見出し画像

240907_床下で眠る

・東京テアトル配給の「愛に乱暴」を観に行った。


・好きな映画でした、観に行ってよかった。


・リネンの高級なエプロン。木の取手の鋳物の鍋。庭で育てたローズマリー。アンティークのティーカップ。無添加の石鹸。白磁の調味料入れ。ベージュ色のやかん。おんぼろの家から浮いて見える丁寧に選ばれた生活道具。スマートフォンケースは2年前にうんと流行ったレザーケースだ。ベッドの肌掛けも気持ちよさそうなガーゼ素材。不条理な生活を少しでも理想のものに近づけようともがく桃子の日々の工夫は手に取るようだった。「お義母さん、お義母さん」と身の周りを気遣う姿は献身を通り越して自傷行為のよう。昔の幸福だと思っていた自分をなぞっても現実は変わらないし、使い古しのデートプランで知らない女を愛撫する夫はくだらないし矮小だ。そんな日常を桃子は桃子の正しさで苛烈に生きていた。


・ 私は妊娠したことがない。なので想像するしかできない。けどお腹にあたたかな生き物がいてその命が耐えた時。悲しくて辛くてなかったことにしたくなる気持ちは知っている。私の母がそうだからだ。私の兄(姉かもしれない、教えてもらえないから。)は産まれる前に死んでいる。我が家には水子の墓がある。けれど桃子にはない。悲しくて辛くて、失ったなんて言い出せなかったし、供養なんてとんでもないことだったのかもしれない。だから床下に埋めた、未来を想像して選んだ希望も夢も全部一緒に床下に眠らせた。いなくなったなんて思いたくなかったのかもしれない。

・昔、叔父に「おじいちゃんに会いたいと思ったら墓の扉を開けて墓の中に入ればいい?骨壷に会える?」と聞いたことがある。どうやら会えないらしい。雨が降って水が染みて骨は溶け出してしまっているから、少し前に見た時はもう空っぽだったそうだ。私は何のために墓参りをしていたんだろう、そこにもう祖父はいないらしかった。桃子はお菓子の缶に子供を仕舞い込んで床下に埋めた。本気になればいつでも会える。畳をめくって、チェーンソーを振り回せば。でもいつでも会えるからって、帰ってくるわけではないのだ。

・それらが江口のりこさんの視線や肌、髪の毛、身体の動きで鮮烈に描かれる。江口さんの身体は絵筆みたいだった。感情をスクリーンに映し出す絵筆 見終わった後、あまりの現実感に怖くなった。大切な何かを失った時わたしはどうなるんだろう、そう考えるのを止められない映画だった。



・映画の前に食べた帆立としらすの塩麹レモンのパスタがとても美味しかった。



・展示会に行きたい、最近行けてないねと話していてふと気になって名古屋市美術館の展示を見たら「民芸展」が予定されていた。

いいな、これは行こうと思います。

映画館で見た予告映像の中にも面白そうな映画がたくさんあった。「スオミの話をしよう」、「憐れみの3章」、「ビートルジュース」、「ふれる。」、「若き見知らぬ者たち」、「破れざるもの」は観に行きたいな。

「THE3名様」はもう上映中だから急がないと終わっちゃいそう。調べたらもう一日一回しかやってない。チャンスは9月10日しかなさそう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?