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うまくなるまで俺のギターで
このあいだ無性にイライラソワソワした日があり、久しぶりにギターでも弾くかぁ、と思い立った。
齧歯類のような見た目なのであまり当てられたことはないが、「大学時代なんのサークル入ってたの?」の答えは「軽音サークル」。(ただし1年間だけ)
1年生の時、色々あってサークルに入るのが出遅れたので、2年生の頭に入った。
ギターボーカルと、たまにエレキバイオリンを弾いていた。
歌うと声が太いので阿部真央のコピーバンドとかやってたなぁ。懐かしい。エレキバイオリンは専らアニソンカバーのサポートに入るだけだったけど。
私がいた大学には軽音サークルなるものが4〜5種類あったが、一番上手いサークル(経験者しか入れない、レベルの高いやつ)の会長がたまたまバイト先の先輩だった。先輩はギターボーカルで、ニルヴァーナのコピーとかをやっていた。
無駄に背が高くて、アフロで顔が濃くて、しかも髭面で、声がデカくてガハハハと豪快に笑う、タバコを吸う人だった。私は何かにつけていじられていて、例えるなら「鬱陶しい兄貴」のような存在だった。
1学年上なだけなのに、やたら大人っぽいというか、渋かった。
女性人気は知らないけど(個人的観測では好みが分かれそうな感じ笑)、とりあえず男性には「あいつは男の中の男だ、まさに"漢"だ」と大変人気があった。確かにすごく豪快な人ではあった。
そんな先輩に「私も軽音やってみたいけど未経験だから◯◯(私が入ったサークル)に入ろうと思います」と話したら、楽器どうすんの?と聞かれ、中古ギターを買いに行こうと思っていることを伝えたところ、「1つ余ってるからやるよ。うまくなるまでそれ使えば」と、なんとギターをくれたのだ。上手くなったら自分好みのやつを買ったらいいと。
もらったのは、白のはずだけど、ちょっと黄ばんだレスポール。
正直あんまり可愛くなかったので、ボタニカルな感じのシールを貼ってみたら「なんだそんなもん貼って!剥がせ!」と笑われた。(剥がさなかった)
圧の強い顔に似合わず、基礎の基礎から結構優しく教えてくれた。
そういえば、右腕の振り方がぎこちないことを「もっと思いっきりジャーンってやんだよ!つまんない弾き方すんな」と、ずーーーーっと指摘され続けてたっけ。
学祭なんかでライブをやった時は後ろの方で見ててくれた。無駄に背が高いのでステージからもすぐにわかった。
終わった後ケータイに「楽しそうでよかったぞ」的なメッセージが届いていた記憶がある。
ちなみに先輩のライブも見に行ったことがある。「漢が吠えてる」って感じだった。いつものふざけた雰囲気は一ミリもなく、渋くてでっかくて野生的で赤くて豪快だった。メッセージなどは送らなかった。
結局、私は1年余りでサークルを辞めてしまったし、バイト先も変えてしまったのでその先輩と会う機会は無くなって、手元にはボタニカル風なギターとちょっとした後ろめたさが残った。
いつだったか、ギターを教わりながら色々話していたら「なんでそんな損な選択をしたんだろう。不器用すぎない?」と思うようなことがあり(話の中身は全く覚えていない笑)、「〜〜したらよかったのに」的なことを言ったら
「だってそんなことする俺かっこよくねぇだろ」
と言われたのを強烈に覚えている。
選択に迷った時、この人は「どっちを選ぶ自分がかっこいいか」で判断するんだ。なんかいいな。ロックで。
と素直に感じて、以降「どっちを選ぶ私がイケてるか」という選択基準が爆誕した。
きっと本人は忘れてるだろうけど、私の中には金言としてずっと残っている。思えばもう10年以上前の話。
その先輩はSNSをやっていない。そういう人。(そこがまた良い)
Facebookだけかろうじてアカウントがあり、2年前、私がP&Gを辞めるタイミングでその旨を投稿したら「複業家ってなんだ、一体何者になったんだ」とメッセージが届いた。
10年ぶりにいきなりそんな!?って感じだったけど、流れで飲むことになった。
久しぶりの先輩は相変わらずでっかい声で、でもn人の子供の父親になっており(人数忘れた)、しかも起業していた。事業内容も真っ当で面白くて、すごかった。やっぱり先輩はすごかった。
当時、私は会社員をしながら「もんぬ」としての発信活動とライターやらなんやらの業務委託と自分の事業を練り練りしているところで、"何者か" になんて全くなれていなかったので、「一時期かわいがっていた後輩が知らぬうちにおもろいことをしていて大物になっていた」という展開を期待していたであろう先輩には大変申し訳ないことをしたと思っている。
("複業家" なんていう適当な言葉に勝手に期待したあなたが悪い、と当日は思っていたが、後々申し訳なさが募っている)
いつか、今度こそ、ギャフンと言わせてやりたいわ。
うまくならなかったので、今でも私のギターは黄ばんだレスポール。
ずっとこいつでいい。
ほとんど弾いてないけど、たまに視界に入って「私は私の方向性で立派に、豪快に生ききる」と思い直させてくれるだけでありがたい。
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なんか急に書きたくなったので書きました。
大学時代に出会った憧れの先輩2人のうちの1人の話でした。お粗末さまでした。