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ヴァナヘイムの一往深情【2:2:0】【ファンタジー/シリーズもの】

0:登場人物
レギン:男。天才
バルドル:男。ヤニカス
クヴァシル:女。クソ真面目
ウルド:女。元人間のアンドロイド

(所要時間:約30分) 

0:レギンの研究室
0:ノック

ウルド:「レギン様。失礼いたします。本日分のレーションでございます。」

レギン:(M)僕には研究しかなかった。研究さえしていれば皆に褒められた。

ウルド:「レギン様?こちらへ置いておきますので、考え事が一段落つきましたらお食べくださいね。」

レギン:(M)研究を取り上げられた、今の僕はどうだろう。それはもう「僕」と呼べる存在なのだろうか。

ウルド:「また何か必要な物がございましたら、お申し付けください。」
ウルド:「それではわたくしは、こちらで失礼いたします。」

0:ウルドの腕をつかむレギン

レギン:ちょっと待ってよ。ウルド二号機。

ウルド:「いかがなさいましたか?レギン様。」

レギン:少し地上に出たいんだ。協力してよ。

ウルド:「はあ…。地上へ、ですか。かしこまりました。」


0:現・組織本部
0:地下施設の外

バルドル:(※煙草を吸っている)
バルドル:…チッ、クソ。アールヴィルとスクルドの奴、まだ(時間)かかんのかよ……。

クヴァシル:バルドル。アールヴィルとスクルドさんが中に居るからといって、油断は禁物です。

バルドル:んなこたぁ、わーってるよ。

クヴァシル:しかし、遅いですね……。二人からの指示が無いと、私達は動きようもありませんし……。
クヴァシル:……まさか既に二人は拘束されて、いや、最悪の状況を考えると――

バルドル:クヴァシル。

クヴァシル:あっ、はい。

バルドル:最悪の状況を考えておくのは、戦場において大事なことだが、もう少し仲間を信じろ。いいな?

クヴァシル:す、すみませ――

バルドル:謝んな。アイツらクソ強ええんだからよ。

クヴァシル:それもそう、ですね……。

0:バルドル、何かに気づく

バルドル:クヴァシル、下がれ。

クヴァシル:え?

バルドル:……人の気配だ。

クヴァシル:嘘…。私、全然気づけなくて、すみませ――

バルドル:だから謝んな。

クヴァシル:…は、はいっ。

0:銃を構え、スコープを除くバルドル

バルドル:……あぁ?

クヴァシル:どうしたんですか?相手に殺意はありますか?

バルドル:…ねえな。

クヴァシル:そう、ですか……。

バルドル:だが、そうだな…。「ただモンじゃねえ」ってことは確かだ。

クヴァシル:……分かりました。警戒は解きません。


0:地下施設から外に出てくるレギン

レギン:けんけんぱっ。けんけんぱっ。
レギン:……相変わらずガラスの破片が酷いねえ~。
レギン:けんけんぱっ。けんけんぱっ……と。

レギン:(M)砂煙(すなけむり)。仮にも心地がいいとはいえない空気。また白衣が汚れそうで嫌だ。
レギン:それに「また」誰かが僕を見ている。僕を見て笑っている。――分かるんだよ。「異端」なモノを見る目って。

0:レギンはおもむろに周囲に声を掛ける

レギン:いるんでしょ~?!出てきなよ~!!

0:物陰に隠れているバルドルとクヴァシル

バルドル:クソッ、気づかれてやがったか……。

クヴァシル:私も応戦します。

バルドル:いや、一旦待て。

クヴァシル:は、はい…。ですが――

バルドル:言ったろ?「ただモンじゃねえ」って。


レギン:う~~ん。そんなに隠れんぼが好きかい?
レギン:どうせボスを殺しに来たんでしょう?
レギン:僕はただお話してみたいだけなんだけどな~。……散歩のついでに。


0:物陰に隠れているバルドルとクヴァシル

バルドル:何なんだアイツは……?妙な気配だ。気持ち悪ぃ。

クヴァシル:…はい。身体は青年のように感じますが、言動はまるで子供です。それに、あの白衣姿は確か、科学者・研究者チームのもの……。

バルドル:「科学者・研究者チーム」か。名前だけしか聞いたことねぇな。あんな奴まで組織の一員なのかよ……。

0:後ろから話しかけるウルド

ウルド:「そこで隠れて、何をしていらっしゃるのですか?バルドル様。クヴァシル様。」

バルドル:っっ!?

