実体験からのムカデに刺された(噛まれた)時の応急処置方法

 本noteは、ムカデに刺された経験のある筆者が国内外の論文や医療情報サイトを元に収集した情報から、ムカデ毒に対しての有効な応急処置について説明していく。

 先にお断り申し上げておくが、筆者は医者でもなく医療に明るい訳でもない。よって本noteに記載された応急処置方法も筆者自身の集めた知識と経験からのものであり、あくまで医療機関を受診するまでにできる応急処置の参考程度と考えていただき、試すも試さないも自己責任でご判断願いたい。

 まず、ムカデに刺されたのが初めてではなく、明らかに呼吸が苦しくなってきた、意識が朦朧としてきたという場合は問答無用で救急車を呼ぶべきだ。それは『アナフィラキシーショック』という重度のアレルギー反応であり、病院で適切な処置を受けなければ最悪の場合死に至る症状である。

 「ムカデに刺されたぐらいで大袈裟な」などと思われるかもしれないが、実際に死者が出ていることを考えれば決して笑い事ではないはずだ。これを読んでいる方が、今まさにムカデに刺されて、藁にもすがる思いで読んでいるのならば、以下の方法で応急処置を試みて欲しい。


【ポイズンリムーバーが手元にある場合】
①焦らず適切なサイズのカップを患部に当てて毒を吸引する
②46度前後のお湯で10分~20分程洗い流す

【ポイズンリムーバーが手元にない場合】
①刺された部位を絞り出すようにして、46度前後のお湯で10分~20分程洗い流す
※絶対に毒を口で吸わない!口内の傷から毒が吸収されて症状が重態化する可能性がある!

 
 この場合のお湯は、容器に溜めたものではなく、シャワーなど均一な温度が出るもので流すことが望ましい。また、お湯の温度は必ず43度を下回らないようにし、火傷しない温度ですること。お湯で洗い流すのは刺されてから遅くとも20分前後まで。(理由については後述する)


【ポイズンリムーバーとは?】
 ポイズンリムーバーは、アウトドア用品店などで購入できる、蛇や毒虫に咬まれた、刺された場合の最も有効な応急処置用具である。患部にカップを当て、それを吸引することで皮下にある毒を体外へ排出することができる。

 キャンプ場の管理事務所などには常備しているところもあるだろうし、アウトドア中であれば周囲の人間が持っている可能性もあるため、積極的に聞いて回るべきだろう。ただし、虫毒や蛇毒は体内に注入された時点から体に回り始める為、ポイズンリムーバーは刺されて2分以内に使用するのが理想とされる。

(言うまでもないが、このnoteではムカデに刺された場合の対処のみを記述している。マムシやヤマカガシなどの毒蛇に噛まれると、毒そのものだけで十分命にかかわるので、四の五の言わずに救急車を呼ぶべきである。お湯などちゃぷちゃぷ掛けている場合ではない。)

【応急処置の種類】
 ムカデに刺された場合の対処として、本noteでは応急処置として大まかに以下の二つの方法を挙げる。
①温熱療法
②冷却療法

【温熱療法】
 温熱療法は、46度前後のお湯で患部を10分から20分程流し続ける処置方法である。ムカデ毒の主な成分であるタンパク質を熱によって変質させ、無害化することが主な目的になる。しかし43度より低い温度では、毒がより活性化する可能性があり、また刺されてからある程度時間が経ってしまった場合は、患部の血管が温められたことで拡張し、毒の回りが早まる危険性がある。
まあ要するに、『火傷しない程度の熱いお湯で患部を洗い続ける』のだ。
 だが、野外でムカデに刺された場合などでは適切な温度の温水を確保することは難しいだろう。前述の通り、ぬるいお湯ではかえって逆効果になることもあり得る。そうなると、温熱療法は諦めて速やかに『冷却療法』に切り替えるべきである。


【冷却療法】
 冷却療法とはその名の通り、患部を冷やす方法である。氷嚢や保冷剤、無ければ氷をビニール袋に詰める。凍傷の危険がある為それらは直接肌には当てず、必ずタオルなどで包んでから患部に当てること。

 こうすることで患部の血管が収縮し、毒の回りを遅らせることができる可能性がある。また、ムカデに刺された場合、その多くは患部に腫れの症状が現れるので、冷やすことで腫れを抑えることも期待できる。

 温熱療法と冷却療法は一見して相反するもののように見えるが、温熱療法は毒を可能な限り無害化することを目的としており、冷却療法は毒が全身に回るのを遅らせ、また腫れに対しての効果を期待してのものである為それぞれに目的が異なる。

