夢を抱く夜 #クレイジータンク
ずっと、小説家になりたいと思っていた。
初めて小説を書いたのは、まだ中学生のときのこと。
なんの経験も積んでない、子供の書いたお話。
でも、そのときにはそのときにしか書けないお話がある。
それは大人になっても同じこと。
経験をするって、すごく大きなことなんだと思う。取材では絶対にカバーできないのが経験だ。
なんだってそう。経験を積むことには、それだけの重みがある。
だから、そのときにはそのときにしか書けないお話があるように、その人にしか描くことのできない世界もある。
ケータイ小説全盛期に、書くことを始めた。
たくさんのコンテストがあり、たくさんの人がいろいろな世界を描いていた。
少しずつ書き続けること。私にできる確かなことを続けていくことで、読んでくださる方も少しずつ増えていった。
好きだと言ってくださるファンの方も増え、書くことが楽しくなった。幸せだった。小説家になりたいのだと、自覚するまでは。一冊の本を出したいと思うまでは、楽しかった。
だけど私は妄想の世界の中だけでは生きることはできない。
現実の世界をしっかりと生きること。その合間にしか時間は取れない。
1日が24時間しかない中での執筆作業。
仕事もし、最低限の生活時間を守っても、時間は限られている。
私の周囲では、夢を叶えて小説家になる人もたくさんいた。
同時に、書くことを諦め、離れていく人もたくさんいた。
書くことは生きること。
描くことは夢見ること。
小説家になりたいと思いながら、私はどこかでずっと諦めてきた。
私には、夢を叶えることができない自分自身を、支えるだけの心の強さがない。
コンテストに落ちるたびに、心がザックリと大きな刃物で切られる。
何度も、何度も。
ダメじゃないことはわかっている。ダメじゃないんだ。ダメなのとは違う。
でもそのたびに折られた心は、どんな言葉でも完全には癒してくれない。
たくさんの言葉に救われてきたけれど、積み重なった傷は、元通りにはならない。
書くことが辛くなった。でも嫌いにはなれなかった。
小説家になるのに、やっぱり近道はコンテストに挑戦し続けることなのだと思う。
だけどもう、私にはその気力は残っていない。心を削って、限界まで削ぎ取って、書くことを嫌いになる覚悟を持って、それでダメだったとき、私はこのnoteの街にいることすら、できなくなってしまうかもしれない。
そこまでして、私が守りたいものってなんだろう?
そうやって生み出したものに、「百瀬七海」は残っているのか?
書くことを好きでいたい。
強く強く、そう思う。
抱えてきた想いを、大切に大切に紡いでいきたい。
私がなりたかったのは、いつか忘れられてしまう、小説家じゃない。
いつまでも、誰かの心にそっと寄り添う言葉を残せる、ただの「百瀬七海」という作家だ。
noteの街でも、私のことを知らない人がほとんどだと思う。これを読んでくれるのも、きっとごく一部のフォロワーさんくらいだ。
書いても書いても、読まれなくて、落ち込むこともある。
いろんな人の書いたものを読むことで、私にはない才能や世界観を知り、落ち込むこともある。
人望も才能のひとつだ。愛されることも才能だ。
私にはないものばかりの世界。
それでも、少しずつ書き続けたいと思う。
いつかきっと、誰の代わりにもなれない、そんな「百瀬七海」であり続けたいと思う。
noteの世界に出会えたから、ここで書き続けることで、私は今日も「百瀬七海」でいることができる。
これからもきっと、たくさんの小説を書いていきたいし、素直に自分の心を綴っていきたいとも思う。
そうやって書き続けていくことで、また何度も壁にぶつかるだろう。
悩み、もがき、葛藤し、落ち込み、逃げ出したくなることも、きっとあるだろう。
だけどそれでも私は、「百瀬七海」であり続けたい。
そのときに感じた確かな想いを、言葉にし続けたい。
その中で小説を書き、世界を描き、想いを紡ぎ、言葉を綴る。
毎日、どんな瞬間だって、「百瀬七海」であり続けたいのだ。
少なくてもコンテストに追い立てられていたあの頃よりは、私は「百瀬七海」らしく世界を描くことができている。
読まれることが目標だった頃の私は、ちゃんと自分の世界を描けていなかった。
「百瀬七海」でいる意味をちゃんと考えることができていなかった。
私は私のままでいい。
誰にも描くことのできない、私だけの「百瀬七海」の世界を守ればいい。
涙が笑顔にかわる。
書くことが辛くなったとき、書くことに悩んだとき、こうやって想いを言葉にすることで、確かに救われる。
書き始めたときは、泣きながら言葉を選んでいたけれど、今は心が少し軽くなって、涙が笑顔にかわった。
幾千の夜を抱きしめ、たったひとつの朝を迎える。
こちらの企画に参加しています。
2020.2.29
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