ももクロ×しまむらコラボ枕を抱えるたび、ボリウッド音楽が聴こえる
人気キャラクターやインフルエンサーとの限定コラボ商品が話題のプチプラ衣料用品「ファッションセンターしまむら」。
そんな「しまむら」と、我が夫が激推しするアイドルグループ「ももクロクローバーZ」こと、ももクロのコラボ商品が発表された数年前、私は妊娠後期で腰痛緩和のためのクッションを探していました。
夫の影響ですっかりももクロのファンになっていた私は舞い上がりました。せっかくだからももクログッズで妊娠を乗り換えたい。クッションを買おう!
興奮しながら夫にコラボ商品の話をすると「当然知ってますけど」という顔をされた上、「デザイン見たけどちょっと微妙かな。オレ、グッズ腐るほど持ってるし」と、渋い反応。
ファン歴10年以上の夫と私ではグッズの審美眼が違うのです。私は夫からプレゼントされた古着のライブTシャツ1枚しか持ってないのだから、少しは初心に返ってテンションをあわせてほしいものです。
とはいえ夫は、その週末に都内のしまむらに付き合ってくれました。うきうきしながら店に入ると、驚いたことに発売して数日にもかかわらず……コラボグッズはすべて完売していました。
甘かった。
私は心のどこかでももクロを見くびっていたのでしょう。言っても全盛期を過ぎたアイドルのコラボグッズだと舐めていたことを深く後悔しました。
Twitterで調べると、クッションは発売初日に売り切れる人気っぷり。しかも店舗によっては、オープン前に行列までできていたのだそう。
手に入らないモノだとわかると急に欲しくなるのは人間の性。それから出先でしまむらを見つけるたびに、売れ残ってないかダメ元で探してみましたが、当然どこにも残ってませんでした。
ところが、それからしばらくしてコラボグッズの第2弾を発売することが発表されたのです。
今度こそ!!!
並々ならぬ熱意で購入を誓いました。
しかもクッションだけでなく抱き枕やパジャマまでラインアップしていたんのです。それも買っちゃおう。
一方、夫は天邪鬼を発動し、ほかのファンが盛り上がるのを冷めた目で見つめながら「絶対買わない派」を宣言していました。
協力を仰ぐのは難しそうです。
となると、自分の力で何とかするしかないのですが、身重なので遠出はできないし、早朝から並ぶのも体力的に厳しそう。
考えた結果、地元地方都市に住んでいる妹に代理購入を頼むことを思いつきました。地方のしまむらならまだ購入のチャンスがあるかもしれないと思ったのです。
このとんでもなく面倒な頼みを、妹は快諾。しかも、都内ではオープン前に行列していたことを伝えると、念のためオープン前から並んでくれるという。
なんと優しい。本当に私の妹なのだろうでしょうか?私はほしいグッズを伝え、安心して発売当日を心待ちにしました。
発売日、私は朝10時の開店時間からスマホを握りしめて妹からの連絡を待ちます。30分ほどすると、希望の製品を無事にゲットできたと妹から連絡がありました。
私はガッツポーズをしました。
「ありがとう!!よく買えたね!」
「うん。それはいいんだけど、あの、全然並んでなかったんだけど」
……え?
妹は、念には念を入れて30分ほど前から駐車場で待機してたらしい。ところが開店時間直前までほかに客が現れる様子はなかったのだそう。ドアの前に立って開店を待ちながら、どれだけモヤモヤしたのだろう…。後から男性が1、2人並んだ時には、勝手に強い仲間意識を感じたのだとか。
噂とだいぶ話が違う。
私は妹に感謝の意を示しつつ、第1弾では本当に並んでいたのだとアピールしたのですが、あまり信じてくれませんでした。
肩透かしを食らったものの、妹はその日のうちに宅急便で送ってくれる約束をしてくれて、悲願のブツがまもなく手に入る喜びを噛み締めました。
それから数日。
待てど暮らせど荷物が届かきません。
実家は地方都市と言っても首都圏。届かないなんておかしい。念のため、妹に伝票を確認してもらうと……
なんと、妹が間違えて、私が以前住んでいた場所に送ってしまっていたことが判明しました。
なんということ!!!
