アラノンの第一ステップ(2)家族の敗北
家族にとって、アルコホリズムとの闘いとは何でしょうか。それはアルコホーリクを変えようとする試みや、飲酒が直接的にもたらす結果の後始末に明け暮れることばかりではありません。私たちは、さまざまな形で現れる「アルコホリズムの影響」と闘います。夫の体面、子どもの不安、妻の幸せ、親の欠点・・・すべて自分が何とかしなければならないという強い信念は、アルコホーリクが飲んでいる・飲んでいない、共に暮らしている・暮らしていないにかかわらず、私たちをどこまでも突き動かします。さらには、自分の生活や態度などの外面から感情や価値観などの内面まで、無理やり矯正しようとがんばります。これは、私たちがアルコホリズムの影響を受けているという事実に対する反抗に他なりません。私が最後まで諦めなかったのは、この闘いでありました。
イントロダクションでは、powerless と unmanageable という二つのキーワードについて確認しました。アラノンのステップ1の前半「アルコールに対して無力である」は、私たちにはアルコホーリクやアルコホリズムを思い通りに動かす力がないこと、後半の「生きていくことがどうにもならなくなった」は、私たちの人生が(アルコホリズムによって)手に負えない状況になってしまったことを意味します。
私たちがアルコホーリク本人の言動、アルコホリズムの進行や回復に対して無力であるのは、割と分かりやすいのではないかと考えます。一方「アルコホリズムが私たちにもたらした影響」についてはどうでしょうか。この点、How Al-Anon Worksは「私たちはアルコホリズムが私たちに及ぼす影響に対しても無力である」とはっきりと述べています。そしてこれが真実であるのは、悲しいかな、ステップ1の後半通りとなった私たちの人生が証明しています。力の及ばないものに無理やり力を行使して闘い続けることが、私たちの人生を手に負えない状況にします。私たちの人生がいま手に負えない状況になっているのなら、私たちは力の及ばないものに対して自分の力でどうにかしようとしていることになります。これが、powerless と unmanageable の関係性であると考えています。
これまで見てきた通り、アルコホリズムとの闘いに勝ち目はありません。私たちにできることはただ一つ、この闘いを止めることです。どうしたらこの闘いから降りることができるのか。これに対して私たちができることもただ一つ、私たちが無力であり、生きていくことがどうにもならなくなった──完全なる敗北を認めることであります。
敗北は私たちに何をもたらすでしょうか。これまで抱えてきた決して負うことのできない責任を手放すことは、ある意味とてつもなく大きな安堵であります。同時に敗北は私たちに、これまで自分が信じてきた世界を一度完全に解体し、再構築することを要求します。しかし途方に暮れる必要はありません。なぜなら解決につながる道は、まさに「ここから」始まるからです。