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極上のプリンよりも格別な秘密 #文脈メシ妄想選手権

「やっぱり、金曜日のビールは格別だな」

バスルームから出てきた准が、冷蔵庫から缶ビールを取り出して、歩きながらプルタブを開ける。
准がゴクゴクと喉を鳴らしビールを飲む。私はその彼の喉仏をじっと見つめた。
准にとっての金曜日のビールがご褒美なら、私のご褒美は准の喉仏をこっそり見つめることだ。もちろん、そんなことを准に言ったことはない。話そうものなら、絶対に私のことを変態扱いするに決まっている。

「由真は飲まないのか?」
「うん、私はやっぱりビールよりも」

立ち上がって、冷蔵庫の中からプリンを取り出す。
准の喉仏と同じくらい、私を癒してくれる、金曜日のスイーツだ。

「由真は本当に好きだよな」
「うん、大好き」

思わず笑顔が溢れる。プリンって、正義だと思う。スーパーで売ってる安いプリンも充分美味しいし、ケーキ屋さんなどの高級なプリンもとても美味しい。金曜日は、会社の近くの有名なケーキ屋さんのプリンって決めている。1週間のお疲れ様プリンは、贅沢したいんだ。

「俺さ、ビールも好きだけど、由真が大好きなプリンを食べてる無防備な表情が、たまらなく癒されるんだよね」

准は、そう言いながら私の隣に腰を下ろす。いつもの距離なのに、ドキドキしてしまうのは、准が余計なこと言ったからだ。そんな風に見られていたなんて、恥ずかしすぎる。
隣でまた、ビールをゴクゴク飲む准。
音だけでは満足できなくて、横を向いた。

ゴクリとビールを飲み込んだ瞬間、動く喉仏。
目が離せないでいると、准がニッコリと意地悪な笑みを浮かべている。

「もしかして、由真、俺がビール飲んでる表情、好きだったりする?」

ビールの缶をテーブルに置いて、頬杖をした准がまっすぐに私を見つめる。
最後のひとくちのプリンを食べて、私は准の方へと身体ごと向き直った。

「そうでもない」

そう言いながら、私は准に缶ビールを手渡し、准の喉仏に触れる。缶の中身は、もうほとんど残っていなかった。
准が私を見つめながら、最後のひとくちのビールをゴクリと飲み込む。
喉仏の動きをこの手で感じていると、准がクスリと笑った。

「表情じゃなくて、まさか喉仏だったとはな」
「だって、美味しそうに動くんだもん」

金曜日のご褒美は、美味しいプリンと准の喉仏。
ごちそうさまでした。


fin

上記の企画に参加しています。

2020.5.3

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