すぐに宅急便のヤマトに連絡すると、荷物は旧住所の宅配ボックスに入れられたあと、現住人が持ち帰ってしまっていることが発覚。
そして、なんとも面倒なことに、現住人はインドだかマレーシアだか海外の方らしく、何度か訪問するも連絡が取れないとのことでした。
複雑なことになってしまいました。
とりあえず、ヤマトさんは定期的に荷物のピックアップにいってくれるようだが、どうしたものか。
私にとっては大事な戦利品だが、一般的にはただの安っぽい雑貨で、換金できるようなものじゃない。たまたま偶然、ももクロのファンでもないとその価値もわからないだろうし、まともな人ならきちんと返却してくれるはずです。
ただ、相手は外国の方。その国のルールや常識では、無駄にかさばる抱き枕なんかそのまま処分してしまっている可能性もあります。
手元に戻らないかも知れないと覚悟しつつも、せっかく妹が私のためにゲットしてくれたグッズ。私は旧住所に直接行ってみることにしました。
念のため、住人宛に「お手数ですが引き取りに行くので電話下さい」と書いた手紙を書いた。
直接チャイムを押して、不在なら手紙をポストに入れておけばいいだろう。もしも住人と会えた時のために、手土産のお菓子も用意しまし。
いざ突撃!
……チャイムを鳴らすも、やはり不在のようです。住人が家に帰ってきたら確実に読んでくれるようにポストではなくドアに手紙を挟んで帰宅しました。
帰ってからふと気がつき、英語版の手紙も用意しようと、ニューヨークに住んでいる下の妹に添削を依頼しました。
下の妹には「そんなのニューヨークだったらとっくに捨てられれてるか転売されてるよ」と冷たくあしらわれて凹みますが、やるだけやってみようじゃありませんか。
その日は結局連絡はありませんでした。
迎えた2日目、部屋に突撃したところ、昨日ドアに挟んだ手紙がなくなっていたのです。
ということは、ちょうど長期不在から帰ってきたか、荷物を返すつもりはなくて無視しているか、日本語が読めなかったかのいずれか。
無視されているとしたら突撃するのは危険な気もしたが、女は度胸!とばかりにチャイムを鳴らしてみました。
しばらく待つも……
応答なし。
もう一度鳴らすも……
やっぱり応答なし。
これでダメなら諦めようと、英語版の手紙をドアに差し込んだ瞬間!
ドアが開いて住人と思われる東南アジア系の外国人男性が登場しました。
思わぬ不意打ちに、しつこくチャイム鳴らしたにもかかわらず、私は「ギャッ!」と叫んだ。
私の動揺が伝染したのか、男性は大きな声で「Sorry!! Sorry!!」と繰り返し、反射的に両手を広げて「撃たないでくれ」みたいなポーズを取った。
やばい、警察呼ばれたらどうしよう……
私はさらに焦って、無抵抗な相手の手に英語の手紙を押し付けるという意味不明な行動をしながら「No! No! No」と連呼。
近所の人はガサ入れだと思ったかもしれません。
ふと、玄関を見ると、ビニール袋に入ったももクログッズが、ほとんど未開封で置かれていました。
「これだ!」とばかりに私はそれを指差して、「This is me!」などと小学生のような英語とジェスチャーでアピールしたところ、相手はやっと落ち着いてくれました。
全然聞き取れなかったが、「長らく留守にしてて連絡できなかったんだ!ごめんよ」みたいなことを言っていたような気がします。
私はグッズの山を受け取り、お礼のお菓子を渡した。相手は「なぜ?」という顔をしながらも受け取り、じゃあねと手を振って別れました。
帰宅してグッズを開封し、ひとつずつ眺めてみた。苦労してやっと手に入れたグッズへの愛着はひとしおです。
今日からももクロと一緒に安眠できます。
ところが、このグッズには思いもよらない罠が仕掛けられていました。
開封した時から薄々思っていたのだが、長らく東南アジア系男性宅の玄関に置かれていたからだろう、抱き枕やクッションには、アジア雑貨店のようなお香の香りがばっちり染み付いていました。
それ以来、私はももクロの抱き枕を抱えるたびに「ムトゥ 踊るマハラジャ」が脳内再生されて全然眠れなくなってしまいました。