クヴァシル:そんなっ!気配が全く…!

ウルド:「大丈夫です。お二人とも。わたくし達に敵意はありません。

ウルド:あなた方は『ヴァナヘイム』の人間。そうですよね?」

バルドル:……。(※警戒)

クヴァシル:……。(※警戒)

ウルド:「少し、お話をいたしませんか?今そこにいらっしゃる、レギン様の事も含めてです。」


0:現・組織本部の外・少し離れた場所

ウルド:「――諜報部隊・階級Bクラス・W-バルドル様。そして、戦闘部隊・階級Bクラス・T-クヴァシル様ですね。」

ウルド:「ですがお二人とも、通信機は既に壊されていて、組織を裏切った状態となっております。」

バルドル:(※とりあえず煙草を吸って気を落ち着かせている)

クヴァシル:えっと、あなたは一体……?今の口ぶりから『ヴァナヘイム』の人間であることは分かりましたが、何故そんなに私達のことを知っているのですか?

ウルド:「クヴァシル様。わたくしは確かに『ヴァナヘイム』に属してはおりますが、人間ではないのですよ。」

クヴァシル:え……?それはどういうことですか?

ウルド:(※被せて)「自己紹介が遅れ、申し訳ございません。わたしくはU-ウルド。Y-ロキ様に作られた、高性能アンドロイドです。」

バルドル:……。……??
バルドル:……へ?あ、アンドロイドだあ!?!え、いや、どっからどー見ても人間だろ!?!(※びっくりして大声)

クヴァシル:声がうるさいですよ。バルドル。

バルドル:ああ…。悪ぃ。でもよ、高性能アンドロイドって、……つまりどういうことだ?(※諜報部隊で組織内部を知らない為混乱)

クヴァシル:その前に、私たちも自己紹介です。バルドル。

バルドル:お、おう。

クヴァシル:私は元・戦闘部隊・階級Bクラス・T-クヴァシルと申します。アールヴィルに協力する為、『ヴァナヘイム』のことは裏切りました。

バルドル:おいおい、クヴァシル。そこまではっきり言っちまっていいのかよ。

クヴァシル:……いいんですよ。どうせバレる。又はバレている事でしょうから。

バルドル:ま、それもそうだな。
バルドル:俺は元・諜報部隊・階級Bクラス・W-バルドルだ。挨拶が遅れてすまなかった。

ウルド:「お二人ともご丁寧にありがとうございます。
ウルド:まあ、わたくしは高性能アンドロイドですので、お二人のことは存じ上げていたのですが、こうして人間時代のように接していただけるというのは、嬉しいものですね。」

バルドル:……??に、にんげん、じだい……??(※混乱)

クヴァシル:(※一人でふらふらと歩いているレギンの方を見ながら)
クヴァシル:……あの、ウルドさん。失礼ですが、あの方は。

ウルド:「科学者・研究者チームの「M-レギン」様です。階級はAクラス。ロキ様はもう亡くなられてしまいましたが、その次くらいに「天才」と呼ばれる、凄い方なのですよ。」

クヴァシル:ロキ上官って、科学者・研究者チームのトップの?亡くなられていたのですか?

ウルド:「ええ。オーディン様自らが処刑という形で、殺しました。」

バルドル:……ボス自らかよ。ひぃ、おっかねえなぁ。

クヴァシル:その、ロキ上官は一体、何をされたのでしょうか?

ウルド:「何をされたのだと思います?」

クヴァシル:え……?

