【掌篇】黒い赤ん坊
2019年7月10日の夢
女が毛布を抱えている。見ず知らずの女だ。気になって手元を覗き込むと毛布の中で赤ん坊が寝息を立てている。途端、私はギョッとして後ずさった。
それは黒い赤ん坊であった。
ネグロイドの黒さとは似ても似つかぬほどどす黒く、差し詰め虚穴の如き暗黒であった。
「貴方の子ですよ」
と、おもむろに毛布を差し出して女が言う。
私はにわかに狼狽して
「私はそんな赤ん坊は知りません。第一に赤ん坊などというのはいけません、私はそのようなものを見ると冷や汗が止まらなくなるのです。どうか、どうかやめてください」
と捲し立てた。
無論、私にそのような性質はないし何をやめて欲しいのかもうまく表せなかったが、額には確かに一条の汗がつたっていた。私の尋常でない様子に女は
「さようですか」
と呟き、食い下がりもせず、やけにすんなり踵を返したかと思うと毛布を抱えて立ち去った。
やがて女の背が見えなくなると、私ははっと胸を撫で下ろした。そして、先程の不気味な現象を忘れてしまおうと早足で反対方向に歩き始めた。全くわけがわからない。
しかし、程なくして立ち止まる。重い。どうにも肩のあたりが変だ。頭陀袋でも背負って来たかのように重いのである。
恐る恐る手で探ると生温かいものに触れた。それは引っ込めようとした私の薬指を反射というべき速度で捕らえたのだ。
皆まで言うまいが、あの黒い赤ん坊はやはり私の子であったに違いない。
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