この恋を封印して #月刊撚り糸 (2022.2.7)
「バニラアイス、好き?」
「どうしたの、急に」
不思議そうな顔をした蓮は、きっと気づいてない。自分がもう、私を愛してはいないことに。
「私はね、チョコアイスの方が好きなんだ」
唐突にアイスの話をする私のことを、蓮は不思議そうに見つめる。
だけど、きっとそれはなんの意味も持たない言葉かのように、蓮の心の中を通り抜けていくだけ。
「真帆、変だよ」
「変なのは、私じゃなくて蓮の方だよ」
少し前だったら、髪型を変えても、マニキュアを変えても、蓮は気づいてくれた。
空っぽになってしまった、蓮からのプレゼントでもあるマスタード色のマニキュア。
それがもう私の指を飾ってないことに、蓮は気づいていない。
「ねぇ、窓閉めていい? 寒いだろ?」
ベッドから降りた蓮は、ブルッと身震いをしながら、開いていた窓に手をかけた。
「だめ。窓は開けたままにしておいて」
「寒くないの?」
「心ほど、冷え切ってないから」
蓮の背中に頬を寄せる。
こんなに愛していたのに、どうして届かないんだろう。
こんなに近くにあるのに、どうして離れているんだろう。
私たちがどんなに同じ夜を過ごしていても、私たちには同じ朝は訪れない。
きっとこれからも、蓮は私を本当の意味では、抱いてくれない。わかってしまったから、苦しくてたまらなかった。
「真帆? どうかした?」
「別れたいの」
「どうして? ついさっき、愛してるって言ってくれただろ?」
ベッドの中で呟いた言葉に、嘘はない。
「今夜、蓮に抱かれてわかったの」
「なにが?」
「蓮の心が、本当に求めているもの」
不思議そうに蓮は首を傾げた。
私は蓮の背中から離れると、さっき脱いだばかりのガウンを羽織った。
「満月が見てるよ。だからもう、帰って。もう二度とこの窓から見送らないから」
蓮は私の頭をポンと撫でると、さっと身支度を整え、なにも言わずに、出ていってしまった。
よかったのよね、これで。
蓮は、夏の夜にあのコンビニで見かけた彼女の元へ、行くかもしれない。
真実の恋を確かめに。
開けたままの窓を、ゆっくりと閉める。窓に映る自分の姿を見て、もう二度と蓮を愛さないと心に誓った。
このシリーズは連作となっています。よろしければ上記マガジンよりお楽しみください。
2022.2.7