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チョコの誘惑

バレンタインデーといえば、チョコレート。
ショッピングモールには、特設のバレンタインコーナーが設けられ、多くの人がチョコレートを選んでいる。
その中には手作りキットなるものも多く存在し、義理や感謝チョコを選ぶ人も多ければ、本命に何をつくるか悩んでいる人も多いだろう。

バレンタインデーの一番の想い出といえば、気になる彼にチロルチョコをあげたことだ。
彼が、なんとなく好意を寄せてくれていることは知っていた。だけど、明確に言葉をプレゼントされたわけじゃない。それに、ダメだったときに気まずくなるのも避けたかった。あくまでも、みんなと一緒に、というスタンスを守るには、そのときのベストな選択がチロルチョコだった。

たくさんのチロルチョコをポケットに忍ばせ、会う人にふたつくらいずつ渡していく。
チロルチョコなら、みんな気軽にもらってくれる。もちろんそれも狙いだった。

彼に普通に話しかけられた朝、みんなと同じようにポケットからチロルチョコを取り出す。彼は嬉しそうに受け取ってくれた。

昔から、なるべく自分で直接渡すことを目標としている。付き合っているふたりなら、それは難しくないけれど、片想いの相手、しかも本命チョコを渡すとなると、周囲に気づかれないようにしなければならなくて、それが最大の難点だ。だって、呼び出そうものなら、雰囲気で半分告白しているようなもの。呼び出すことだって、難易度が高い。

そのとき私は、教室の一番後ろの席だった。
その彼は、ひとつ前の席。
朝のホームルームが始まる、ざわつきから静けさが戻るほんの一瞬がある。そこは先生が入ってくるから、みんなの注目が完全にそっちに逸れる瞬間だ。
私は彼の肩を叩き、振り向いた彼に堂々とチョコレートを手渡した。

今年は日曜日ということもあり、義理や感謝チョコの準備をしなかった。リモートで会う機会がないからと、今年はチョコの売れ行きが良くないと聞いたけれど、日曜日だからという要因も充分あると思う。
人数分のチョコを用意すると、気を遣わせない程度の金額であることも重要なのだけれど、自分がひとりあたりにかけられる金額もかなり少ない。特設コーナーができたタイミングで購入しなければ、そういった安くて見栄えの良いものはすぐなくなってしまう。

お返しは基本的にいらない。気を遣われたくないから、できるだけ安いものにしているのに、申し訳なくなってしまう。感謝を伝えているものなので、「ありがとう」の一言で充分なのだ。でも、残念ながら、その一言を添えてくれる人は、きちんとお返しをくれるし、その一言すらない人は当然お返しもない。

とにもかくにも、今年はこのイベントがなくてホッとしている。


2021.2.12

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百瀬七海
いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。