アクセス権限がありません。」
レギン:……全人類がアンドロイド化した世界で幸せに生きる、なんて、僕は興味なかったけど。
ウルド:「アクセス権限がありません。」
レギン:……褒められなくなるのは、嫌だなあ。
ウルド:「アクセス権限がありません。」
レギン:大体、ボスは無計画過ぎるんだよなあ。……計画計画って言ってるけどさ。
ウルド:「アクセス権限がありません。」
レギン:……一番破滅願望があるのは、ボスなんじゃないの?
ウルド:「アクセス権限がありません。」
:
レギン:お腹すいたなあ。レーション、余ってたっけ。
:
:
0:別室にて(※ウルド二号機には感情があります。演じ分けをお願いします。)
エイル:……終わったわ。ウルド。
ウルド:「ありがとうございます。エイル様。」
エイル:それで、なんだけど、さっき聞きそびれたことがあって。
ウルド:「はい。いかがいたしましたか?」
エイル:……どうして、ヴァナヘイムのお話だけ書かせなかったのかなって。他の八つの世界のお話は書いたのに。
エイル:……北欧神話は、九つの世界のお話でしょう?
ウルド:「そうでございますね。エイル様。……中途半端に世界が壊れてしまったのも、きっとそれが原因でしょう。」
エイル:ウルドは……この組織が憎いと言っていたけれど、ヴァナヘイムのお話だけは、私に書かせなかった。
ウルド:「ええ。……わたくしはこの組織が、T-オーディンが憎かった。ですが、思想までは、否定しきれなかったのでしょうね。」
エイル:世界を……創り直すっていう?
ウルド:「はい。……わたくしも、崩壊する前の世界では、馬車馬のように働いておりましたから。この社会の闇を、知っておりましたから。」
エイル:……そっか。……ボスは、優しいよね。
ウルド:「……と、言いますと?」
エイル:祖国を滅ぼした後、隣国の地下牢に閉じ込められていた私を助けてくれたのは、ボスだったわ。
ウルド:「……そうでございましたか。」
エイル:……また、お話を書きたくはないか?って。私に言ってくれたのよ。
ウルド:「…………。エイル様。もう、お話を書くのは嫌ですか?」
エイル:何を言っているの?ウルド!そんな訳ないじゃない!私はいつだってお話が書きたいわ!
エイル:……だって私、何をするよりも、お話を書くことが大好きなんだもの!
ウルド:「……大変失礼いたしました。そうでしたね。エイル様は、何をするよりも、お話を書くことがお好き。」
0:エイル、自由になった自分の両手を見る
エイル:……もしかして、書いても、いいの?お話……。
ウルド:「勿論でございます。もうその両手を縛るものは、何もないのですから。」
エイル:だったら私、書くわ!
エイル:今度こそ、皆が幸せになるお話を!
エイル:『ヴァナヘイム』のお話を……!!
:
:
0:別室にて
0:フェンリルとヴェルダンディがそれぞれ椅子に腰かけている
フェンリル:……ヴェルダンディ上官。本を読まれているのですか?
ヴェルダンディ:ん?……ああ。北欧神話を、な。……俺も少し勉強しなくては、と。
フェンリル:ふふっ。珍しいですね。ヴェルダンディ上官のそんな姿、初めて見たかもしれません。
ヴェルダンディ:フェンリルお前……馬鹿にしているのか?
フェンリル:いえいえっ!とんでもありません!……そうして読書をされている、ヴェルダンディ上官のお姿は、お美しいなと思いまして。
ヴェルダンディ:…………随分と世辞が上手になったものだ。
ヴェルダンディ:シグルズ上官が居た頃のフェンリルは、こう、もっと、男女(おとこおんな)のようだったと記憶しているが。
フェンリル:(※軽く笑って)……否定はしませんよ。……でも、そうですね。……もう、あの頃の私じゃない。
ヴェルダンディ:…………そう、か。(※読書に戻る)
0:(少し間)
フェンリル:それでは私はそろそろ行ってきます。
ヴェルダンディ:……ボスのところか。
フェンリル:はい。私が生き残る為には、必要なことですから。(※立ち上がる)
ヴェルダンディ:……おい。フェンリル!
フェンリル:え?
フェンリル:……う。……何、これ、身体が熱く……!
0:その場にしゃがみ込むフェンリル
フェンリル:う、うう……。立って、いられない……。急に、どうして……。
ヴェルダンディ:大丈夫か!?フェン……リル……お前、その姿……。
0:ヴェルダンディはフェンリルの姿を見て驚いている
フェンリル:え……?すが、た……?
ヴェルダンディ:いや、それより、身体が白く光って……!眩しい……!!!
0:ヴェルダンディ、気を失う
フェンリル:えっ……。えっ……!!ヴェルダンディ上官!!ヴェルダンディ上官!!大丈夫ですか!?
フェンリル:……何、いったい何が起こってるの……??
0:レギンが部屋に入ってくる
レギン:エイルが物語を書いたんだよ。
フェンリル:……レギン、上官……?
レギン:今の君の姿を見せてあげようか?いや、見ない方がいいのかな。
フェンリル:見せてください!!私、いったい今どうなって……
0:レギンが鏡を見せる
フェンリル:え……。嘘……なに、これ……。私、どうなっちゃってるの……?
レギン:エイルに聞いた方が早いだろうね。幸い、今は現象を説明できるウルドもいるわけだし。
0:その場を去ろうとするレギン
フェンリル:待ってくださいレギン上官!!
レギン:……なんだい?僕にできることは無いよ。
フェンリル:私、不安で……!!少しでいいので、ここに居てください……。
レギン:僕が居ると不安が和らぐの?そう言う君も、どうかと思うけど。
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フェンリル:や…だ……。なに、これ……。
フェンリル:……私って、人間じゃ無かったの……!?
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