月曜日の図書館 進化した手当て
人生で初めて包丁で手を切る。切る、というよりあごの部分が手のひらにずぶんと刺さってしまった。とりあえず患部を押さえつつ作りかけの肉じゃがを電鍋に放りこんでスイッチを入れ、薬局に向かう。最近の絆創膏は進化して全体的にのっぺりしている。これで患部を覆うと自然治癒力が高まるらしい。
じんじんする。
手のひらを使えないと予想以上に不便である。普段は意識していないが、図書館の仕事はつかんだり抱えたり持ち上げたりすることが殊の外多い。貸出手続き中に本の角が患部に当たってしまい、0.5秒ほど白眼になった。
更に今月のわたしはおじいさん月間にも突入している。おじいさん月間とは、困ったおじいさん(またはおじさん)にからまれることで、一度このゾーンに入ってしまうと残念ながら一ヶ月くらいは脱け出せない。ひとりのおじいさんが新たなおじいさんを引き寄せるのでなかなか厄介である。
これまでに遭遇した事例:
荷物の持ち込めないエリアに荷物ごと入りたいと駄々をこねる。大声で一時間怒り続ける。
申込書を提出してからコピーしてくださいと言っても聞かない。本に八つ当たりしてきれる。
質問の意図を聞き返したら癇癪を起こしてきれる。
とりあえずきれる。
お祓いに行った方がいいかもしれない。
Dが片手を吊っているのでどうしたのか尋ねたら、車に轢かれそうになった猫を助けようとして骨折した、と言う。なぜそんな嘘をつくのか。
進化した絆創膏は粘着力が強い。はがす度に皮膚が引っ張られて傷口が開くので、せっかく自然治癒力を高めてもまた一からやり直しである。
カウンターに座っていると、おじいさんが近づいてきて、となりの公園では自転車の人たちがすれ違うときにちゃんと自転車から降りて歩いていた、あんたも見習わないといけない、と言う。
わたしは自転車に乗らない。
Dにもう一度尋ねると、今度はファッション、と答える。誰からの応援のメッセージも書き込まれていない包帯が、まぶしいほど白い。
前にゾーンに入っていたときは、同い年くらいの人からも不条理な理由できれられ、あまりにもがっかりしすぎて体が勝手に事務室に戻ってしまった。ブルータス、お前もか、という気持ち。その年齢でそんな態度なら、おじ(い)さんになったときは一体どんな怪物になってしまうんだ。代わりに応対してくれたLちゃんが、さっきはごめんなさいって謝ってたよ、と後で教えてくれた。
この一件を最後に、そのときは呪いから解放された。
大好きな本屋さんの通信でおすすめされていた『厄除け詩集』を読んでみようと、早速予約をかける。引き寄せ体質になると、まるですべてのおじいさんが極悪人であるかのように思えてくるが、まどわされてはいけない、世界の半分以上はやさしさでできている。
近くに面白い喫茶店があると聞いて興味を持ったが、ネット記事を読んでみると、店主のおじいさんがお店のこだわりを延々聞かせてくれるのが醍醐味、とあり、そういうのはもう十分間に合ってます、と思う。
vol.70