きのこ

「書くというのは旅に似てるかも。」(アーモンド著「ミナの物語」) 映画と音楽と文学とサブカルと、おいしいものと、書くことが好きです。 好きなものについて、好きなように書くつもり。ひとりごとが誰かの楽しみになれば、幸いです。

きのこ

「書くというのは旅に似てるかも。」(アーモンド著「ミナの物語」) 映画と音楽と文学とサブカルと、おいしいものと、書くことが好きです。 好きなものについて、好きなように書くつもり。ひとりごとが誰かの楽しみになれば、幸いです。

最近の記事

あれは拍手か、軍靴か、それとも業火の爆ぜる音かーー映画「オッペンハイマー」

0.子ども達の記憶  9歳。わたしは膝を立て、その隙間に顔を埋めて、カーペットの毛ばだった表面をじっと見つめる。絶えず悲鳴とうめきが聞こえる。同級生の、どうしたの、ちゃんと見なきゃ駄目じゃん、と無邪気に私を糾弾する声も。うるさい。本当は今すぐ耳も塞いで、こんなところから逃げだしたい。冷たい汗がこめかみから伝い、ひざと太ももの間を濡らす。    みんなが見上げるテレビ画面の中では、人間が、燃えて、溶けて、抉れて、爆ぜている。 空気圧に耐えきれず目玉が飛び出す。血液が

    • そちらの星は燃えていますか?

       ここ4ヶ月のことをざっと一言でまとめよう。  雪のちらつく真冬、出張に次ぐ出張の合間に同僚から思わぬ人格攻撃を受け、へろへろになりながら帰って来たらアパートの退去を迫られ、ギリギリ表面張力で保っていた理性は決壊して鬱が急激に悪化し、それでも物件探しをして不動産屋と戦ったりしながら引っ越しを終え諸々手続きをし、直後に初めてコロナに罹った。  そして現在は夜、私は新居のベッドに寝ている。  いや、情報量多くね?  これを読んでいる中に、1人くらいはそう思う方もいるだ

      • 深夜の私と、遠くのあなたのために

         なんで小説書くんですか?  書くのってやっぱり楽しいんですか? と、よく聞かれる。 わたしは  「いいえ、九割九分は苦しいばかりですけど」 と答える。  そうすると相手はオヤオヤと訝しげな顔をする。この女、マゾヒストなのかしらん。あながち間違いでもないーー文章を書くことは己を削り現すことだから、その多くの作業に痛みを伴う。この表現でいいのか、この書き方で伝わるのか、この構成で退屈ではないか、そもそもこんなものしか書けない自分は酷くつまらない人間なのではないかーー執筆中幾度と

        • 土星の燃えるとき 「サターンリターン」1巻を読んで

           20か21になったばかりのころ、本屋で立ち読みをしていて 「大人になるということは何かを失うことだ」という一文に出逢った。 そのころの私は働き始めたばかりで、『大人』になることを渇望していながら実際は何にも失いたくない子どもだったので、当然その文には猛反発した。「失わなくたって成長して変わっていけるはずだ、私は別のやり方を見つけてやる」ぐらいのことを思っていた。繰り返すが子どもだったのである。  喪失は自分の予期せぬ瞬間や形でやってくるし、それは回避したりコントロールできる