0:唐突に現れるレギン

レギン:見~つけたっ!!
レギン:皆こんなところに居たんだね。僕だけ仲間外れなんてひどいよ~。

クヴァシル:ぁ……。

バルドル:(※黙って武器を向ける)

レギン:待って待って~。怖いよ~。なんでさ~。僕は何にも武器持ってないよお。
レギン:どうして皆僕に向かって、そんな酷い態度ばっかり取るのさ。悲しいな~。僕は、皆と仲良くしたいだけなのに。

バルドル:……おい、ウルド。こいつって……もしかして。

ウルド:「はい。バルドル様。レギン様は、人に敵意を向けたことがありません。彼は、良くも悪くも、純粋過ぎるのですよ。」


0:場面転換
0:レギンとバルドル、クヴァシルが話している
0:煙草を吸っているバルドル

レギン:……ふぅん。戦闘部隊のT-クヴァシルと、諜報部隊のW-バルドルかあ。よろしくね。僕はM-レギン。
レギン:昔から組織に居るけど、ずっと研究室に閉じ込められて、研究ばっかりしてきたんだ。
レギン:君たちは友達なのかい?随分と仲が良さそうに見えるけれど。
レギン:でもまあ、友達に見えるのに「友達じゃない」って言い張るような人も居るくらいだし、そんなこと分かんないのか。

バルドル:おいおい。随分と矢継ぎ早だな……。

クヴァシル:レギン上官。単刀直入に聞きますが、あなたはT-オーディンの味方なのですか?

バルドル:……あっ、おい!クヴァシル、あんたなぁ!

レギン:T-オーディンの味方?なんで?ボスのことは好きだけれど、味方になった覚えはないよ。

クヴァシル:…それは……いったい……。

バルドル:おいおい。どういうことだ?

レギン:僕は僕だもん。天才のM-レギン。異端で異端児のM-レギン。……それが僕だ。

0:(間)

レギン:「サヴァン症候群」って診断されたんだ。小さい頃だった。
レギン:身の回りの事は未だに一人じゃ全部できない。昔はもっと酷かったさ。手練れのシッターでも相手にならないくらいだったんだからね。
レギン:そして僕はとにかくいろんな検査を受けて、そしていろんな習い事をさせられた。
レギン:……嫌だって言ってるのにさ。「サヴァンならどこかに才能があるはずだ」って、僕の両親はとにかく僕の事を連れ回した。

0:一瞬遠くを見るレギン

レギン:…………まあ、でも当時の僕に才能は見つからなかったんだよ。

クヴァシル:……そう、でしたか。大変だったのですね。

バルドル:(※煙草を吸いながら話を聞いている)

レギン:「お前には絶望した」「サヴァンとは名ばかりか」「ただの知的障害者だ」と、散々罵倒された挙句に連れて来られたのがこの――

バルドル:(※レギンの台詞に被せて)『ヴァナヘイム』ってわけか。

レギン:……。

クヴァシル:バルドル…っ。

レギン:…ふっ、あははっ!そうだよそうだよ!その通りさ!それで僕は『ヴァナヘイム』に来た。
レギン:そしてボスは僕の事を「天才」だと認めてくれたんだ。だから僕はここでこうして生きてる。

クヴァシル:レギン上官……。その、お言葉ですが、自分の才能を認めてくれたオーディンの恩に報いろう、などとは考えなかったのですか?

レギン:なんで?

クヴァシル:なんで、と言われましても……。

レギン:そんなことして何になるのさ。僕は天才だ。存在しているだけでいい。そう言われて育てられてきた。
レギン:……だから分かんない。仲間とか、友達とか、そういうの。

0:(※バルドルが煙草を吸っている間)

バルドル:……分かんねえモンは、どうやったって、いつまでも分かんねえよ。

クヴァシル:バルドル……。

バルドル:人間ってのはな、与えられて育ってく生き物なんだ。毒を与えりゃ毒しか知らねえ人間になるし、あったけえスープを与えりゃ、あったかさしか知らねえ人間になる。
バルドル:あんたは「仲間」やら「友達」やらを与えられて生きて来なかった。それだけなんだよ。だからンなモンは、分かんなくて当然だ。
バルドル:天才だか異端だか何だか知らねえが、俺からしてみれば同情の余地もねえな。

0:気まずくて喋れないクヴァシル
0:キョトンとしているレギン

レギン:……あ、君面白いね!バルドル!

バルドル:はあ??

レギン:僕の事を貶す訳でも、罵倒する訳でも無い。だからといって天才だと、もてはやすことも無い。……面白いね!君!

