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黒猫さんと星見の山#旅のようなお出かけ
「ねえ、motohiroさん。
本当に、この先に、星が綺麗に、見えるところがあるの?」
ふう、ふう、息を吐きながら、黒猫さんとぼくは、山道を登る。
今日は、カフェを早めに閉めて、星をみよう、と森を抜けた先にある『星見の山』に出かけることにした。
星見の山から見える、満天の星空を、ぼくは、一度この目で、見たかった。
わたしもみたい!と最初は、目を輝かせていた、黒猫さんだが、ゆるい山道を登るに連れて、疲れてきたらしい。
「こんなことなら、星を見たい、なんて、言わなきゃ良かった」
ふてくされる黒猫さんに、まあまあ、とぼくは、なだめながら、山道を登っていく。
夕暮れが、しだいに、夜に変わっていく。
あれだけ鳴いていたセミの声も、いまは、聞こえない。
かすかに、秋の虫の声が、どこかから、聞こえてくる。
もうすぐ、秋なのだ。
夏の暑さも少しずつやわらいでいる。
けれど、山道を登っているから、暑いのには、変わりはない。
「もしかして、あそこが、頂上?」
黒猫さんが、指をさして、言った。
山頂には、木でできた長い椅子と、長いテーブルが置いてある。
看板には『星見の山、山頂』と書いてあった。
ぼくと、黒猫さんは、荷物を下ろすと、木の椅子に腰掛けた。
黒猫さんは、テーブルに、つっぷして、疲れた、と声をもらす。
ぼくも、息を整えると、ゆっくりと、あたりを見渡す。
木が少ないけれど、自然が豊かだ。
木が少ないおかげで、星が見やすいのだけれど。
「motohiroさん!motohiroさん!
上を見て!星がたくさん」
黒猫さんが、目をキラキラさせて、夜空を見上げる。
ぼくも、空を見上げた。
そこには、息をのむほどの、満天の星がひろがっていた。
見ているだけで、空に吸い込まれそうな、感覚だ。
全身が、感動で、震えている。
黒猫さんも、はしゃいでいたけれど、その星の数に圧倒されて、静かに、空を見上げていた。
ぼくと黒猫さんは、黙ったまま、満天の星空を、見ていた。
ぼくは、持ってきた、キャンプ用のちいさなコンロと、ケトルを取り出して、コーヒーの準備をする。
くつくつ、とお湯がわく音を、心地よく聞いていた。
お湯がわいて、ゆっくりと、コーヒーをいれる。
カップを、黒猫さんに手渡し、じぶんもカップを持って、椅子に座りなおす。
「ねえ、motohiroさん。
聞いていい?」
なんだろう、と、ぼくは、黒猫さんを見る。
「motohiroさんは、ひだまりを、どんなカフェにしたいの?」
黒猫さんは、すっと、引き込まれるような、瞳で、ぼくをまっすぐに、見つめた。
どんなカフェにしたいのか。
ぼくの想いは、あの日から変わっていなかった。
お客さんが増えてきていても、その気持ちは変わらない。
あたたまるには、ちょうどいいくらいの、ちいさなカフェ。
気軽に立ちよってもらい、好きな時に、来て、好きな時に帰る。
いつでも、そのひとが、ここに来てもいいんだ、と思ってもらえるような、そんな、あたたかいカフェ。
真剣に話すぼくを見て、黒猫さんが笑う。
「motohiroさん、変わらないな。
けっこう、頑固だよね。
軸はたまに、ブレちゃうけれど。」
黒猫さんに言われて、苦笑いをしながら、頷いた。
「けれど、嫌いじゃないな、わたし」
黒猫さんは、嬉しそうに、言った。
「あたたかい、カフェに、していこうね」
夜の空気をすいながら、星空につつまれながら、ぼくと黒猫さんは、ゆったりと、コーヒーを飲んだ。
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