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Majority vs Minority, これはいじめ?それとも?

昨年長女に起きたお話。
我が家の子供たちはみんな、EFLに所属している。English as foreign Language、その名の通り、第二外国語として英語を学ぶためのクラスである。このクラスである程度英語の基礎を学び、テストに合格すると普通学級に移れる仕組みである。彼らの学校は、英語力が0でも受け入れてくれることもあり、EFLはいつも、定員いっぱいの生徒であふれている。
今年のEFL、比率的に行くと、中国人が50%、韓国人が35%、そして日本人が15%。女子にいたっては、長女以外は全員中国人、である。

EFLは、そもそも、英語力を高めるための目的であり、普通学級にて学べるだけの英語力を早々に身につけるためのものであるので、基本的に英語以外の言語は使わないように指示がされる。とはいえ、英語ができない子供たちが集まれば、もちろんであるが、みんなことあるごとに母国語を話す。

長女のクラスでは、週ごとにグループを決め、グループごとに得点を競うことになっている。宿題を全員忘れなかったら+10ポイント、とか、良いことをするとプラス、もちろんダメなことをしたらマイナスされる。教室内で英語以外の言葉を、必要とされない場面で話した場合は、マイナス10ポイントされる。毎週、最高得点を獲得したチームには、先生からお菓子のプレゼントがあるため、子供たちとしては、マイナスポイントは回避したいところである。

長女は、同じクラスに長男がいるのでたまに日本語で話すが、とにかくマイナスポイントがいやなので、長男と話す時も英語で話すようにしていた。そして、中国語で話す女子たちに、”Speak English!”とか”No Chinese!"と警告を発し続けたのである。

担任の先生からしたら、助かる存在である。こういうふうに、生徒間で牽制し合うことが自然発生することを願ってのポイント制度、担任の思い通り、長女に関してはこれがうまく作動したのだが、代償も大きかった。

ある日の夕食前、いつものように学校はどうだった?と長女に聞いてみた。すると、いつもは饒舌に学校での出来事を話し出す彼女が、唇を噛み締めてこう漏らした。
”ママ、私、学校でみんなに嫌われてる!”
そして、言い終わるや否や、つぶらな瞳からはポロポロと涙が溢れてきて、長女は声を上げてワンワンと泣いた。

長女を抱き寄せ、背中をさすりながら、涙が枯れるのを待った。ひとしきり泣いて落ち着いたところで、長女に聞いてみた。
”何があったの?”

中国語ばかり話している中国人のクラスメイトに、中国語を話さないように注意し続けた結果、クラス中の中国人から無視されるようになったとのこと。ランチタイムも、長女を避けてみんな座るから、先週から一人で寂しくランチを食べている、と。誰も話しかけてくれない、誰も遊んでくれない、むしろ避けられていて、長女は自分が嫌われている!と言ってまた泣いた。

自分の子供がこのような状態に陥って、心を痛めない親はいないであろう。かくいう私も、彼女からのこの訴えを聞いて、胸が締め付けられた。とはいえ、悲しんでいるだけでは状況は変わらない。これは彼女にとって、またとないチャンスになりうる、かもしれない。

彼女が自信を失い、自己評価を極端に下げてしまわないために、私が彼女に話したことは以下の2点。
・この状況を俯瞰的に見る
・その上で打開策を考える

まず初めに伝えたのは、これは長女の人柄に対して向けられた行為ではないということ。嫌われたのは、彼女の行為(中国語を話さないように何度も注意する)であって、人柄ではないからだ。それを理解してもらうために、長女にはこんな話をした。
”大丈夫、これはあなた自身が嫌われて起こったことじゃないから安心してほしい。逆の視点で考えてみよう。もしクラスにいる女子が日本人ばかりで、一人だけ中国人の子がいたとする。あなたはまだ英語がちゃんと話せない、だけどお友達とは話したいから、日本人の女の子と日本語で話す。そうすると、中国人女子から”日本語はなさないで英語で話して”と注意を受ける。もちろん、それが悪いことだとはわかっているけれど、何度も何度も注意されたら、どう思う?彼女たちと同じように、あなたとその日本人女子も、その一人の中国人を避けるんじゃないかしら”
それを聞いて、確かに、と長女は頷いた。
”ね、だからこれは、あなた自身が嫌われたんじゃなくて、あなたの行為が嫌われただけ。しかも、あなたは悪いことをしているのではなく、むしろ良いことをしているんだけど、彼女たちからしたら鬱陶しかったのよね、きっと”

その通りだわ、とちょっと長女の顔が明るくなる。でも彼女は、一人でランチ食べるのは寂しいし、話ができる女友達がいないことも寂しい、と言う。じゃぁそれをどうやって打開していくのかについても話した。
”あなたが通うのはInternational Schoolで共通言語は英語でしょ。全校生徒は400人くらいいて、あなたのクラスの中国人女子はたったの7人。その7人と仲良くできなかったとしても、残り393人も生徒はいるじゃない。あなたと仲良くしてくれる人はきっといる。EFLのクラスメイトにこだわらないで、外をみてごらんなさいよ。誰かお友達になりたい子はいるの?”
そう聞いたところ、2名の女の子の名前があがった。同じ団地に住む、同じGrade4の女の子。一人はアメリカ人、一人は中国人だけど英語がペラペラ。彼女たちが一緒に遊んでいるのは何度か見かけたことはあった。そして好都合にも、私は彼女たちのママとPTAの活動班が同じであった。これはいけそう!

とりあえず、気晴らしにプールに行こうと誘い、団地の中の共有プールへとみんなで遊びにいった。
すると、なんということでしょう!その二人もたまたまプールで遊んでいたのである。長女に”Can I join?"って聞いてごらん、と耳打ちしてみた。最初はモジモジしていたものの、意を決して大きな声で”Can I Join????"と聞くことができた。答えはもちろん、”Yes"である。そして長女は、お友達になりたいと思っていた彼女たちと楽しそうにプールで遊んだのであった。

翌日。
学校から帰宅するなり、長女が目をキラキラさせながら報告してくれた。
”あのね、今日ね、ランチの時にね、二人をみつけたから、Can I join?って聞いてみたの!そしたらね、いいっていうから、一緒にお昼食べたんだよ!英語でお話ししながらご飯食べたの!すごくない?!”
すごいすごい!ほんとにすごい!

それから数ヶ月経った今、うちの長女のBest Friendは、あの時プールで思い切って声をかけた同じGrade4のアメリカ人の女の子。通学も一緒にするし、帰宅後もお互いの家を行ったり来たりして遊んでいる。家族ぐるみの付き合いに発展し、週末一緒にご飯を食べることも増えた。そして、1泊二日でタイの軽井沢的な場所、Khao Yaiに旅行に行くことにもなった。
彼女と遊ぶようになって、長女の英語がメキメキと上達したのは言うまでもない。

最初は、クラスの女子から相手にされなくて、悲しくて泣いていた長女であったが、へこたれることなく行動に移したことで、かけがえのないものを手に入れた。友達ができたことで自信がついた長女は、今では中国人女子たちに、”英語が話せるようになったらもっとたくさん友達できるよ!”と啓蒙しているという(笑)。
彼女たちも、英語が話せないことでフラストレーションが溜まっていることは、長女も痛いほどわかっているのだ。その中国人女子たちとは、EFL時代を共に頑張った仲間として、時間はかかるかもしれないけれど、将来的に良い友人になれたら良いな、と、母は思うのであった。

状況を俯瞰的にみて、対策を考え、行動に移す。今回の成功体験が、長女の糧になりますように。

おしまい。



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百瀬朝子
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