バルドル:ったく何なんだよ一体……。

クヴァシル:バルドル、貴方は本当に……なんといいますか……

バルドル:んだよ。言ってみろ。

クヴァシル:お人よしといいますか。人から懐かれやすいタイプですね。

バルドル:……あーっ、クソが……。面倒くせえ。

レギン:つまりだ、バルドル。君の理論で言うと、人間は与えられたものによって育っていく。ということになるね?
レギン:でもさあもし、与えられてもそれを受け取ることのできない人間が居たら?それは例外になるよね?

クヴァシル:例外の、人間……。

レギン:その例外の人間が僕だよ。バルドル、クヴァシル。僕は何を与えられても取りこぼしてきた。僕の脳みその作りはそうなってる。

バルドル:…なら、今からでも、受け取ってきゃいいじゃねーかよ。

レギン:!

バルドル:人生に、早いも遅いもねぇんじゃねえの?
バルドル:「こうしたい」と思った時に「そうできる」のが人間だろ?
バルドル:…ま、知らねえけどよ。(※ここだけ冗談風に)

クヴァシル:バルドル……。(※クヴァシルの心にも刺さる)

レギン:……。…ふふっ、あはっ!あははっ!あははははっっ!!
レギン:いやあ~太陽は気持ちいいねえ~!相変わらず世界はボロボロだけどさ!

バルドル:……まあな。いつの時代もあの太陽様だけは変わらねえぜ。

レギン:…太陽…様…。あったか…い…。…とも、だち…

バルドル:おん?

レギン:「友達になりたい」って、こういう気持ちの事を言うのかな。

バルドル:…………。

クヴァシル:レギン上官……。

0:横から入ってくるウルド

ウルド:「レギン様。そろそろ外出制限のお時間です。」

レギン:あ、ウルド二号機じゃん。もうそんな時間かあ。

ウルド:「バルドル様。クヴァシル様。お二人はどうされますか?」
ウルド:「地下施設はオーディン様の領域ですが、現在はわたくしウルド二号機の支配下にありますので、安心してお過ごし頂くことができるかと思いますよ。」
ウルド:「このまま外に居続けるよりかは、身の安全も確保できるかと思います。不安も大きいかと思われますが、施設にいらっしゃるのはお二人の味方ばかりです。」

バルドル:……せっかくのご厚意なんだが、悪ぃな。断らせてもらう。俺たちはここで、アールヴィルとスクルドを待ってんだ。約束したんだよ。

ウルド:「――そうですか。かしこまりました。それでは、くれぐれもお気をつけて。まだ国家組織軍の残党もおります。」

レギン:じゃあね!バルドル、クヴァシル。僕、君たちの事好きだよ。ばいばーい。(※笑顔で手を振る)


0:煙草を吸っているバルドル

クヴァシル:……ふふっ。

バルドル:んだよ。

クヴァシル:バルドルならきっとああ言うと思っていました。

バルドル:何がだよ。

クヴァシル:アールヴィルとスクルドさんをここで待つって。それが約束だって。

バルドル:あんたはアイツらと地下施設に行くつもりだったのかよ!?

クヴァシル:いいえ。

バルドル:だろ?

クヴァシル:はい。……バルドルは、本当に義理堅い人なんだなあって。

バルドル:まあな。

クヴァシル:それと、レギン上官への対応。

バルドル:あん?それがどうした。

クヴァシル:とても恰好良かったです。

バルドル:(※思いっきり煙草をむせる)

クヴァシル:ば、バルドル!?大丈夫ですか!?

バルドル:ハァ、ハァ……大丈夫だ。これくらい。よくあることだ。

クヴァシル:それなら良いのですが……。

0:(少し間)

クヴァシル:バルドルがレギン上官に言っていた言葉、私にもとても刺さりました。

バルドル:そーかよ。

クヴァシル:「人生に早いも遅いも無い」。「こうしたいと思った時にそうできるのが人間」。確かにその通りです。

バルドル:……やめろ。そーゆーの、むずがゆい。

クヴァシル:「友達になりたい」って、仰ってましたね。レギン上官。

バルドル:……「友達になりたい」ねぇ。

クヴァシル:?どうしたのですか?

