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ラブソングについての考え事
・最近ラブソングを聴いていて思うことがある。
この曲に出てくる「好きな人」って一体どんな人ですか?
・ここ1年でよく聴いているラブソングの歌詞を見てみる。
ふざけないで どんだけあたしがきみに尽くしてきたかってわかんないでしょわかんないでしょわかりたくもないでしょ
思い出すのは君がいた
ギター持ってる君がいた
選曲に偏りがあるのは認めるがどちらもどんな人のことが好きなのかまったくわからない。
怪獣の花唄は「ギター弾き、歌う人」という情報はあるが、ジレンマに関しては「彼/彼女」の情報がまったくない。「彼/彼女」が「彼/彼女」に振られたことはわかるが、年齢や性別や容姿の情報はない。歌い手の感情は痛いほど伝わってくるがどんな相手だとかはまったくわからないのだ。
・平成中期の恋愛ソングはもう少し具体性があったと思う。例えば椎名林檎、例えばaiko。
あなたはすぐに写真を撮りたがる
あなたはすぐに絶対などと云う
少し背の高いあなたの耳に寄せたおでこ
息を止めて見つめる先には長いまつ毛が揺れてる
・ギブスの「彼/彼女」は写真好きで考え方や話し方に少し偏りがある人間だということがわかる。好きな人が写真付きでなければ感情移入しづらいだろう。
カブトムシの「彼/彼女」は少し背が高く15〜20cm差が考えられるのでそれ以下でそれ以上の好きな人だとしっくりこないし、好きな人のまつ毛が焼け野原だったなら想いに浸るのは難しいかもしれない。
・この差はなんだろうと一日考えていた。「ここではないどこか」が空前のブームを見せていたり「曖昧に終わることでの想像の余地」に関心が集まっている。答えはここにあるのではないか。
「曖昧に描写された彼/彼女」は「まだ見ぬ想像の彼/彼女」であり、「あまりよく知らない憧れの彼/彼女」になりうるのだ。
一方「前髪が長い彼/彼女」や「部屋にタバコの匂いを残していく彼/彼女」や「いつもメガネがずれている彼/彼女」は「私の想う彼/彼女」とは一致しない可能性がある。
精緻に描写しなければしないほど不特定多数の「彼/彼女」になるのだ。共感を得られた方が有利であろうラブソング市場では「彼/彼女」の存在証明は曖昧であればあるほどいいのかもしれない。
・こうやって心の中の「彼/彼女」は多くのリスナーの想像で補完されて行方知れずになる。
私たちは行方知れずになった「彼/彼女」を鼓膜の奥で追いかけつづけているのだ。