17の夏、君の背中に恋をした
「手作りのものを持ちよって、パーティーしようよ」
「いいな、それ!」
そう言いだしたのは綾で、その提案に真っ先に賛同したのは、綾が片想い中の貴史だった。
それに同意するように、私と奏太が顔を見合わせると、綾と貴史も嬉しそうに顔を見合わせた。
私たちは、来月高校を卒業する。
バスケ部だった奏太と貴史。
私と綾は、マネージャーだった。
部員みんな仲がよかったけれど、特に私たち4人はいつも一緒だった。
部活動を引退しても、時間があれば教室で勉強したり、語り合って過ごしていた。
そんな私たち4人の青春の日々も、もうすぐ終わる。
この4人で会う時間が減ることも、奏太に会うことができなくなることも、考えるだけで、胸がぎゅっと締め付けられた。
綾と貴史は、周囲から見てもなぜ付き合っていないのか?とわかりすぎるほど、お互いのことを思い合っていた。
だから、余計に私と奏太が2人のことを気にかけ、なにかと2人になることが多かった。
そしてそれは、自然に恋心へと変わっていく。
卒業式が終わってしまえば、私たちはそれぞれの道を歩く。
もう今までのように簡単には会えないだろう。
まだ進学先が確定していない貴史のこともあり、卒業式後のパーティー以外の約束はせずに、綾や貴史と別れる。
駅までの道のりを奏太と2人で歩いていると、奏太がポツリと呟いた。
「優香は何を持っていく?」
「どうしようかな」
言い出しっぺの綾は、料理もお菓子作りも得意だった。
クリスマスや誕生日など、みんなでパーティーを開くときは、綾の家で綾の作った料理やお菓子を食べることばかりで、私たち3人がやることは、飾り付けや飲み物、プレゼントの買い出しなどの雑用ばかりだった。
「手作りって言ってもなぁ、綾が作らないものなんて想像できない」
綾はそれこそいつも作りすぎだっていうくらいたくさんの料理やお菓子を作ってくれる。
多分、今度の卒業パーティーだって同じだろう。
「作り出したら、綾もいろいろ頑張っちゃうからね。だから、絶対に作らないものを作らないといけないよね」
かといって、綾が作らないものなんて、思いつかない。
「なぁ、一緒にアルバムでも作らないか?」
「アルバム?」
「そう。俺たちのアルバム。ほら、俺、結構いろんな写真持ってるし、手作りのものが食べ物じゃなくてもいいんじゃないか?」
確かにそれはそうだ。
綾だって、奏太や貴史が何か料理を作ってくるなんて、期待していないだろう。
昔からバスケと同じくらいカメラが好きだった奏太は、合宿や練習の合間にも、よくカメラでみんなのことを撮影していたっけ。
それが一冊のアルバムになったら、それはとても素敵だと思う。
「いいと思う。私も奏太の作ったアルバム、見てみたい」
「何言ってんだよ。優香も一緒に作るんだよ」
「いやいや、私は写真なんて撮ってないし」
写真を撮ることは得意でもないし、こういう役目はいつも奏太だったから、一緒にアルバムを作れるほど、写真なんて持ってない。
ふるふると首を横に振ると、奏太がぽんと私の頭を撫でた。
「優香には、俺の撮った写真に、キャッチコピーをつけてほしいんだ」
「キャッチコピー?」
「あぁ。優香は、ライターを目指してるんだろ?」
奏太に夢のことを話したことなんて一度もないのに、私の夢を知られてると思うと、恥ずかしくて一気に頬が熱くなった。
「なんでそんなこと、知ってるの?」
「優香のことで、俺が知らないことは、たったひとつだけだ」
「ひとつだけ?」
求めていたのとは違う答えだったけれど、その『ひとつ』がなんなのか、気になって仕方がなかった。
「そう、たったひとつ」
そう言いながら、奏太は鞄から手帳を取り出し、そこに挟んであった一枚の写真を私に手渡した。
「どうしたの、これ」
そこに写っているのは、浴衣姿の私だった。
斜め後ろ姿だったし、こんな写真を撮ってもらった記憶もないことを考えても、奏太の隠し撮りだろう。
でも、この日のことはなんとなく覚えている。
4人で花火大会に行った日だ。
時間より少しだけ早く待ち合わせ場所に着いて、心細くて近くに咲く向日葵の花を見ていたときの写真。
「この写真にキャッチコピーをつけるとしたら、なんてつける?」
「いやいや、わからないよ」
こんな写真をどうして奏太が持っているの?
それは、『ひとつ』と関係があるの?
「17の夏、君の背中に恋をした」
「え?」
「俺、この日、優香に恋をした。だから卒業してもずっと、俺は優香に恋をしていたい。俺がたったひとつわからないのは、優香の気持ちだ」
奏太が私のことを!?
顔をあげると、奏太が私の大好きな顔で微笑んだ。
「一緒に作ろうよ、想い出のアルバム。俺の彼女として。ダメかな?」
「だったら、そのアルバムの最後はこれで」
スマホを撮り出し、自分たちに向け自撮りする。
「これからもずっと一緒にってタイトルはどう?」
奏太は頷くと、優しく抱きしめてくれた。
fin
いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。