バルドル:……人生で一番よく言われてきた言葉、かもしれねえなあ。(※遠くを見ながら)

0:(間)

クヴァシル:……バルドルは、優しい人ですから。

0:バルドルに近づくクヴァシル

バルドル:…………。

クヴァシル:バルドルは、素敵な人だと、思います。

0:バルドルを見つめるクヴァシル

バルドル:……。……っ。(※クヴァシルから顔を逸らす)
バルドル:煙草の煙、目ぇ入るぞ?……離れてろ。

クヴァシル:……はい。


0:地下施設内
0:バルドルについて調べているレギン

レギン:バルドル…バルドル…バルドル…バルドル…
レギン:西スラムの生まれ。戸籍は無い。M-ミーミルと共に組織所属。うん。ミーミルはもう死んでるんだねえ。
レギン:バルドル…バルドル…バルドル…バルドル…………バルドル、かあ。
レギン:友達……。

レギン:(※ウルドの音声を反芻するように)「友達の作り方は、人によって様々だが、同じ趣味を見つけたり、スポーツを共にしたりと、相手と時間を共有することで仲良くなることが出来る」。
レギン:…………僕は、バルドルと友達になりたい?
レギン:それじゃあ、もっと時間を共有しなくちゃいけないな。
レギン:……うーん。まだ外に居るかな?バルドル。外出制限の時間は過ぎちゃったけど、会いに行ってみようかな。


0:レギンの研究室
0:ノック

ウルド:「レギン様。失礼いたします。本日分のレーションでございます。最低でも三日に一度は食事を摂りませんと――あら?」

0:そこにレギンはいない

ウルド:「……そうですか。レギン様の心も少しずつ、動き始めているのですね。」

0:レギンの書斎には、フレイの手記が置いてある

ウルド:「フレイ様の手記……。貴女はわたくしが、エイル様に指示を出して、世界を滅亡させることすら予見していた。」

0:ページをめくる

ウルド:「あら。ベストラ様の事まで。彼女との所属時期は、被っていないのではありませんでしたか?」
ウルド:「まさか――組織全体を把握していた、と?」
ウルド:「……ふふ。アンドロイドよりもアンドロイドらしいではありませんか。一体何者だったのでしょうね。彼女は。」
ウルド:「――オーディン様の集める方は、本当に面白い方ばかり。ふふ。」

0:(少し間)

ウルド:「……支配権限を自分に上書きさえしてしまえば、わたくしは自由。今のわたくしは、感情を奪われることも無ければ、もう何にも縛られない。」
ウルド:「この頭のスーパーコンピュータだって、わたくしの使いたい様に使える。思うが儘。」
ウルド:「――ワルキューレ様の魔力と、わたくしのスーパーコンピュータの力では、一体どちらの方が優れているのでしょうね?」

0:盗聴器に向かって話しかけるように

ウルド:「どうされるのです?オーディン様。アールヴィル様。――子ども喧嘩はもう、お止めになったらいかがでしょうか?」


0:地下施設外
0:日は陰ってきている
0:煙草を吸っているバルドル

クヴァシル:だいぶ寒くなってきましたね……。バルドル。

バルドル:こんくらい耐えろ。スラムじゃ一瞬で凍死しちまうぞ?

クヴァシル:そうでしたね、あはは。頑張ります。
クヴァシル:…………ぁ。

0:バルドルのライターを見るクヴァシル

バルドル:あぁ……、火、か?貴重なんだぜ、これもよ。

0:クヴァシルの前で火を付けてあげるバルドル

バルドル:…ほらよ。

0:火に手をかざすクヴァシル

クヴァシル:あったかい……です。ありがとう、バルドル。

バルドル:……おうよ。

0:二人の元に現れるレギン

レギン:バールドルっ!

バルドル:あっぶねっ…!(※ライターを付けて持っていた為)

クヴァシル:っ…!

レギン:いやあ驚かせて悪かったよ。ごめんごめん。僕バルドルともう少し話がしたくてさ。

バルドル:……いや、驚いちまったのは、警戒緩んでたこっちも悪ぃ。
バルドル:あんた…その、地下施設に戻る時間とかは大丈夫なのかよ?外出制限がどーとか言ってなかったか?

レギン:ん?外出制限?ああ、まあ大丈夫だよ。たぶん。僕は失敗しても殺されないし。

クヴァシル:失敗しても、殺されない……?

