【徒然草考：第八十二段】味のある物
徒然草を読み解きつつ人生のたしなみを学びなおす「徒然草考」。
第八十二段をお届けします。
第八十二段：味のある物
原文
※古文体が苦手な方は読み飛ばして現代語訳におすすみください。
「羅の表紙は、疾く損ずるがわびしき」と人の言ひしに、頓阿が、「羅は上下はづれ、螺鈿の軸は貝落ちて後こそ、いみじけれ」と申し侍りしこそ、心まさりして覚えしか。
一部とある草子などの、同じやうにもあらぬを見にくしと言へど、弘融僧都が、「物を必ず一具に調へんとするは、つたなき者のする事なり。
不具なるこそよけれ」と言ひしも、いみじく覚しなり。
「すべて、何も皆、事のとゝのほりたるは、あしき事なり。し残したるをさて打ち置きたるは、面白く、生き延ぶるわざなり。内裏造らるゝにも、必ず、作り果てぬ所を残す事なり」と、或人申し侍りしなり。
先賢の作れる内外の文にも、章段の欠けたる事のみこそ侍れ。
羅（うすもの）の表紙
巻物を巻き終わった際に表になる部分に薄い布を張った表紙。頓阿
俗名、二階堂貞宗。
遁世者で兼好法師の友人。歌人。螺鈿の軸
貝の裏側を削って、巻物の軸の両方に填めて飾った軸。草子
巻物と異なり、紙を重ねて綴じた本。弘融僧都
仁和寺の僧侶。
現代語訳
※著者の個人的な解釈による現代語訳です。
「羅（うすもの）の表紙は、すぐに傷んでしまうのがもったいない」と誰かが言った際、頓阿が、「羅は上下がはずれ、螺鈿の軸は貝が落ちてからこそ味わい深く、むしろ風格が出るものだ」とおっしゃった。
なんと立派なご考察であろうと、思わず見上げてしまった。
また、「書物の綴じ方などが同じ体裁でないのはみっともない」などという声に対して、弘融僧都が「物を必ず完璧に揃えようとするのは凡人のすることだ。むしろ不完全な方が慎み深い」とおっしゃったのには感動した。「すべて、何もかも完璧に仕上げるのは良くないことだ。少しだけ未完成な部分を残しておく方が、面白くて長く続くものだ。宮殿を造る際にも、必ず完成させない部分を残すものだ」と誰が言っていた。
いにしえの偉人が執筆した文献にも、文章が欠けているものがあるという。
古びても、壊れても、味のある物
第八十二段は、物事の完成度や完璧さに対する考え方について、様々な考えた方を提言しています。
「羅の表紙がすぐに傷むこと」や「螺鈿の軸から貝が落ちる」といった、一見すると欠点と捉えられがちな状況が、むしろ味わい深さを生み出すという見方は、私も共感できますね。
ここで私の「傷だらけでも味があるもの」のエピソードをご紹介します。
スズキのGSX750Ｓカタナというオートバイです。
かれこれ40年近く経過した骨董品。
まだ若かりし頃、中古でもらってきて、お金が無いから自分で部品を集めて、「壊れては修し」を繰り返してきました。
あちこち傷だらけですが、おもしろいことに、その傷の所以をほとんど覚えていますね。
いろんな土地を旅したなぁ。
現在は実家のガレージで遁世してもらっています。
久しぶりに引っ張り出してみようかな。
不完全な物は、その過程や変化を楽しむことができますね。
まさに、兼好法師がおっしゃる、「不完全さこそが、物事に深みを与え、永く人々の心を捉える力を持っている」ということなのでしょう。
そう言えば、このオートバイから教えてもらったことがもうひとつありました。
それは、「完成されたものが永遠に続くわけではない」ということです。
形ある物（特に動くもの）はいずれ壊れます。
「壊れて修す」のいたちごっこです。
物は常に変化し続けるのであって、そこに完璧という概念は無いのであります。
あなたがお持ちの、古びても、壊れても、味のある物は何ですか？
どんな物語がありますか？
終わりに
お付き合いいただきありがとうございました。
徒然草を題材に、あれこれ考えてみることは実におもしろいですね。
徒然草を読んであれこれ考えてみたいという方におすすめの書籍をご紹介させていただきます。
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最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。
こちらの情報がお役に立ちましたらうれしいです。
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