その恋は星にはならない
「……なぁ、一緒に逃げようか?」
「え……?」
冗談を言ってるのかと思って工藤くんを見上げれば、いつになく真顔だった。
「どうせ俺たち、このまま一緒にいても、君の両親から認められることなんてないんだ。だったら、このまま二人で駆け落ちしよう?」
たしかに、私の両親は工藤くんのことを良くは思ってなくて、工藤くんと付き合っていることも、誰にも告げてはいない。
小さな町ゆえ、どこから両親の耳に入るのか、わからないから、こうやって二人で逢瀬を重ねているのも、お互いの親しい友達も知らない。
「工藤くんとはずっと一緒にいたいけど、一緒にはいけないわ」
「マナ、どうして?」
「……二人で駆け落ちしても、きっと幸せになれる。でもね、やっぱり工藤くんとのことは、みんなに祝福されたいのよ」
それがどんなに難しいことなのかなんて、嫌と言うほどわかっているけれど、世界で一番好きなあなたと一緒にいる私は、世界で一番幸せな私でもありたいから。
「わかったよ。もう一度、マナの両親に頭を下げにいこうか」
「うん」
簡単なことじゃないからこそ、現実から目を逸らさない努力を、忘れずにいたい。
「マナ……」
「ん?」
工藤くんが指した夜空に輝くのは、オリオン座。
「アルミテスは愛するオリオンを殺めてしまって、すごく悲しんだ。それを見ていたアルミテスの父のゼウスが、オリオンを空に打ち上げ、星にしてくれたんだ。アルミテスとオリオンの愛は認められなかったかもしれないけど。俺は誓うよ。星になんてならないで、君の隣で君を守ることを」
「ありがとう。私も誓うね。絶対にあなたを殺したりしないって」
工藤くんがくすくすと笑う。
私たちは、空に輝く星じゃない。
この地に、足をつけて生きている人間なのだから。
認められるために、二人で歩いていくだけのこと。二人だけの道を。
fin
アルミテス
狩猟・清浄の女神。
多産をもたらす出産の守護神。
オリオン
海の神ポセイドンの息子。
ギリシアで一番の漁師。
参加しています。
2020.7.8