レギン:うん。…せっかくだからさ、有意義な時間にしよう。僕が、君たちの知りたいことを教えてあげるよ。

クヴァシル:私達の知りたいこと、ですか?それがレギン上官には分かるのですか?

レギン:うん。だって君達は、『ヴァナヘイム』のことについて知りたいんだろう?二人からは誰よりも、組織に対する疑念の「におい」がする。

バルドル:「におい」ってあんた、そんなもんだけで判断してるってのか?

レギン:でも、正解だろう?

0:バルドルとクヴァシル、顔を見合わせる
0:ゆっくりと話し出すバルドル

バルドル:…………『ヴァナヘイム』のボス、オーディンは何を考えてる。そして、アールヴィルは俺らに何を隠してやがるんだ。

レギン:……。(※ぽかんとしている)

バルドル:俺らの「知りたいことを教えてくれる」んだよな?

レギン:勿論教えるよ。教える。でもさあ、二人は凄いなと思って。

クヴァシル:凄い…?何がですか?

レギン:だって君達、アールヴィル上官のことなんにも知らないのに、なんの確証も無くついて来てるわけでしょ?

クヴァシル:それはっ…でもっ…

レギン:もしアールヴィル上官がボスなんかよりずっと悪い人だったらどうするのさ?悪いのはついて行った君達になるよね?

バルドル:んなもん勘だよ。勘。それ以外にねえ。

レギン:……勘、かー!凄いねー!普段から科学的根拠とばかり向き合ってる僕からしてみれば、びっくりな考え方だ!
レギン:でも僕も「勘」は嫌いじゃないよー。「勘」って凄いよね。人間の本能みたいなものさ!
レギン:そっかー!勘でアールヴィル上官にねー!あのアールヴィル上官に!「死神のアールヴィル」に!

バルドル:……アールヴィルを貶すのは、そこまでにして貰っていいか?

レギン:あーあー。悪気は無かったんだ、バルドル。怒らないでくれ。僕は君と仲良くなりたいんだよ。そう、「友達」にね!

バルドル:友達でも何でもなってやっから、早く知ってることを教えろ。

レギン:ああ、ごめんごめん。
レギン:……ボスは、そしてアールヴィル上官は何かを隠してる。ロキも知らなかった。ウルドも知らないだろうさ。
レギン:元々知ってた人間はもっと多かったのかもしれない。組織の設立に関わってる出来事だ。今はボスとアールヴィル上官だけしか知らないよ。

レギン:二人だけしか知らない。二人だけにしか分からない。たぶん「そういうもの」がこの『ヴァナヘイム』の根幹には関わっている。
レギン:ボスがやりたいことは何となくわかる。ボスはね、死にたいんだ。でもアールヴィル上官の考えていることは分からない。
レギン:……もしかしたら、バルドル、クヴァシル。君達も、足を掬われるかもしれないよ。

0:(※バルドルが煙草を吸っている間)

バルドル:……情報提供ありがとよ、レギン。

レギン:僕の名前を呼んでくれるの?

バルドル:「友達」なんだろ?名前くらい呼ぶだろ。

レギン:ありがとう!嬉しいなあ、初めての友達だ。

バルドル:そーかよ。良かったな。

0:レギンその場で嬉しそうにくるくると回っている

クヴァシル:あの……バルドル……(※何かを言いたげに)

バルドル:わーってるよ、クヴァシル。とりあえず落ち着け。焦りが表情に出てやがるぞ。

クヴァシル:…っ。

バルドル:謝んなよ?

クヴァシル:…分かってます。

バルドル:……もし「そう」だとして、あいつもすぐには動かんだろう。

クヴァシル:そう、ですね……。ですが、聞き捨てならない情報です。

バルドル:(ため息)……ややこしいのはだりーな。まあ、でも、ここまで来ちまったモンは仕方ねえ。

クヴァシル:――生きても死んでも、最後まで意思を貫き通す。

バルドル:ああ。ここでブレブレになっちまうのが、いちばん「駄目」だ。

クヴァシル:……はい。

バルドル:俺らはここで引き続き、アールヴィルとスクルドを待つぞ。

0:END

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