『パンティストッキングのような空の下』うめざわしゅん
「唯一者たち」は絶対読んだ方がいいこのマンガがすごい! 2017〈オトコ編〉第4位にランクイン!
不世出の天才、うめざわしゅん。
2001年~2015年にわたる傑作読み切りを9編収録。
心を抉る漫画表現の到達点。
パンティストッキングのような空の下
骨太の短編集。血の通ったネーム。内容が濃い。どうしようもないキャラクターたちが織りなす人間ドラマ。この人の作品はこれしか読んだことがないけど、かなり良かった。こんな才能がある作家なのにもっと世に知られてないとおかしい。タイトルは三上寛の「パンティストッキングのような空」という曲から。
特に1番最後の「唯一者たち」はズシンと来た。
ロリコンの主人公が、ままならない自分の性に悩む話。自分の性癖から子どもを傷つけてしまった過去があり、そのトラウマを抱えながら生きているフリーターの主人公と「主人公と同級生だった女子」が再会する。「人生の救い」を描いてはいるが説教くさくないし、泣ける。
昔自分が犯した罪に絶望し「なぜ自分は生まれてきたのか」と呟く主人公に同級生女子がサラッと言った一言が衝撃的だった。傷ついた心を癒す気の利いた一言でも、慰めるでもなく、自分の思ったことを素直に言った場面なんだけど、あまりに台詞力(ぢから)が凄過ぎて震えた。
この短編集の1番の見せ所だし、ここの見開きは、台詞も画もバチバチにハマってて、めちゃくちゃかっこよかった。
短編集のクライマックスを最後に持ってくるのは、正攻法の構成だけど、正直これが群を抜いて良過ぎて他の短編の印象が霞んでしまうくらい。
でも、この短編集全体を通して言葉の見せ方にこだわってる作家だなあと思った。1番良い台詞が1番良い見開きにあることで何倍も効果的になっている。
「唯一者たち」の主人公はロリコンで、メガネで太ってて秋元康っぽい感じで、精神を患っているどう見てもギリギリの人間なのに、読んでいるうちに、自然と感情移入をして辛くなってしまう。
「ダメな自分が嫌い」という思いは、生きているうちに誰もが抱えるものだと思う。それを少しだけ軽くしてくれるような読後感だった。
「唯一者たち」が結構ヘビーな話だけど、短編集の中では異色な方で、どうしようもないキャラが出るのは同じでも、もっとスラップスティックな作品が多い。
だからこそ、最後らへんの重たい話がボディブローのように効いてくる。
文学的なテーマなんだけど、映画でも小説でもなくて「漫画」じゃないといけない確固たる強度のある作品だった。