エモクロアTRPGとは赦しである

この文章には前振りとして長めの自分語りが含まれます。

タイトルの意図についてすぐに読みたい場合は
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どうしてもCoCのシナリオが書けずにいた。

TRPGを遊び始めておよそ7年になる。
その間ずっと卓を回し参加し続けてきたわけではないが、むしろ回数で言えばかなり少ない方なのだが、TRPGについて考えない時間はほとんど無かった。

元々文章を書くことが趣味だったのもあり、自作シナリオを携えマスタリングすることも度々あった。
特に『永い後日談のネクロニカ(以下ネクロニカ)』は、最初に触れたということもあり、制作したシナリオ数が多いシステムだった。

私のTRPGはネクロニカから始まった。
一度サンプルシナリオのキャンペーンを遊んだ後は、それぞれオリジナルのものを持ち寄って遊んでいたように記憶している。(違うかもしれない)
ネット上で配布されているシナリオがあまり多くなかったというのもあるし、何となく拘りがあったというか、元々世界観に惹かれて集まった者たちでプレイしていたため、それぞれなりの「こんなネクロニカが好き」を形にしていたような気がする。

それから間もなく「TRPGと言えばクトゥルフ神話TRPG(以下CoC)」という風潮に乗っかり、CoCを遊ぶようになった。
CoCには既にシナリオが多数存在しており、Pixivやそれ以外のサイトから持ってきたそれらをプレイする形で遊んでいた。
「わざわざ自分で書く必要が無かった」とも言えるだろう。
少なくとも私はそう感じていた。


その内に大学を卒業し、暇な時間は無くなり友人たちとの距離も離れたためにTRPGに触れることはほとんど無くなってしまった。
1年に2,3回、大学院に進学した友人とかサークルの後輩相手にゲームマスターをする程度だったはずだ。
TRPGがやりたいなあと感じながらも、まあ無いなら無いでいいか、と思っていた。


それからしばらくして、私はゲーム実況者として動画を投稿し始めた。
そして半年後。

「TRPG配信」というものをおよそ初めて見て、めちゃくちゃにハマった。

「配信でTRPGがやりたい!」と思った。


そうしてまたTRPG熱に火が着いたのであった。

配信でプレイするためにまず準備すべきものはシナリオだ。
「せっかくなら自作シナリオがいい」と思っていた。
最初に見た配信がCoC、そして2人でゲーム実況をしているのもあり、システムはCoCにしてGM1・PL1のソロシナリオを用意しようと決めた。

さて、ここで困ったことが発生する。

CoCのシナリオが書けない。


私にはクトゥルフ神話に関する知識が無かった。
ラヴクラフトの作品を読んだことはなく、ルールブックの隅から隅まで目を通したわけでもない。そのルールブックも基本のもの(6版)しか買っていなかった。
物語は思いつくが、その原因や理由として結びつく神話的事象を考えることが出来なかった。
それを必要ないと言ってくれる人は居るかもしれないが(そしてそういった要素が薄くとも名作と呼ばれるシナリオは存在しているが)、少なくとも私はそれが無いシナリオは書きたくなかった。
知識や実力は無い癖にプライドだけは一丁前であった。

何か思いついても、これは詳しい人からすれば失笑ものの解釈違いかもしれない、など色々考えてしまって、どうにもシナリオの執筆が進まなかった。
というか執筆する段階まで達していなかった。アイデアでもう死んでいた。


CoC以外のシステムを遊ぶ案もあった。
所持していた中では『フタリソウサ』がそれこそ1対1にうってつけのシステムで、最終的にはこっちを配信しようかということで話を進めていた。
これはこれで「トリックが何も思いつかん!」と創作力の低さが浮き彫りになっており、何やかや忙しさにかまけたふりをしてTRPG配信の予定はずるずると後ろに引きさがっていった。


来たる2021年3月19日。

『エモクロアTRPG(以下エモクロア)』が発表された。
一緒にゲーム実況をしている相方が言う。

「この波に乗るしかないのでは?」

迷っている時間は無かった。
即座にルールブックを読みながらシナリオの案を考える。
元々CoC用に考えていた単発ネタが流用できないかと思っていたがばにらの一言により方向性を変え、即座にテキスト起こし。
その間に相方はPCの立ち絵と配信画面を作り、翌日18時よりセッション開始。

