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夫=夫 シナリオ

S1 病室(現在)
クレジット
×      ×      ×
暗闇の中、声が聞こえる。
佑大の声「いってらっしゃい」
辰紀の声「いってきます」
佑大の声「気をつけてね」
扉の閉まる音。遠ざかる足音。
佑大の声「ただいま」
辰紀の声「おかえり」
佑大の声「腹減ったわ」
辰紀の声「いま作ってるから、シャワー浴びてきたら」
佑大の声「ん、そうする」
徐々に遠ざかる声。
×      ×      ×
電子音がだんだん聞こえてくる。
近づいてくる現実の足音。
老人の声「すいません。遅くなりました」
看護師の声「お身内の方ですか?」
老人の声 「夫です」
看護師の声「どうぞこちらへ」
足音。
かすかな呼吸音。
看護師の声「意識はありませんが、なにか話しかけてあげてください」
わずかに開かれるまぶた。
暗闇に光が射す。
顔をのぞかせる老人。映像は少しぼやけている。
老人「辰紀さん、来たよ。聞こえる?」
佑大の手が近づいてくる。

S2 寝室(過去)
顔に佑大の手が直撃する。
顔をしかめる辰紀。目が覚めてしまう。
隣では、佑大が大の字で寝ている。寝相はよくない。
ふたりともパンイチである。
もぞもぞと体を起こす。
起こされて不機嫌だが、無防備すぎる佑大の寝顔に和んでしまう。
面白くてずっと見ていられる。
ブラインドを開ける。
辰紀「朝だよ」
まぶしさで顔をしかめる佑大。唸る。
朝陽を浴びる辰紀。もぞもぞと起きだし、猫のようにじゃれる佑大。
佑大「おはよ」
まだ半分寝ている。
辰紀「おはよう」
佑大「いま何時?」
辰紀「6時」
佑大「バカじゃん?」
辰紀「誰のせいだ」
佑大「おやすみなさい」
辰紀「起きて。走るよ」
佑大、答えない。
辰紀「起きなさいってば」
ふたりの左薬指には指輪がはまっている。

タイトル「夫=夫」

S3 浜辺(現在)
歩いてくる老人。
ランニングしている若者たちに笑みがこぼれる。
視界はぼやけている。音も遠くから鳴っているかのよう。
辰紀の声「こら、真面目にやりなさい」

S4 浜辺(過去)
佑大「しんどい」
辰紀「食べ過ぎた分消費しないと。デブになるぞ」
佑大「足痛い」
辰紀「文句ばっかり言わないの」
佑大「いいもん。俺、どうせ辰紀さんみたいに恰好よくないし」
辰紀「ひがまない」
佑大「なんてね」
とダッシュで追い抜いていく。
辰紀「こら待て」

S5 浴室(過去)
細く開いた扉越しにシャワーを浴びるふたり。はしゃいでいる。
*アドリブ

S6 洗面所(過去)
汗で汚れたふたりのランニングウェアが洗濯機の中で回っている。
ボケッと見つめる風呂上りの佑大。
トイレを流す音、扉の開閉音がする。
佑大をまたぐ辰紀。通りすがりに頭をくしゃくしゃにする。
辰紀「なにしてんの?」
手を洗う。
佑大「なんか、夫夫(ふうふ)っぽいなって」
辰紀「なにが?」
佑大「汚れものを一緒に洗うのって」
辰紀「そうなの?」
佑大「わかって」
辰紀「俺たち分かり合えない」
またもや頭をくしゃくしゃにする。
佑大「じゃ、離婚だ…って、おい、いま手洗ってなかっただろ!」
追いかける。賑やかな音がする。

S7 リビング(過去)
並んでご飯を食べている。
納豆をかき回した箸でおかずを取ろうとして、
辰紀「気になる?」
佑大「なにが?」
辰紀「これ、納豆つかんだ箸で」
佑大「え、なんかいけないの?」
同じように箸をそのまま大皿に入れる。
辰紀「じゃあ、いいや」
佑大「俺たち分かり合える」
辰紀「だな」
おかずを頬張る。
佑大「なんかいいね。こういうの」
辰紀「なにが」
佑大「どうでもいいことべらべら話すの」
辰紀「なに言ってんの?」
佑大「夫夫(ふうふ)って感じ」
辰紀「そればっかり」
佑大「飽きるまで繰り返すのって醍醐味じゃん」
辰紀「そうなの?」
佑大「思い出ってそういうもんじゃん」
辰紀「思い出作り」
佑大「そうそう。それそれ」
ふふふふと笑う。
ごぼごぼ音がする。
佑大「ん、なに?」

S8 病室(現在)
老人「ん、なに?」
ごぼごぼ音がする。
老人「ずっと一緒にいるよ。安心して」
ごぼごぼ音がする。
老人「結婚してよかったでしょ」
手が伸びてきて、

