「好きを仕事にする」という言葉のワナ
お疲れ様です。もなきです。転職エージェントをしたり、スタートアップ企業の採用のお手伝いをしたり、採用動画のプロデュースをしたり、YouTube(名もなき転職チャンネル)をしたりしています。
YouTubeで話している内容を文字でもお伝えしている「名もなき転職マガジン」。今回は「好きを仕事にするという言葉のワナ」について書きたいと思います。
ここ数年、「好きを仕事にする」っていうフレーズ、よく聞きますよね。故スティーブ・ジョブズ氏のスピーチで特に広がりを見せましたが、最近はTwitterやYouTubeで影響力があるインフルエンサーの人たちもよく使っているフレーズな気がします。ヒカキンさんが出演したYouTubeのCMのキャッチコピー「好きなことで、生きていく」なんてのもありましたね。
そこで今回のnoteでは
・好きを仕事にって本当に現実的なの?
・そもそも好きな仕事ってどうやって見つけるの?
そんな風に思っている方へ向けて解説したいと思いますので、最後までお付き合いください。
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【1】好きを仕事にすると何が起こる?
ここからは、僕が何度も読んで参考にしているこちらの書籍「科学的な適職」を一部引用しながら説明していきたいと思います。
この本はとてもおすすめで、転職や適職ということについての真実を、海外の論文を中心とした科学的なデータをもとに、とても本質的なことが沢山書かれています。気になる方はぜひ手に取って読んでみてください。
本の中では、仕事で陥りがちな幻想を7つ紹介しているんですが、その中の1つが今回のテーマである「好きを仕事にする」という幻想です。
いきなり「幻想」って言っちゃっているので、結論としては「好きを仕事にする」は多くの人がやりがちな間違いだよってことです。簡単に解説していきます。
まず1つ目の調査結果として、アメリカの大手調査会社であるギャラップ社が、139ヶ国の企業におこなった調査を紹介しています。その調査によると
「熱意を持って仕事に取り組んでいる」と答えた日本人は、日本人回答者のうち6%だけだった。逆に「やる気がない」という回答は70%もいて、これは139ヶ国中の132位と最下位クラスでした。
みなさんは、自分がこの調査の対象者だったとしたら、どう回答しますか?
僕は、今でこそ自分の仕事を熱意もやる気も持ち合わせながらやっているんですけれども、会社員時代を思い起こすと、必ずしも熱意とやる気に満ちている時ばかりではなかったなと思います。
では「好きを仕事にすれば万事解決するのか?」と言うと、実はそうとも言えないんです。
2015年に、アメリカのミシガン州立大学が「好きを仕事にするのは本当に幸せか」という調査をおこなったそうなのですが、その際に、被験者の仕事観を2パターンに分類しました。
①適合派
「好きなことを仕事にするのが幸せだ」と考えるタイプ
②成長派
「仕事は続けるうちに好きになるものだ」と考えるタイプ
みなさんは、この2パターンで、どちらの方が幸福度が高かったと思いますか?一見、①の方が幸せになれそうに見えますよね。
ですが、結果的には、①の「好きを仕事にするのが幸せ」という適合派の人たちの幸福度が高いのは最初だけで、1年〜5年のスパンで見た場合、幸福度や年収などのレベルは、②の「仕事は続けるうちに好きになるものだ」と考える成長派の方が高かったそうです。面白いですね。
「好きを仕事にするのが幸せ」という①の適合派の人たちも、いくら好きな仕事だろうが、実際には仕事をしていると、面倒な事務作業、厄介な人間関係、トラブル対応や、ハードな残業などは起きます。
その時に好きな仕事を求める気持ちが強いと、そのぶんだけ現実の仕事に対するギャップを感じやすくなり「今の仕事は本当に好きな仕事なのだろうか?」と考えてしまう人も出てきます。結果として、最終的な幸福度は下がるそうです。
一方で、②の「仕事は続けるうちに好きになるものだ」と考える成長派の人たちは、そもそも仕事に大した期待を持たないため、何かトラブルや面倒なことがおきても「仕事とはこんなもんだ」と思うことができるそうです。
同じくこんな研究結果もあります。
イギリスのオックスフォード大学が行った研究では「好きを仕事にした人ほど長続きしない」という結論が出ています。こちらの研究では被験者の働きぶりをもとに、3つのグループに分けています。
①好きを仕事に派
「自分はこの仕事が好きだ」と感じながら仕事に取り組むタイプ
②情熱派
「この仕事で社会貢献するのだ」と思いながら仕事に取り組むタイプ
③割り切り派
「仕事は仕事」と割り切って日々の業務に取り組むタイプ
その後、この方々の仕事の継続率を確かめたところ、最も継続率が高かったのは③の「割り切り派」だったそうです。②情熱を持って仕事に取り組む派や、①の好きを仕事にしている派のほうが、仕事の継続率が高そうに思えますが、実際には「仕事は仕事」と割り切った方がスキルの上達が速く、すぐに仕事を辞めない傾向があるようです。
このように「好きを仕事にする」よりも「その仕事を続けているうちに好きになる」くらいの考えの方が幸せになれるし長続きする、ってことです。
なんか、ここまで読むと「じゃあ、今はその仕事がつまらなくても、我慢してでもとりあえずはしばらく頑張れってことか」「継続は力なり」「石の上にも三年」みたいな話かよ!っていう結論になっちゃいそうですよね。
じゃあ、今の仕事が好きになれない、情熱を持てない人は、どう考えればいいのでしょうか?
