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雨に濡れる想い #月刊撚り糸 (2021.10.7)
「明後日は雨だって」
そう言って、蓮のことを見つめた。
ピリピリとしていた空気が一転、静かに流れ始める。
「そうなの?」
蓮の胸板をぐっと押した私は、蓮を押し退けてベッドから起き上がった。
「雨だと出かけられないから、やることはひとつね」
結んでいた髪の毛をほどいた私は、蓮の方を振り返る。
「やることって?」
「さぁ、なんでしょう」
明後日、蓮が約束をしているのは、杉野真帆だ。偶然に見てしまった真帆の手帳。明後日の日付に書かれていた、蓮の名前。
真帆は、私の気持ちを知っていて、この部屋で蓮と逢引をしている。
もしかしたら、真帆は私にわざと手帳を見せてきたのかもしれない。自分が蓮と密会を重ねていることを、私に気づかせるために。
「さっきの話」
「え? なんだっけ?」
「杉野真帆さん、確かに隣の人、そんな名前だったよね」
「あぁ、その話」
蓮が戸惑っているのがわかる。私はそんな蓮の手を握った。
「本当は、好きになったんでしょう? お隣の杉野真帆さんのこと」
蓮は私にだけは、嘘を吐けない。
「好き、かもしれない」
ジンクスは破れなかったってわけか。
でも、私はどんなことをしても蓮が欲しい。
蓮が、真帆という名前の女性を好きになるたびに、自分の心が抑えられなくなっていく。
「明後日は雨だって」
もう一度言うと、今度は蓮が窓の外を見つめた。
「明後日は、杉野真帆と会うんだ」
「そう」
惹かれ合うふたりは、この部屋で肌を寄せ合いながら、シトシトと降る雨を見つめるんだろうか?
そのときに、蓮が一瞬でも私を思い出して、胸を痛めてくれればいい。
「今度は、オレンジ色の傘を買うわ」
「どうして、オレンジ色?」
「大切な人が、ちゃんと私を見つけてくれるように。どんな土砂降りの雨の中でも」
このまま時間が止まってしまえばいいのに。
もう、蓮をどの彼女たちのところへも、行かせたくない。
このシリーズは連作となっています。よろしければ上記マガジンよりお楽しみください。
2021.10.7
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