「オリジナルシナリオのセッション配信」なら多分これが一番早かったんじゃないんでしょうか。

ということで(裁定にミスこそあれど)無事にエモクロアでTRPG配信デビューを果たしたのでした。
半年くらい悩んでいたのが馬鹿らしくなるほどにあっさりと。

――――★――――

ひとつ、簡素なものではあったが書き上げてみて思う。
「エモクロアのシナリオって書きやすいんだな」と。

エモクロアのギミックである《怪異》は「人の感情に影響を与えるもの」と定義されている。
つまりシナリオにおいて、なにものかがPCの感情を動かせばもうエモクロアとしてはOKなのだと。
少なくとも私はそう解釈した。

そもそも物語とはそれを通じて登場人物の意思や感情、考えが変容していくものである。
或いはそうなるきっかけとして、最初に働きかけてくれる存在が居るならば、事件のはじまりを示唆してくれる存在が居るならば、むしろ都合が良いとさえ言える。
《怪異》はシナリオに組み込まねばならぬ裏付けではなく、シナリオを引き起こしてくれる言い訳として存在していた。

私にはそれが本当に有難かった。


「もう1本シナリオ書くから来週もやろう」と確か私は言った。
或いは水曜くらいに「シナリオ書けそうだから今から準備しろ」と言った。

そうして次の週に行われたのが『彩壊フェアリーテイル』のセッションである。

このシナリオでは、とあるクトゥルフ神話的事象が発生する。
きっと本来的な解釈ではこれは間違っているのだろう。
だがそれでもいいのだろうと思った。
何故ならばこのシステムはCoCではないからだ。

「だってこれはエモクロアだから」。
正しくクトゥルフ神話的事象と関わりたいのならばCoCを遊べば良い。

そんな風に開き直っていた。

コンシューマゲームやソーシャルゲームに登場するファンタジー的オブジェクトはおよそ独自解釈が加えられている。
それが受け入れられるのならば、私がCoCではないシステムで、そのクトゥルフ神話的オブジェクトを独自解釈の元でシナリオに登場させたっていいでしょう? と。
およそそんな風に、「システムの違い」を逆手に取って言い訳に、好き勝手にやらせていただいた。
(もしかしたらそうやって使われているのは制作陣からすれば不本意なことなのかもしれないが……)


シナリオの原因、共鳴者が関わる理由として好き勝手に設定できる《怪異》。
なにものとも関わらないシステムだからこそ既存のあらゆる存在を好きに解釈して輸入できてしまうこと。
(=「このシナリオにおいてはこうなのだ」と言いやすいこと)
この2点において、エモクロアはとても私に馴染むシステムだった。


さらにもうひとつある。

私は主にゲームや漫画で育ってきたのだが、これまで見てきたタイトルはファンタジーの闇鍋であった。
エクスカリバーとゲイボルグをそれぞれ携え、レヴィアタンとバハムートが肩を並べ、ゼウスとアマテラスが同じ場所に存在する、と概ねそんな具合で、私の中でそれらは「ファンタジー的なカッコいいもの」として一緒くたにされていた。
それぞれの由来や所属の違いについてあまり詳しく考えたことが無かったと言うのが適切だろうか。

故に、エモクロアの《怪異》の「感情を変異させる超常のもの」というざっくりとした定義が、この曖昧な認識にすら非常に優しく在るように思えたのだ。
あらゆる"不思議"について、それを「感情に影響を及ぼす存在」として扱っていればここにおいては認められ、共存もし得るのだと。

エモクロアは、何もかもが曖昧で半端な私にとっての赦しだった。


(それと同時に、神様から始まり幻想生物、果てはミームに至るまで、あらゆるオブジェクトをこうまで大まかに、あまりに普遍的な定義で括ってひとつの概念として扱ってしまうその手腕に深く感嘆した。
 その懐の広さは本当に凄まじい。だって、人間に感情が存在している以上は何もかもがエモクロアのシナリオになってしまうのだから。)


そこからは思いつくままにシナリオを書き、現在公開中のもので8本目か9本目かそんな感じになっている。
自分がここまで多くのシナリオを書いた上に公開するとは全く思っていなかった。
何せ思いついた話は大概が形になってしまうので、「上手いことギミックや舞台裏が思いつかなくて止まる」ことが無いのだ。
(まあ、シナリオと言うよりは単なる物語を書いているのかもしれないが。TRPGシナリオとして果たして私の作品が正しいかどうかは……。)


何にせよ、シナリオを書くのはとても楽しい。
ゲーム実況がおろそかになりつつあるのは良くないとは思うけれど。

故に、エモクロアは私にとっての赦しなのである。

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