【2】情熱を持てる仕事の見つけ方
「好きを仕事にしよう」と並んで、よく聞くのが「情熱を持てる仕事を探そう」っていうフレーズです。誰の中にも情熱っていうものは眠っていて、あとはそこに火をつけるための仕事、つまり「天職」を探していこうぜ!という話です。
幻想を壊しまくっていて恐縮ですが、「天職」なんてどこにも転がっていません。外を歩いていて「あ、天職見っけ!」みたいにはならないんです。じゃあどこにあるかというと、自分の中です。自分の中で見つけて、それを育てていくものなんです。
じゃあ、その情熱を注げる仕事、つまり「天職」はどうやって探すのかと言うと、ポイントとなるのが「自分がさいてきたリソースの量」つまり「かけてきた時間」です。
これもデータで示されているのですが、
・仕事に対する情熱の量は、前の週に注いだ努力の量に比例している
・過去に注いできた努力の量が多くなるほど、情熱の量も増加する
簡単に言うと、最初の内はなんとなく仕事を始めていても、それに時間をかけて努力していくうちに、自分の中で眠っていた情熱が高まり、結果的に「天職」に変わっていくということですね。つまり、実は自分の仕事に情熱を持てるかどうかは、シンプルに、あなたが注いだリソース(時間)の量に関係するのです。
どうでしょうか、皆さんピンときますかね?ちょっと、僕を具体例にして恐縮ですが、考えてみます。
例えば、僕はYouTubeを週に2本配信していて、毎回事前に話す内容をあとでブログ(このnote)にも文字起こしできるように、全てテキストで台本を作っています。初めのうちは、台本なしでしゃべったり、対談形式がメインだったので、事前台本作成のスタイルに変えてからをカウントすると、ざっくり100本近くでした。
この動画の台本を、毎回4,000文字〜6,000文字で文章書いているんですよ。これ、平均とって毎回5,000文字だとしても、5000文字×100本で50万文字。新書の文字数がだいたい10万文字なので、5冊の本を書けちゃうくらいの量を書き続けているんですね。毎回、台本を書くのに3時間くらいはかかっちゃっているいるので、ここ1年くらいで注いだリソースの量としてはかなり多いと思います。
その結果、今どうなっているかというと昔よりも「文章書くのがすごい好き」になったのですね。新たにどんなテーマで書こう、話そうっていうのを考えたり、それに関連することを調べて、自分なりの見解を持った上で言葉にしていくことに情熱を持っているわけです。もちろん、まだまだ「天職」とまでは自信を持って言えないものの、何かを言語化する、表現していくということは自分の本業の仕事でもいかされているし、やりがいを感じています。
なので、僕の中に眠っていた「言葉で表現する」という情熱のかけらが見つかって、続けていくうちにそれが育っていって、情熱を注げる対象になっていったんですね。
こういうことって、みなさんの中でもないでしょうか?
初めは、いやいや引き受けた納会の司会者が、毎回任されて周りからも褒められたりするうちにすっかりいたにつき、気づいたら楽しみになっていた
最初は親に言われて始めたサッカーだったけど、チームメイトともうちとけて、毎週通っているうちにサッカーが生活の一部になっていった
などなど、色々とあるかと思います。
今の仕事においても、継続してそれをやっていく中で情熱のかけらを見つけて、続けていくうちにそれが育っていく対象になる可能性は十分にあるんです。
【3】仕事を意義深いものに変えていく
「おいおいもなき、そうは言っても、今の仕事の意義が見出せず、情熱なんて沸かないんだよ」って思っている方へ、最後に1つの考え方をお伝えします。それが「ジョブクラフティング」というものです。「ジョブクラフティング」はすごい簡単に言うと
ジョブクラフティング
自分で自分の仕事を意義深いものに変えていくこと
ジョブ・クラフティングの例としてよく出されるのは、ドラッカーによる「3人の石工(いしく)」の話です。
あるところに、3人の石工がいました。
1人目の石工に「あなたは何をしているのか?」と尋ねると、「親方の命令でレンガを積んでいます」と答えました。
2人目は「レンガを積んで塀を造っています」と答えました。
そして3人目の石工は、「美しい大聖堂を造っています」と答えました。
どうでしょうか。皆さんが今の仕事にやりがいを感じられず、モチベーションが下がっている時って、この1人目の石工のように考えちゃってることないでしょうか。
現代風に置き換えると「上司の命令で、資料を作っています」みたいな感じですかね。2人目の石工であれば「資料のグラフで使用するデータを作るため、エクセルを集計しています」とかでしょうか。3人目の石工であれば「弊社の〇〇というサービスを新たな顧客にご利用いただき顧客の事業成長につなげていただくための提案の準備をしています」みたいな感じでしょうか。どの考えで臨むかによって、モチベーションや幸福度は全く変わりそうですよね。
このジョブクラフティングの具体的なやり方については時間の関係で割愛しますが、機会があったらまた別のnoteで話したいと思います。
最後に一言。
僕は、転職エージェントの仕事をしているので、色んな方から「今の仕事に情熱を持てない」「好きを仕事にしたい」っていう相談はたくさんいただきます。自分の会社の利益のみを考えたら「だったら転職しようぜ!」と言っちゃった方が儲かるかもしれません。でも、それって本質的じゃないなと思っているのでそうしないようにしています。
本当に支援したいのは、何かを継続していく中で好きなこと、情熱を持てることを見つけ、その情熱がどんどん育って好きな仕事が見つかり、新天地でその情熱をもっと注げる環境にいきたい、という方です。そんなチャレンジがしたい方いたら、ぜひお気軽にお話ししましょう。
今後も、このnote(名もなき転職マガジン)では、転職やキャリアにまつわる話を発信していきたいと思います。ぜひnoteやマガジンをフォローください。尚、今回の内容は以下の動画でも見ることができますので、よろしければぜひ高評価とチャンネル登録お願いしますm(_ _)m
▼今回のnoteの内容について話した動画
それでは、みなさん、良い1日を。
もなき