『6番目の世界』福島聡
最後の話の完成度がすごい
無軌道な日常、綻びゆく世界。叙情派が描く6つの世界は悲しみに満ちた喪失のリアリティー。無くした現実(セカイ)が此処に。絶後の読切集、ファンの期待に応えて電子化! 「箱庭王子」「花は桜木」「一日の楽天」「もう半分」「きいろとむらさき」「UFO」を収録。
6番目の世界 (HARTA COMIX)
福島聡の短編集。他の話はどれもピンとこなかったけれど1番最後の「UFO」がとてもよかったので買ってしまった。
収録されてる作品の年代がバラバラの短編集だとこういうことが多い気がする。デビュー作含めて初期はわりとドタバタしたコメディっぽいやつだったけどその後になると、ややシリアスになっていく。
「UFO」は奥さんを殺された主人公があるきっかけからその犯人に復讐に行くという単純極まりない話。単純な話なんだけど、主人公の淡々としつつもリアルな絶望が心に残った。短編集の他の話にあった「遊び」のようなものが極限まで削ぎ落とされているため、なおさら印象に残ったのかもしれない。
彼女は馬鹿だ と
誰かに言ってもらいたい
君はボクを残して
いなくなってしまった
殺されてしまった
君は馬鹿だ
殺されてしまった君は
世界一の馬鹿だ
そもそも
ボクを残して
死んではいけないのだ
「UFO」より
引用したのは、妻を失ったことで、壊れてしまった主人公のモノローグ。平べったい虚無感というか完全に心が「向こう側」に行っちゃってる人の心情が伝わってきて苦しくなる。
必要最低限の描写、台詞で平凡な復讐譚をドライに演出している。静かな話運びなのに次のページをめくるのに緊張感がある。ストーリー全体に独特の切迫感が充満している。
復讐を成し遂げたあとに、主人公は生前の妻との最後の会話を思い出す。タイトルである「UFO」のことなんだけど、それがラストの展開に繋がってくる。奥さんの仇を討って一件落着…みたいなスッキリする結末じゃない所が生々しかった。
復讐の前も後も、主人公の心は完璧に壊れてしまっていて、一部の隙もなく救われない話ではあるけど、心にめちゃくちゃ刺さって忘れられない。
今まで読んできた全ての短編漫画の中でベスト5に余裕でランクインする話なのだが、あまり知られてないようで悲しい。
映画「その夜の侍」が好きな人なら絶対に好きだと思う。これも妻を失った男の復讐にまつわる物語で、堺雅人の怪演が魅力的だった。
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