S9 リビング(過去)
膝枕している佑大の頭をくしゃくしゃにする。
佑大「わぁ」
佑大、辰紀の手をつかみ、指輪をいじくる。
辰紀「(いじくるの)好きだね」
佑大「俺のこと?」
辰紀「バカ野郎」
佑大「バカ言う人がバカなんですぅ」
辰紀「今朝言ってなかったか?」
無言。
辰紀「こら、無視すんな」
佑大「冷めないといいね」
辰紀「俺たち?」
佑大「愛っていつかは冷めるもんじゃん?」
辰紀「仮面夫婦みたいな?」
佑大「そう、それそれ。それに男同士って壊れやすいし」
辰紀「さみしいこと言うな」
佑大「心構えしとかないとさ」
辰紀「どうして君はそうネガティブなの」
佑大「生まれつき」
辰紀「かわいそう」
佑大「かわいそう言うな」
辰紀「おお、よちよち」
頭をくしゃくしゃにする。
佑大「あのさ、辰紀さんに出会えたのって奇跡みたいなことだと思うわけ」
辰紀「うむ。それで?」
佑大「だから、大事にしたいって、思うわけ」
膝にしがみつく。
辰紀「安心しなさい。最後まで看取ってあげるから」

S10 病室(現在)
老人「それ、俺のセリフだよ」
笑う。
ごぼごぼ音がする。
老人「謝らないの。見送るのは夫の義務だよ」

S11 寝室(過去)
服を脱いで、ベッドにもぐりこむふたり。
佑大「明日何時?」
辰紀「8時に家出る」
佑大「OK-」
辰紀「佑大は?」
佑大「9時半」
辰紀「んじゃ、目座まし6:30ね」
枕元のスマホをいじる。
佑大「おい」
辰紀「朝ごはん一緒に食べるんだよね?」
佑大「いらない」
辰紀「一緒に食べるんだよね?」
佑大「いらない」
辰紀「あっそう。俺が作ったご飯食べられないと」
佑大「すいません。食べます」
辰紀「え、なに?なんて言ったの?」
佑大「食べます。いいから、もう寝よ」
辰紀「はいはい。おやすみ」
佑大「おやすみ」
老人の声「おやすみなさい、辰紀さん。…いままでありがとう」

S12 暗闇~誰もいない部屋~浜辺(現在)
佑大の声「いってらっしゃい」
辰紀の声「いってきます」
佑大の声「気をつけてね」
扉が閉まる音。遠ざかる足音。
×      ×      ×
辰紀の声「おかえり」
佑大の声「ただいまー。疲れたー」
辰紀の声「シャワー浴びてきな」
佑大の声「ご飯は?」
辰紀の声「いま作ってる」
×      ×      ×
佑大の声「いってらっしゃい」
辰紀の声「いってきます」
佑大の声「…早く行きなよ」
辰紀の声「行ってきますのキスは?」
佑大の声「えー」
辰紀の声「早くしないと行けないから。ほらほら、はよはよ」
佑大の声「仕方ないなーもー」
チュッという音。
×      ×      ×
浜辺に佇む老人。苦笑している。
まぶしさに目を細める。
容器を取り出す。左薬指には指輪。
蓋を開け、遺灰を取り出す。
老人「辰紀さん、よく頑張ったね。お疲れ様」
灰を撒いていく。
老人「いってらっしゃい」
風に舞う灰。
老人「ありがとう」
ひと言ずつ、灰を撒いていく。
老人「またね」
老人「さようなら」
海原に消えていく灰。
老人「さようなら」
老人「さようなら」
老人「ありがとう」

S13 寝室(回想)
ベッドでくつろぐ、事後のふたり。
佑大「手出して」
辰紀「はい」
佑大「違う。そっちの手じゃない」
辰紀「こっち?なにするの?」
佑大。ごそごそと指輪を取り出し、辰紀の薬指にはめる。
佑大「はい」
辰紀「え、これどうしたの?」
佑大「買ったの」
辰紀「ふうん」
佑大「あげる」
辰紀「ありがとう…え、これって、そういうこと?」
佑大「うん」
辰紀「あ、そっか。そうか」
佑大「俺、辰紀さんのこと好きじゃん?」
辰紀「うん」
佑大「辰紀さんも俺のこと好きでしょ?」
辰紀「う、うん」
佑大「じゃあ、いいじゃん」
辰紀「うん…これってお揃い?」
佑大「うん」
佑大、自分のを取り出す。辰紀、奪い取って
辰紀「じゃあ、はめてあげる」
薬指にはめる。
佑大「えへへへへへへ」
辰紀「佑大ん家に挨拶に行かないとな」
佑大「え、あ、うん。そっか…」
辰紀「心配すんな。大丈夫だよ」
頭をくしゃくしゃにする。
佑大「うん」
辰紀「で、いくらしたのこれ?」
佑大「そういうこと訊かないの」

S14 大木の下(*合成)
佇む、裸の辰紀。
舞い散る花吹雪。
気配で振り返る。
辰紀「お、来た」
対峙する、裸の佑大。
佑大「お待たせ」
お互いの指輪を見せ合う。
うれしさを隠せない。
佑大の頭をくしゃくしゃにする。
佑大「わぁ」
辰紀「おかえり」
佑大「ただいま」
満面の笑みで。

了  

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