 ここで理解しておいて欲しいのが、温熱療法についてはっきりとしたエビデンス(医学的に効果がある証拠)を筆者自身が発見できなかったことだ。

 ただ、これは温熱療法に全く効果がないという意味ではなく、実際にムカデに刺された場合の対処として、冷やすのと温めるはどちらも有意に痛みを減少させ得るという結果の研究が、海外の研究者によって発表されている。

 ムカデ毒は、その成分や人間に対しての作用自体がまだ完全に解明されていないことから、このように経験則的な対処療法が用いられている側面がある。冷やす派と温める派で国内の皮膚医でも意見が分かれていることからも、どちらの方法にも一定の効果があると見て良いと私は考えている。

 以上の二つの処置を試したことで痛みがなくなり、それほど患部が腫れていないのであれば、ひとまずは安心していいだろう。

 あとは虫刺され薬を塗って安静にしていれば、そのうち気にならなくなるはずである。市販薬では『ムヒアルファEX』が最も効果的であると、筆者の知るムカデに大変詳しい方が仰っていたので、ここでもそれに倣うことにする。明らかに病院に行くほどではないが、薬が欲しいという場合はこちら頼るべきだろう。このように、冒頭に書いたアレルギー症状によるアナフィラキシーショックさえ起きなければ、適切な応急処置のみで被害を最小限に抑えることができる可能性が高い。
 ただ、温めても冷やしても『痛みが引かないどころかパンパンに晴れ上がってきた』のであれば、速やかに次の処置に移るべきだ。


③皮膚科にいく
 結局、病院で薬を貰うのが一番効く。広義の虫刺されは皮膚科の専門であり、場合によっては内科でも受け付けている所があるようだ。事前の確認ができるのであれば、電話で聞いてみた方が確実だろう。
 毒虫による急性の症状には、一般的にステロイド系軟膏と抗ヒスタミン剤、ステロイド錠辺りが処方されるので、それを数日服用すればまずほとんどの場合で快復すると思われる。

※ステロイド、いわゆる副腎皮質ホルモンが含まれた薬は強力だが副作用も重い。医師または薬剤師の指示に従って服用すること。

 以上がムカデに刺された場合の応急処置の方法となるが、言うまでもなく一番はまず刺されないことである。

 農作業やキャンプ中に刺されるなど、野外での遭遇は不慮の事故の側面があるが、ムカデが家屋に入ってくる場合の多くは、ゴキブリなどの餌を求めた結果であることが多い。

 まずは、家の中を清潔に保ち、野外からムカデの餌となる虫が侵入しないよう気を配ることで、ムカデの侵入をも予防できるのだ4。

 そして、覚えておいて欲しいのが、外国産のムカデ(ほぼ全種が日本原産種より強毒で凶暴だが、普通に生活している限りは遭遇しないだろう)でもない限り、国内で刺されるのはトビズムカデ、アオズムカデ、タイワンオオムカデが主であろうから、重度アレルギー反応を起こさなければ死ぬことはない。

焦らず、適切な応急処置が肝要である。
最後に、筆者が本noteを書くことにした理由を少しだけ書かせて頂きたい。

 「いや、ムカデに刺されて痛すぎるからそれどころじゃない」という方は、読み飛ばして頂きたい。お大事にして欲しい。

 さて、筆者は20代半ばの社会人である。独り暮らしの傍らで、奇蟲や爬虫類を愛でながら会社とアパートを蟻のように往復している。

事の発端は、2020年の9月末。

 深夜2時に唐突に『ムカデくんのケージ、狭そうだな』とダ○ソーで購入した大きめのタッパーにムカデを移そうとした刹那、寝ていた所に突然鷲掴みにされ、ぶちギレたムカデくんはピンセットを目にも止まらぬ速度で登り、軍手越しに筆者をザクリと刺した。

 学名 scolopendra dehaani、流通名ベトナムオオムカデ イエローレッグに噛まれたと気付いた時には全てが遅かった。

 グローブをはめたようにぱんぱんに腫れ上がる手、田舎なので深夜はやってない病院、激痛で眠ることもままならない長い夜。
 
 涙目になりながら、朝までひたすら海外の論文をインターネットで翻訳を掛けながら読み漁った結果がこのnoteとなる。

 アホな筆者はポイズンリムーバーすら常備して居なかったため、まんまと毒が血流に乗ってしまい死を覚悟する羽目になった(痛い痛いと成人男性が泣くレベルの痛みで寝られなかった)が、これを期にアマゾンでポイズンリムーバーを始めとする対策グッズを購入し、備えることができている。

 ムカデ飼育者及びムカデに刺される機会のある方は、日頃の準備を是非とも心掛けて欲しい。本noteが皆様のお役に立てれば幸いである。




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