スリザリン

夢を見た。

よくわからないが、私と友人達は山奥に行かねばならず、ひたすら森の中で車を走らせていた。

程なくして、大きな白い狼のような怪物が車を追いかけてきた。私は後部座席の中央。両サイドに学生時代の友人。化け物はみるみるうちに距離を詰め、ドアを破り、私の左に座っていた友人を引きずり出した。

助けてと泣き叫びながら必死に車にしがみつく友人。パニックになる車内。

私はこの時点で、今起きている惨状は夢だということがわかっていた。

そんな私は、「夢ならいいか」と友人を見捨てた。

左耳から聞こえる悲鳴を遮るように、右隣の友人を押して、押して、化け物から距離をとった。

あまりにも非情な自分の振る舞い。

寝起きは最悪だった。



私はヒーローに憧れていた。いや、今でも憧れている。誰かを助けて死にたいだなんて、そんな事を毎日妄想している。

幼い頃から学級長や部長など、様々な役職に就いてきた。心の何処かで、いつも自分のことを「正しくて優しい人間」だと思ってきた。本質はどうであれ、周りはそう思ってくれているだろう、と自信を持っていた。

だからこそ、この夢の中での自分の行いが信じられなかった。

何をしたって死なない夢の中だからこそ、あの子を助けられたはずなのに。それなのに、私は「夢の中だから」周りの信頼を欠いてでも自分が助かるように動いたのだ。

わかってしまった。

私が行う善行とは、全て周りからの評価のためであったと。周りから嫌われないのであれば、周りに気がつかれないのであれば、いくらだって非道なことが出来てしまうのだと。

もし同じことが現実で起きたなら、私はどうするのだろう。「現実で死にたくないから」彼女を見殺しにするのだろうか。はたまた、「現実で誰かに評価されたいから」彼女を助けるのだろうか。


ハリーポッターの寮の組分けの話になると、決まって私はスリザリンが似合うと言われた。

自分にはグリフィンドールが似合うと思っていた私は、あまり納得がいっていなかった。

でも、今なら何故私がスリザリンかのかが、わかる気がする。




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