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夢を叶えるブロッコリーの妖精 #同じテーマで小説を書こう

坂を登ると、すぐに大きな木の見える公園がある。
遊具も何もない、ただ大きな木だけのある公園は、近所の人たちからは、ブロッコリーの木のある公園と呼ばれている。
その木が巨大なブロッコリーに見える、というのが名前の由来らしいのだ。
確かにブロッコリーに見えなくもない。

そのブロッコリーの木がある公園に、誰かがいることはまずない。
見晴らしは良いのだけれど、とにかくそのブロッコリーの木以外、何もないのだ。
だけど、そのブロッコリーの木の下に座ると、とても静かな気持ちになれるのが好きで、私はいつもここでひとり、本を読むのが好きだった。

今日も変わらず、学校帰りにその公園に訪れ、木の下に腰を下ろす。
鞄から、読み途中の本を取り出すと、私は一気に自分の世界へと入っていった。

だいぶ日が落ち、本を読むことが無理になってくると、ようやく我に返る。
スマホを確認すると、ここに来てから1時間くらい経っていた。

「え、嘘、雨!?」

突然、勢いよく雨が降り出してくる。
今日の降水確率は、0%だった。
鞄には、折り畳み傘は入っていなかった。

不思議なことに、ブロッコリーの木の下にいると、まったく身体が濡れなかった。
上を見上げると、枝の間からちゃんと空が見えるのに、まるで傘をさしているかのように、雨は私のことを濡らさなかった。

「君、いつもひとりで本読んでるよね?」

不意に後ろから声をかけられる。
同い年くらいの男の子だった。
男の子は、木の幹にもたれかかっていた。

いつからそこにいたんだろう?
全く気づかなかった。
いつもってことは、前にも何度かここで私を見かけているってこと?
私以外の誰かと、ここで会ったこともすれ違ったことも、記憶にない。

「送るよ。傘、持ってないんでしょ?」

男の子はそう言うと、右手を空にあげ、ふわっと大きく円を描いた。
ブロッコリーの木が微かに光ったような気がした。そして、次の瞬間、まるで本物のブロッコリーのような形をした緑色の傘が、ゆらりゆらりと私の元に落ちてきた。

「ほら、行くよ、魔法が解ける前に」

男の子も私と同じ傘を持っていた。
男の子はそのブロッコリーの傘を持って、先に歩き出す。
傘は本当にブロッコリーのようなカタチをしていて、まるでブロッコリーがひとり歩きしているみたいだった。

「待って!」

男の子のことを、慌てて追いかける。
男の子は、私が追いつくと、自分の持っていたブロッコリーの傘を大きく空に放り投げた。
その傘は、空に消えて見えなくなる。
かわりに、私の持っていたブロッコリーの傘が、グンとひとまわり大きくなった。

「帰ろう」

私の持っていた傘を、男の子が持ってくれる。

「あの、あなたは?」

聞いちゃいけない気がした。だけど、聞かずにはいられなかった。

男の子はにっこりと微笑む。

「雨が止んだら見えなくなる、ブロッコリーの妖精」
「え? なにそれ」

思わず笑ってしまう。
でも、男の子の持つ傘は、本当にブロッコリーのようで、私はただ男の子の隣を歩きながら、雨音を聞いていた。

「君、小説家になりたいんでしょ?」
「なんで、知ってるの?」

男の子は意味深に笑う。
私の夢は、誰にも話したことがない。親にも友人にも。
ただ心の中で思い浮かべ、妄想したものをWEBに発表するだけの毎日だった。

「君ならなれるよ、きっと」

男の子がブロッコリーの傘を大きく空に放り投げる。
雨はいつのまにか止んでいて、ブロッコリーの傘はあっという間に見えなくなった。

「あの、」

男の子の方を見ると、さっきまですぐそこにいたはずなのに、姿が見えなくなっていた。
あたりを見回しても、隠れるような場所もないし、走り去った様子もない。
本当に忽然と姿が消えてしまった。

スマホからメールが届いたというお知らせが鳴る。
そのメールを開くと、先日応募した小説が、大賞に選ばれたとのお知らせだった。

「嘘!」

思わず声をあげてしまう。
まさか、選ばれるなんて、夢みたいだ。
今まで、何にも選ばれたことがない。ただの一度だって。

男の子の言葉を思い出す。
空を見上げると、大きなブロッコリーのようなカタチをした雲が、優しく私を見下ろしていた。

fin


杉本しほさんのこちらの企画に参加しています。

絶対書けないと思っていたネタでした。
ありがとうございます。


2020.4.18

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百瀬七海
いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。